- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- バイデン撤退はありえるか?
- 要旨
-
- 6月27日の第1回テレビ討論会において高齢懸念が強まったことを背景に、バイデン大統領の選挙戦撤退を求める声がリベラル系メディアから浮上している。一方、バイデン大統領や民主党重鎮はこうした撤退論に否定的な見解を示している。
- バイデン大統領は既に民主党予備選に勝利しているため、自ら撤退を表明しない限り、バイデンvs.トランプという2024年大統領選の構図は変化しない。バイデン氏の支持率が急落すれば状況は一変するとみられるものの、現状では選挙戦撤退を促すうえで一定のハードルがある。
- まず、テレビ討論会のパフォーマンスが良くなかったことはバイデン氏自身も認める一方、一部の無党派層は「トランプ氏が真実を話していない」と捉えている。現時点では支持率に明確な影響が見られていないため、討論会を「バイデン完敗」と評価するのは必ずしも正確ではない。
- 次に、過去のテレビ討論会と選挙結果の関係を見ると、初回討論会の圧倒的劣勢を挽回した候補は複数存在する。投票日までに高齢懸念を払しょくするのは難しいとの見方が多いものの、バイデン陣営は「まだ逆転可能」と希望的観測を抱いている可能性がある。
- 最後に、仮にバイデン氏が撤退する場合においても、新たな大統領候補が民主党を挙党一致体制にまとめ上げ、トランプ氏に勝利できるかは不透明である。バイデン氏が選挙戦で苦戦を強いられるのは間違いないが、代替候補が民主党にとっての最善策との保証はない。
バイデン撤退論が浮上
6月27日のテレビ討論会において高齢懸念が強まったことを背景に、バイデン大統領(81)の2024年大統領選からの撤退を求める声がリベラル系メディアを中心に浮上している。バイデン氏が言葉に詰まる場面を見せるなど精彩を欠いたため、討論会終了後には「民主党はパニック状態にある」と一部メディアが報じた。翌28日にはリベラル系メディアであるニューヨーク・タイムズが「国のために、バイデン大統領は選挙戦から撤退すべき」との社説を掲載し、大きな注目を浴びた。
しかし、現時点において、バイデン撤退に向けた動きは必ずしも民主党内で強まっていない。ペロシ元下院議長はトランプ氏の不誠実さを指摘したうえで、「1回の討論会で判断すべきではない」とバイデン氏を擁護した。この間、下院民主党トップのジェフリーズ院内総務、バイデン陣営の選対幹部であるクーンズ上院議員、黒人のクライバーン下院議員などもバイデン氏を支持する姿勢を維持している。また、バイデン撤退論を払しょくすることを狙い、民主党全国委員会は党大会前(8月19-22日)の7月21日にバイデン氏を正式な大統領候補として指名することを検討している(注1)。
バイデン大統領は29日の選挙資金集会にて「あまり良い夜ではなかった」とテレビ討論会の苦戦を認めたものの、11月の本選ではトランプ氏に勝利すると述べるなど、現時点では選挙戦を継続する意向を示している。30日にはジル夫人や次男のハンター氏といった親族もバイデン氏の選挙戦継続を後押しした模様だ(注2)。民主党の予備選は既に終了しており、民主主義的なプロセスでバイデン氏が選出されたことを踏まえると、民主党関係者の多くが撤退を適切と考える場合でもバイデン氏の指名を阻止することは難しい。このため、バイデン氏が自ら撤退を表明しない限り、バイデンvs.トランプという2024年大統領選の構図は変化しない可能性が高い。
なお、今後の選挙戦を占う上での以下の3つの疑問を巡って、撤退を求めるリベラル系メディアや一部の民主党員、及び選挙キャンペーンを続ける意向のバイデン陣営の間には見解の相違があるようにみられる。バイデン陣営が楽観的な観測を抱いている場合、現時点では同氏の撤退を促すには一定のハードルがあるだろう。とはいえ、短期的にバイデン大統領の支持率が急落するなど、「トランプ氏を逆転する」見通しが限りなく低下する場合には状況が一変する可能性もある。
バイデン氏は討論会で「完敗」したのか?
538/Ipsosが討論会前後で実施した世論調査では、全体の60%はトランプ氏が討論会に勝利したと回答しており、バイデン氏勝利との見方は21%に留まる(図表1)。今後の選挙情勢の鍵を握る無党派層に関しても、トランプ氏勝利が62%、バイデン氏勝利が13%と全体と大きな違いはない。特にバイデン大統領が咳込んだり言葉に詰まったりしたことで高齢懸念が強まっており、バイデン氏が大統領選に出馬すべきではないとの意見が全有権者で72%(2月時点:63%)、民主党支持者でも46%(同、36%)へと共に上昇している(CBS/YouGOVによる討論会後の世論調査)。
とはいえ、討論会の評価を項目別にみると、有権者によるトランプ氏への懸念も垣間見られる。トランプ氏が「考えを明確に示す」や「自信を抱かせる」といった項目でバイデン氏を圧倒する一方、「政策案を説明する」では両者の差が縮まることに加えて、「真実を話す」ではバイデン氏の方が評価は高い。実際、バイデン氏がその内容よりもプレゼン力で評価を大きく落とす一方、トランプ氏はマイノリティ政策や社会保障政策等の個別論点に関してもバイデン政権の失政(特にインフレ・雇用・移民を巡る問題)を強調するなど、具体的な解決案を示さなかった。また、CNNはトランプ氏が討論会の広範なテーマ(外交・税制・妊娠中絶・議会襲撃事件など)に関して少なくとも30件の虚偽の主張をしたと指摘している(バイデン氏は少なくとも9件の虚偽を主張;注3)。
この結果、討論会直後の世論調査では両者の支持率に有意な変化はみられていない。例えば、538/Ipsosの世論調査に基づくと、投票先の候補としてはバイデン氏が46%(討論会前:同、44%)、トランプ氏が44%(同、44%)と概ね横ばい圏の推移となっている(バイデン氏の支持上昇はサンプル数の違いなどが影響している可能性)。このため、バイデン氏が討論会で敗れたのは確かだが、それが無党派層の投票行動を決定づけるほどの敗北であったかには議論の余地がある。トランプ氏の問題点も同時に露呈したのであれば、民主党重鎮のペロシ氏が指摘するように一つの討論会のみでバイデン氏を見限る材料にはならないだろう。とはいえ、こうした世論調査は討論会直後に実施されており、討論会を一切見ていない有権者が約2~3割含まれることを踏まえると、討論会の影響が現れるまでに一定のラグがある可能性には留意が必要だ。

バイデン氏の逆転は不可能なのか?
バイデン氏が第1回討論会で苦戦を強いられたことを巡って、オバマ前大統領は「ディベートで失敗することはある」と自身の経験も踏まえて擁護した。実際、2012年大統領選挙に向けた第1回テレビ討論会では、視聴者の67%が共和党・ロムニー氏の勝利を指摘し、再選を目指したオバマ氏を評価したのは全体の25%に留まった(図表3)。しかし、同氏はその後2回の討論会では良好なパフォーマンスを示したほか、10月下旬に襲来したハリケーン「サンディ」の被災地対応が評価されたこともあり、最終的に再選を果たしている。その他の歴代大統領選における第1回テレビ討論会のパフォーマンスを見ても、2016年のトランプ氏(討論会後の世論調査:クリントン勝利:62% vs.トランプ勝利:27%)、2004年の共和党・ブッシュ氏(ブッシュ勝利:37% vs.ケリー勝利:53%)、1984年の共和党・レーガン氏(レーガン勝利:35% vs.モンデール勝利:54%)など、序盤の劣勢を覆した大統領候補は複数存在する。特に1984年大統領選を巡っては、再選を目指したレーガン氏が第1回討論会で精彩を欠くなど、73歳という高齢で大統領任期の2期目に入ることに懸念が浮上したものの、第2回討論会では「私は年齢を争点にしない。対立候補の若さや経験のなさを政治利用しない」と述べ、本選では民主党候補のモンデール氏に大勝した。
バイデン氏の選挙陣営はこうした過去の事例を踏まえて、トランプ氏に対して「まだ逆転可能」との希望的観測を抱いている可能性がある。とはいえ、バイデン氏の年齢問題は従前から根強く懸念されてきたものであり、第1回討論会でそうした疑念が強まったことを踏まえると、バイデン氏が今後の選挙戦で苦戦を強いられるのは避けられそうにない。討論会後も無党派層がトランプ支持を明確にしたわけではない可能性がある一方、高齢懸念がバイデン支持を躊躇する強い要因になっている可能性は高い。

バイデン氏よりも勝つ見込みの高い候補はいるのか?
最後に、バイデン氏がトランプ氏に勝てる望みが薄いために撤退論が浮上する一方、民主党の代替候補の方がトランプ氏に勝利する確度が高いかは不透明である。バイデン撤退後の正当な後継者はハリス副大統領と考えられるものの、同氏の支持率はバイデン氏よりも低い状況にあるなど、課題が山積する移民問題を担当していることを背景に人気があるとは言い難い。ハリス氏以外ではカリフォルニア州のニューサム知事、ミシガン州のホイットマー知事、レモンド商務長官など複数の候補者名が挙がるものの、選出された候補が(ハリス氏への対応を含めて)党内を挙党一致体制にまとめ上げられるかには懸念が残る。そもそも、こうした有力候補は大統領選挙における予備選(全米レベルでの選挙活動)への参加経験のない者が多く、投票日まで5か月という短期決戦を求められることも踏まえると、期待感で先行する代替候補がバイデン氏よりも上手く選挙戦を戦える保証はない。テレビ討論会の結果はバイデン大統領が選挙戦で苦戦を強いられることを示唆する一方、現段階の民主党にとって代替候補が最善策かどうかを巡っては議論の余地がある。

【注釈】
-
ブルームバーグ「バイデン氏の正式候補指名、米民主党が前倒しを検討-大統領選」(2024/7/2)
-
CNN「米大統領一家、バイデン氏の選挙戦継続促す 側近の更迭も検討」(2024/7/1)
-
CNN「Trump made more than 30 false claims during CNN’s presidential debate — far more than Biden」(2024/6/28)
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

