ニュージーランド中銀、タカ派姿勢強調でNZドル相場はどうなる

~利上げの検討や利下げ後ろ倒しにより物価抑制に注力の姿勢、金利差が意識されやすい展開か~

西濵 徹

要旨
  • ニュージーランドでは過去3年以上インフレが中銀目標を上回る推移が続く。中銀は物価と為替の安定を目的に累計525bpの利上げに動く一方、商品高や米ドル高の一巡を受けて一時30年ぶりの高水準となったインフレは頭打ちしてきた。しかし、1-3月のインフレ率は前年比+4.0%と中銀目標を上回る水準に留まり、サービス物価などでインフレの粘着度の高さがうかがえる。一方、昨年後半の景気はテクニカル・リセッションに陥り、雇用環境も頭打ちするなど物価抑制に繋がる動きもみられる。こうしたなか、中銀は22日の定例会合で7会合連続の金利据え置きを決定するも、議事要旨で利上げの可能性を議論したことを明らかにした。政策金利見通しを上方修正して利下げ開始時期を後ろ倒しするなど、あらためて「タカ派」姿勢を示した。NZドル相場は米ドルに対しては今後も米FRBの見方に揺さぶられる展開が見込まれる一方、日本円に対しては政策の方向性の違いによる金利差を着目して堅調な動きが続く可能性が高まっている。

ニュージーランドでは、過去3年以上に亘ってインフレ率が中銀(準備銀行)の定めるインフレ目標の上限を上回る推移が続くなどインフレが長期化している。ここ数年の商品高の動きや国際金融市場における米ドル高を受けた通貨NZドル安による輸入インフレに加え、コロナ禍一巡による景気回復の動きも追い風にインフレが上振れしてきた。さらに、中銀はコロナ禍対応を目的に異例の金融緩和に舵を切ったものの、インフレに加えて金融市場における『カネ余り』も追い風に不動産市況は急上昇するなどバブルの懸念が高まったため、2021年10月以降断続利上げに動いた。ただし、その後もインフレが高止まりしたため中銀は累計525bpもの利上げに動いて不動産市況は鎮静化する一方、商品高や米ドル高がインフレ昂進を促す展開が続いた。なお、一昨年以降の商品高と米ドル高の一服を受けて一時は30年ぶりの水準に昂進したインフレ率は頭打ちに転じたものの、直近1-3月も前年同期比+4.0%、コアインフレ率も同+4.1%とともに中銀目標(1~3%)を上回る推移が続いている。また、足下では食料品やエネルギーなど生活必需品のみならず、非貿易財やサービス物価に上昇圧力がくすぶるなどインフレの粘着度の高さを示唆する動きが確認されており、インフレが鎮静化していると判断するのは早計と捉えられる(注1)。その後の物価を巡っても、異常気象の頻発による農業生産の低迷が長期化するなかで食料インフレ圧力が掛かる展開が続いているほか、昨年後半以降の中東情勢を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格の底入れでエネルギー価格の上昇圧力が強まるなど、生活必需品を中心とする物価上昇の動きが続いている。他方、昨年後半の同国経済は物価高と金利高の共存に加え、世界経済、とりわけ最大の輸出相手である中国経済を巡る不透明感の高まりも影響して2四半期連続のマイナス成長となるテクニカル・リセッションとなるなど、景気低迷にも拘らず物価上昇が続くスタグフレーションに陥っている。こうしたなか、足下の雇用は拡大ペースが鈍化するなど底入れの動きに陰りが出るとともに、民間部門における賃金上昇ペースも鈍化するなど労働需給のひっ迫緩和を示唆する動きが確認されている。このように先行きの物価を巡っては上下双方に影響を与える材料が混在する状況にあるなか、中銀は22日の定例会合において政策金利(OCR)を7会合連続で5.50%に据え置く決定を行っている。会合後に公表した声明文では、足下の物価について「輸入インフレ圧力の後退やサービス物価の緩やかな鈍化を反映している」一方、「サービス物価の鈍化ペースは緩やかなものに留まるなかで利下げ期待は後退している」とした上で、労働市場を巡って「圧力は緩和しており、賃金の伸びと国内支出はインフレ目標に一段と一致する水準に緩和しつつある」との見方を示す。ただし、物価動向について「金融政策の動向を受けにくい分野(家賃、保険料、地方税など)がインフレ期待へのリスクとなっている」として、政策運営について「適切な期間のうちにインフレが確実に目標域に回帰すべく引き続き抑制的な水準に留める必要がある」と引き締め姿勢を維持した理由を挙げる。なお、同時に公表した議事要旨においては「インフレの粘着度や生産性の低迷、賃金と価格設定行動の正常化に関する不確実性を理由に今回の会合での利上げの可能性を議論した」ほか、政策運営について「理事会はインフレ目標の実現には2月会合時点の想定に比べてより長期に亘って政策金利を抑制的な水準に維持する必要がある可能性に同意した」として、引き締めスタンスの長期化を示唆する考えを示した。会合後に記者会見に臨んだ同行のオア総裁も、「物価が予想外に上振れする余地が限られている」としつつ「インフレ期待の低下は望ましいがさらなる低下が必要」、「インフレの低下には時間を要する」とした上で、今回会合について「利上げを真剣に議論した」と述べるなど『タカ派』姿勢をあらためて強調した。金融市場においては、上述のように昨年後半以降の同国経済がテクニカル・リセッションとなるなかで物価上昇が続くスタグフレーションに陥っていることを理由に中銀が早期の利下げを迫られるとの見方が根強い。しかし、昨年の総選挙後に発足したラクソン政権の下で中銀が金融政策を通じて担う責務は物価抑制のみに変更されており、今回の会合を通じて中銀がタカ派姿勢を強調したことは物価抑制への力強い姿勢をあらためて示したものと捉えられる。通貨NZドル相場を巡っては、米FRB(連邦準備制度理事会)によるタカ派姿勢が長期化するとの見方が重石となってきたものの、足下では政策運営に対する見方が変化して底入れしているが、引き続き米FRBの動きに左右される展開が続くと見込まれる。他方、日本円に対しては中銀がタカ派姿勢を示す一方で日本銀行の『次の手』が不透明であるなど金利差が意識されやすい環境が続くなかで、比較的堅調な動きが続く可能性は高まっていると判断できる。

図1 インフレ率の推移
図1 インフレ率の推移

図2 雇用環境の推移
図2 雇用環境の推移

図3 中銀による政策金利(OCR)の見通し
図3 中銀による政策金利(OCR)の見通し

図4 NZドル相場(対米ドル、日本円)の見通し
図4 NZドル相場(対米ドル、日本円)の見通し

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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