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利下げ開始に近づくBOE

~タカ派委員が利上げ主張を撤回~

田中 理

要旨
  • 3月MPCは、タカ派委員の利上げ主張撤回、利下げ開始に近づいているとの総裁発言、継続的な利下げを示唆する文言追加など、BOEのハト派傾斜を確認。8月利下げ開始をメインシナリオと置くが、6月の利下げ開始も排除できなくなってきた。

英イングランド銀行(BOE)は21日に終わった3月の金融政策委員会(MPC)で、8対1の賛成多数で政策金利を既往ピークの5.25%に据え置いた。ハト派のディングラ委員が2月のMPCと同様に0.25%の利下げを主張したが、2月に利上げを主張したタカ派のマン/ヘスケルの両委員は据え置きに投票した。利下げ開始時期を巡っては、「労働市場環境の基調的な引き締め度合い、賃上げ率、サービス物価の動向など、幅広い指標を注意深く観察し、政策金利をどの位の間、現状の水準に維持するかを検討し続ける」との従来のガイダンスを維持した。声明文では、「持続的なインフレ圧力のリスクがどの程度後退したかを巡って、政策委員の間には様々な意見がある」とし、タカ派委員が「二次効果(波及効果)が減退している証拠は暫定的で、サービス物価が十分に速く物価目標に整合的なペースに復帰する証拠は限られる」と主張しているのに対して、ベイリー総裁は「利下げを開始できる点には到達していないが、正しい方向に向かって進んでいる」と述べ、利下げ開始に向けた環境が整いつつあることを示唆した。同時に「引き締め的な水準からスタートするため、利下げ開始後も政策金利が引き締め的な可能性があり、会合毎に政策の引き締め度合いを検証する」との文言を追加した。

タカ派委員の利上げ主張撤回や、利下げ開始に近づいているとの総裁発言、継続的な利下げを示唆する文言追加など、今回のMPCは全体としてBOEのハト派傾斜を確認するもの。無論、利下げ開始にとっては、タカ派委員の投票行動よりも、中立派委員の利下げ転換こそが重要になる。その点、総裁による利下げ開始に向けた環境が整いつつあるとの認識表明からは、近い将来の利下げ開始が示唆される。20日に発表された2月の消費者物価は、こうしたBOEの認識を裏付ける内容。すなわち、ヘッドライン・コアともに上昇率が一段と鈍化したが、持続的な物価安定を達成するには、一段の上昇率鈍化が必要な状況にある。大きな政策転換は、金融政策レポートの発表月が多いが、足元の物価を取り巻く環境に鑑みれば、5月の利下げ開始を判断するには十分なデータの裏付けが揃ってない可能性が高く、8月の利下げ開始をメインシナリオと置く。だが、今回のハト派的なトーンは、8月よりも早い利下げ開始の可能性を高める内容で、6月の利下げ開始も排除されなくなってきた。利下げ開始後は、今回新たに追加された文言通り、継続的な利下げが想定され、年内に通算75〜100bp程度の利下げが予想される。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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