徹底解剖!アメリカ大統領選2024(2)

~現職の優位性~

前田 和馬

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Q.米国大統領選で現職は優位なのか?

A. 第二次世界大戦中の大統領であったルーズベルトが4選を果たしたことを背景に、1951年に成立した憲法修正第22条では米国大統領の任期が2期8年に制限された。同憲法修正後において再選を目指した現職大統領は11人おり、そのうち7人が勝利している(勝率63.6%)。現職大統領が優位な理由としては、圧倒的な知名度があること、選挙期間中も大統領としての露出が多いこと、予備選で有効な対抗馬が現れないため党内の求心力を保ちやすいこと、強い不満のない有権者は前回と同様の投票行動を取りやすいこと(現状維持バイアス)、などが挙げられる。
ちなみに、現職で落選した4人の中でフォード(1976年の共和党候補)だけは大統領選挙の経験がない現職として出馬した。これは第2次ニクソン政権において1973年にアグニュー副大統領、翌年にニクソン大統領が共に政治スキャンダルで辞職したためである。フォードの大統領としての支持率は極端に低いわけではなかったものの、前任のニクソンに与えた恩赦が国民の不評を招いたことなどを背景に1976年大統領選挙では敗北を喫した。

Q.現職が再選されるかを判断するうえで何を見るべきか?

A. 現職にとっての大統領選が信任投票の側面を持つことを踏まえると、選挙年に支持率が30%台で低迷するような場合には再選を果たすのは難しく、1980年の民主党・カーターや1992年の共和党・ブッシュ(父)がこうした事例に当てはまる。また、2000年以降の大統領に対する選挙直前(10月)の支持率を見ると、2004年の共和党・ブッシュ(子)が50%前後で再選、2012年の民主党・オバマが50%弱で再選、2020年の共和党・トランプが40%半ばで落選といった結果であり、支持率が明確に50%を下回ってくる状況だと再選実現への不透明感が増すといえる(注1)。
また、1992年大統領選で現職のブッシュを下した民主党のクリントンは「It’s the economy, stupid(経済こそが重要だ、愚か者)」とのキャッチフレーズを用いて、ブッシュ政権における景気対策の不備を攻撃した。国民の経済的不満を図る指標としては「悲惨指数(Misery Index)」がよく挙げられる。悲惨指数は失業率とインフレ率を足し合わせた指標であり、同指数が在任中に大きく上昇する場合には現職大統領が再選を果たせないことが多い(図表1)。実際、2020年にはパンデミックによる失業率急騰を背景に悲惨指数が大幅に上昇しており、これがトランプ再選の逆風になったと考えられる。

Q.2024年大統領選はバイデンvs.トランプの再対決となりそうだが、再対決はよくあるのか?

A. 大統領選挙における同一候補の再対決はこれまで6回あるが、ここ半世紀では存在しない。直近の再戦は1956年の共和党・アイゼンハワーと民主党・スティーブンソンの対決まで遡り、この時には現職大統領のアイゼンハワーが前回1952年の選挙よりも得票率を伸ばし勝利した。また、1900年の共和党・マッキンリーと民主党・ブライアンの再戦に関しても、現職大統領のマッキンリーが前回1896年よりも多くの選挙人を獲得し勝利している。
大統領経験者同士の対決としては1892年の共和党・ハリソンと民主党・クリーブランドの例が挙げられる。クリーブランドは現職大統領として挑んだ1888年選挙でハリソンに敗れた一方、1892年にはハリソン政権の高関税政策などを批判することで勝利しリベンジを果たした。ちなみに、クリーブランドの妻は第一次政権の終わりにホワイトハウスを去る際に「4年後に戻ってきたときのために、ホワイトハウスの家具や装飾品を大切にしてほしい」とスタッフに頼んだとされている(注2)。

図表1:第二次世界大戦後における米国大統領別の悲惨指数
図表1:第二次世界大戦後における米国大統領別の悲惨指数

【注釈】

1)歴代大統領やバイデン大統領の直近の支持率に関してはRealClearPolitics(https://www.realclearpolling.com/polls/approval/joe-biden/approval-rating)などを参照。

2)US presidential rematches through history as Biden, Trump eye 2024 | Pew Research Center

以上

前田 和馬


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前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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