トルコ、2023年の成長率は+4.5%と旺盛な家計消費が景気を下支え

~リラ安に歯止めが掛からず価値保蔵の用を成さないなかでの消費活発化の動きはいつまで続くか~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは、昨年の大統領選後に中銀が大幅利上げに動くなど物価と為替の安定に向けて「真っ当な」政策への転換が図られた。しかし、足下のインフレは高止まりしている上、外需にも不透明感が強まるなど景気減速に繋がる材料は山積する。こうした状況ながら10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+3.87%とプラス成長が続いている。外需は下振れしている上、金利高や復興需要の一巡も重なり固定資本投資や政府消費は頭打ちする一方、金利高にも拘らずリラ安に歯止めが掛からないなかで家計消費は拡大して景気を押し上げている。昨年通年の経済成長率は+4.5%と堅調さを維持しており、大地震や外需の下振れの影響を家計消費の旺盛さが相殺した格好である。ただし、中銀はカラハン新体制の下でも引き締め姿勢を維持する考えを強調しており、物価高と金利高が共存するなかで景気は厳しい展開が続くであろう。

トルコでは、昨年の大統領選後に実施された内閣改造において財務相にシムシェキ氏、中銀総裁にエルカン氏といった金融市場からの信認回復を意識した人材登用が図られた結果、その後は物価と為替の安定を目的に今年1月まで累計3650bpもの大幅利上げが実施された(注1)。しかし、足下のインフレは前年に大きく頭打ちの動きを強めた反動で加速に転じている上、中銀による大幅利上げにも拘らず通貨リラ相場は調整の動きに歯止めが掛からず、結果的にインフレが上振れする展開が続いている。このように物価高と金利高の共存が長期化していることは景気に冷や水を浴びせるとともに、同国は財輸出の約半分をEU(欧州連合)向けが占めるなかで足下のEU景気が足踏みしており、内・外需双方に不透明要因が山積している。こうした状況ながら、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率+3.87%と3四半期連続のプラス成長で推移するとともに、前期(同+1.25%)から伸びが加速するなど底入れの動きを強めている様子がうかがえる。なお、同国ではロシアによるウクライナ侵攻を機にロシア向けの迂回輸出や並行輸出が活発化して外需を下支えしたものの、そうした動きに一服感が出るとともに、EU景気の足踏みに加え、外国人来訪者数の底入れの動きも一服するなど幅広く輸出が下振れしている。さらに、外需に不透明感が強まるとともに、中銀による大幅利上げの動きも重なり企業部門による設備投資意欲は大きく後退する一方、ロシアから流入した富裕層などを中心とする旺盛な住宅需要は固定資本投資を下支えする展開が続いている。他方、インフレ再燃により実質購買力に下押し圧力が掛かるなか、中銀による金利引き上げにも拘らずリラ安に歯止めが掛からないなど価値保蔵手段として用を成さない事態となっていることも重なり家計消費は大きく上振れするなど景気を押し上げている。しかし、昨年2月に同国南東部で発生した大地震の復興需要の動きが一巡していることを反映して政府消費や公共投資も下振れしており、公的需要による景気押し上げの動きも落ち着きを取り戻している。結果、家計消費を除いて幅広く内需が下振れしていることを反映して輸入は輸出を上回るペースで減少しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度は前期比年率ベースで+1.14ptと2四半期連続のプラスで推移するなど景気下支えに繋がっている。分野別の生産動向を巡っても、外需の弱さは製造業の足を引っ張る動きがみられるほか、異常気象の頻発も重なる形で農林漁業関連の生産も力強さを欠く推移が続く一方、外国人を中心とする住宅需要の旺盛さを反映して建設業は活況を呈する展開をみせるほか、家計消費の旺盛さはサービス業の生産を押し上げている。なお、製造業をはじめとする減産の動きを反映して在庫投資による成長率寄与度は大幅マイナスになっていると試算されるなど、在庫調整の動きが進んでいる様子がうかがえる。昨年通年の経済成長率は+4.5%と前年(+5.5%)から鈍化したものの、大地震の影響や外需鈍化の影響を家計消費の旺盛さが相殺する形で堅調さを維持した格好となった。しかし、上述したように足下の家計消費の旺盛さは通貨リラの信認低下が招いていることを勘案すれば、こうした動きが息の長い景気拡大を促すとは見通しにくい。さらに、依然としてインフレ収束の見通しが立たないなか、中銀のカラハン新総裁は先月の定例会合で引き締め姿勢の長期化を示唆する考えを示したことを勘案すれば(注2)、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる展開が続くことは避けられない。その意味では、同国経済の先行きは依然として厳しい展開が続くであろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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