EVの販売シェアは国、地域でまちまちながら順調に拡大中

~2023年には普及率の壁と言われる販売シェア16%突破も~

佐久間 啓

要旨

- ポイント -

  • 2022年のEV(BEV+PHEV)販売台数は10,522万台、前年比+55%
  • EV販売シェアは2021年の8.3%から13%まで拡大
  • 世界全体では2023年に普及率の壁と言われるシェア16%を超える見込み
  • これまでの政策対応によりEVシェアは国によりまちまち
  • 2023年中国は補助金廃止、ドイツは補助金減額
  • 今後はアメリカIRAによる補助金制度に注目

ここのところ街を走っていても電気自動車(以下BEV)を見かけることが多くなったし、高速道路サービスエリアの充電スポットで充電中のBEVを見かけることも日常になりつつあるものの、自分の周りで内燃エンジン車からBEVに乗り換えたという人はまだ聞かない。日本でのBEVの普及はまだまだこれからというところだ。

世界的に見ればEVの販売は好調だ。EV関連の調査、コンサルティング業務を行う“EV Volumes.com”によれば2022年のEV-ここではBEVとPHEV(プラグインハイブリッド)をEVとする-の販売は1,052万台、前年比+55%まで拡大している。伸び率自体は2021年の+109%から減速しているもののEVの販売シェアは2021年の8.3%から2022年は13%まで上昇。販売は中国、ヨーロッパ、北米で95%を占めている。

図表1
図表1

2022年5月に公表されたIEA-Global EV Outlookによれば2021年実績見込み653万台に対して2025年には1,572万台、2030年には2,770万台というものだった。2022年の販売が1000万台超ということは2023年に2022年と同じ前年比50%を超える拡大をすれば1500万台を超えてくるのでIEAの予測を2年前倒しで達成することになる。

新しいサービス、商品がどのように市場に普及していくのかを分析、研究したアメリカの社会学者・エベレット・M・ロジャースは1962年に著書「Diffusion of Innovations」でイノベーター理論を提唱。消費者を5つの層に分け、普及率が16%までは新しいものを積極的に購入する層に支えられてシェアも高まるが、16%を超えて普及していくためには“その他大勢の人達”にも新しいサービス、商品が広がる必要があるというもの。この“その他大勢の人達”は購入に際して単に“新しい”というだけではなく、費用対効果のバランスがとれていたり安心して利用できるものという信頼も必要になる。

世界的には新車販売台数は2022年に8,000万台程度なので、その16%、1,280万台程度が一つの壁と考えられるが、先述の通り2023年にはその壁を超えてくるだろう。2023年以降EVの拡大は新たなステージに入るのかもしれない。

ただ世界全体で16%突破と言っても国によってEVの販売シェアはまちまちだ。すでに16%を大きく超えている国もあれば一桁%台前半の国もあるのが実情だ。

図表2
図表2

ここで日本のBEV等の販売状況を確認しておく。(一社)日本自動車販売協会連合会(自販連)によれば2022年はBEVが3.2万台、PHEV(プラグインハイブリッド)が3.8万台、合わせて6.9万台、乗用車販売台数全体の3.1%を占めている。2021年はそれぞれ2.1万台、2.3万台、合わせて4.4万台、1.8%だったので台数で+2.5万台、シェアで+1.3%拡大している。そう、順調に拡大しているのは間違いない。

図表3
図表3

これまで多くの国は環境対策、産業戦略等から排気中CO2削減、脱内燃エンジン車を掲げ購入に対する補助金やメーカーに対する規制-中国での所謂“ダブルクレジット規制や欧米のCAFC(企業平均燃費)制限-つまり国家戦線でEVシフトを進めてきた。しかし最大市場の中国でEV向けの補助金政策は2022年末に終了し、2023年はEU最大市場のドイツでも補助金が削減される。2022年は補助金廃止、減額等を見据えて駆け込み的な買いがあったことも各市場でEV販売が好調さを維持した一つの要因と言えるので、今後影響がどこまで広がっていくのか読みにくい。一方でEVシフトの国家戦略自体に大きな変更はないことから補助金減額等での販売ペースの大きな落ち込みは限定的と考えても良さそうだ。

逆にアメリカではEVシフトに向けて新たな補助金政策が始まる。2022年8月にアメリカで成立したインフレ抑制法(IRA、Inflation Reduction Act)に盛り込まれたEV向け補助金。詳細は省略するが、言ってみれば“アメリカが認めた国から重要鉱物を調達してバッテリーを製造し中身から組立てまで北米製”EVの購入者に対して最大$7,500の税額控除を行うものだ。そこまでやるか、と言いたくなるほどの控除要件であるが国家戦略として動くときのアメリカの思い切りの良さが伝わる。アメリカの足元のEV販売シェアはまだ一桁%台後半と言われているが、今後世界第2位の自動車販売規模を誇るアメリカのEV販売を強力に後押しするだろう。

日本はどうする?

以 上

佐久間 啓


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