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日銀はまだ仕掛けてくるか?

~2023年1~4月の政策展望~

熊野 英生

要旨

12月の決定会合は、まさかの長期金利の変動幅拡大の決定であった。予想が裏切られたことで、もしかすると再び黒田総裁は任期中の1~4月に何かを仕掛けてくる可能性があると思える。そのシナリオのひとつとしては、3月に物価情勢に関する検証をトライすることだと考える。

目次

前言を翻した黒田総裁

12月20日の日銀の発表は度肝を抜いた。12月の政策決定会合で、長期金利の変動幅の上限を0.50%に引き上げた。これは、事実上の利上げと受け取られても仕方がない。これまで利上げはしないと説明していて、今回は変動幅を拡大した。その申し開きが「利上げではありません」と言われると、狐につままれたように感じる。

この対応について、経済学の知識を使って説明すると、「時間非整合問題」になる。長期的な利益のために政策運営をしていると、短期的な利害と対立する状況が起こる。その利害対立によって、政策当局者はどこかの時点で、意見をひっくり返す行動を採らなくてはいけなくなる。金利を上げないというコミットメントは、短期的には投資家に安心感を与えるが、長期的に副作用を大きくする。どこかの時点で必要だった修正を、黒田総裁は今行ったのだ。

その弊害は、一度約束を破ると、次からコミットメントを投資家が信じなくなることだ。黒田総裁の言葉に信用がなくなり、皆が疑心暗鬼に陥る。これは現在起こっている混乱そのものだ。

通常、中央銀行は利上げの局面では、予見可能性のあるかたちで徐々に市場に利上げのショックを織り込ませていく。利下げはサプライズ、利上げは予想を織り込ませる、と言われる。今回、黒田総裁はそのセオリーとは逆の行動を採った。その背後には、余程思い詰めた気持ちがあったと推察される。

達観して考えると、黒田総裁は自分の任期が2023年4月8日までと僅かになっているから、前言を翻すことの弊害は小さくて済むということなのだろう。多くの人が、その次の日銀総裁は考えを改めてコミットメントを破らないだろうと認識を改めるだろうから、任期の短い黒田総裁は前言を撤回することができたと言える。

残された問題

波乱はこれで終わりだろうか、と多くの人が思っているに違いない。コミットメントを破ったから、多くの人が不透明の海に投げ出された状態なのだ。

筆者も、2023年1~4月の間にある1月と3月の決定会合では、メインシナリオではまさか仕掛けて来ないと考えている。しかし、もう一方で、黒田総裁はまだ何か隠し玉を持っていて、それを仕掛けてくる可能性は排除してはいけないと考える。

次に、その隠し玉があるとすれば、それは何かを考えよう。筆者は、なぜ、今、君子豹変したかと言えば、次の日銀総裁がやりにくい課題を自分の任期中に片づけて置こうとしているからだと考える。明確な出口戦略に1~4月の短期間で着手することはないとしても、いくつかの課題にトライすることはあり得る。

例えば、物価が安定的に2%を超えているかを検証する「検証」、「再検証」、「点検」といったことを試みる可能性はある。1月の会合では、「3月に検証を行う予定です」とアナウンスしておいて、3月に検証を実施する。自分の退任前に検証をすることは、何の違和感もない。自分自身の花道にもなる。

政府と日銀の間で結ばれた共同声明は、おそらく、次の日銀総裁が行うことだろう。黒田総裁の任期中に行われることはない。なぜかというと、次の日銀総裁が共同声明を改定、確認することは、黒田時代のフレームワークを一旦リセットすることになるからだ。例えば、コアCPIが2%を上回ったならば、二度と2%を下回らないようになるまで緩和を続けるとか、賃金上昇によってコアCPIが2%にならないと自分の思っていた物価上昇ではない、といった独自解釈は、黒田総裁の理解である。筆者には、共同声明の範囲を越えた内容を黒田総裁は決めていたと理解する。だから、その不自由さから逃れるために、次期総裁は共同声明を結び直して、黒田時代のフレームワークをリセットするのだ。

円安の行方

もしも、1~4月に隠し玉を黒田総裁が投げてくると、為替レートはより円高に振れるだろう。

筆者の計算では、日本の長期金利が+0.25%上昇することで、ドル円レートは▲3.92円ほど円高になると推定する。日米長期金利差に反応したドル円レートの弾性値である。最近のドル円レートは、その推計にほぼ沿っている。だから、1ドル131~132円程度で推移している状態は、日銀の12月20日の決定を完全に織り込んだとみている。

1~4月の決定会合では、さらに長期金利の変動幅を拡大することはないと筆者はみる。しかし、もっと長いスパンで考えると、近々発表される次期日銀総裁が、現在のボードメンバーから選ばれる場合、長期金利上昇の容認へとさらに進む可能性を意識することになるだろう。すると、現在のドル円レートの変動は、さらに円高方向に向かう。2023年1~4月は1ドル127~128円まで円高に振れる可能性はあるだろう。

熊野 英生


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