2020年代の世界経済に変化は

~IMF/WEO,Oct.2022から考える~

佐久間 啓

IMF/ World Economic Outlook Oct.2022

2022年10月、IMFから恒例の「World Economic Outlook」(WEO)が公表されている。これは毎年4月、10月にリリースされ、それぞれの改定値が7月、1月に公表される。つまり3カ月に一度の頻度でIMFの経済見通しが公表されていることになる。


10月公表のWEOでは数十年ぶりのインフレ、生活コストの上昇、金融引き締め等によって世界のGDP成長率は2021年の6.0%から2022年は3.2%、2023年は2.7%に低下するとしている。2022年については4月の見通し3.6%、7月改定で3.2%としていたので7月からは変更なし。2023年については4月の見通し3.6%、7月改定2.9%としていたの7月改定値からさらに▲0.2%下方修正、4月見通しからは▲0.9%の大幅下方修正となっている。2023年の2.7%という数字は2020年のCovid19パンデミック、2009年の金融危機の時期を除けば2001年以来の低い水準となる。

図表1
図表1

焦点のインフレは2021年4.7%→2022年8.8%→2023年6.5%→2024年4.1%と各国の金融引き締めから2022年がピークで徐々に落ち着くという見通しとしている。

日本のGDP成長率については2021年1.7%→2022年1.7%→2023年1.6%としている。コロナ禍からの回復が続くこともあり2023年の1.6%はG7諸国では最も高成長となる見通しとなっている。2023年は日本経済の相対的な堅調さが以外に評価される年になる可能性もある。

世界経済をもう少し立体的にみてみよう

国、地域別のデータ等詳細はIMFのウェブサイトを見ていただくとして、ここでは世界経済をもう少し立体的に見てみよう。

IMFのデータによればGDP成長率に関してはご存じの通りG7はじめ先進国は低成長、新興国(先進国以外)は高成長という図式は明確。1980年以降10年毎の平均成長率をみると、世界は3.2%→3.1%→3.9%→3.7%。この間、先進国は3.1%→2.7%→1.8%→2.0%と3%成長から2%成長へと減速。新興国は3.2%→3.7%→6.1%→5.1%となっておりグローバル化の波に乗り着実に成長を遂げてきている。

日本は90年代以降低成長となっているもののGDP規模は500兆円を超え、2010年前に中国に抜かれたものの国別では世界第3位の位置付け。2020年のドルベースの名目GDPの数字を見ると国別ではアメリカが断トツのトップ、中国がアメリカの2/3程度まで成長しで2位、そこから大きく離れて日本、ドイツ、イギリス、インド、フランス、イタリア、カナダと続き、韓国が第10位。

2000年時点でアメリカを100とした時、中国は11.8、インドは4.6であったが、2020年には中国は71.1、インドは12.8まで上昇している。中国、インドが経済成長を続け、先進国に追いついてくるのは常識として認識されているが、先進国、新興国という括りで見ると一層新興国経済の拡大が目に付く。

ドルベースの名目GDPのシェア(%)をみると、先進国は2000年79.0→2020年59.4→2027年(見通し)53.4。一方新興国は21.0→40.6→46.6。このままいけば2020年代後半には先進国、新興国のシェアは並ぶことになる。新興国は2000年代入り後、まさしく“複利効果”でその経済規模を拡大させてきた。逆に言えば先進国の経済的地位は確実に下がってきている。G7だけで世界経済の安定を維持できるはずもなくG20の重みが増しているのも頷ける。

図表2
図表2

世界経済の成長をGDPの金額ベースでみると新興国の存在感の大きさが実感できる。2000年以前は先進国、というよりG7の成長が世界経済の成長のそのものだったが、2000年以降は新興国の成長が世界経済の成長を支えているといっても言い過ぎではないような状況となっている。しかし実際は支えるというより相互依存が強まっているといった方が正しいだろう。Covid19パンデミックはそのことを再認識させてくれた。

図表3
図表3

2020年代の世界経済にはどのような変化があるのか

WEOでは2027年までの見通しが示されている。足元のウクライナでの戦争やインフレ、金融引き締め等先行き不透明感は強く、5年先はまだまだ視界不良で確実にに見通せるわけではない。ただ言えるのは世界経済での新興国シェアは着実に上昇していくだろうという点だ。

新興国のシェア拡大は足元でも続いており、世界経済への影響力は徐々に増している。数字自体の変化は直線的でもあるポイントを超えると一気に意味が変わることがる。そのポイントを閾値と呼ぶが、新興国シェアも2020年代にはその閾値を超えるのではないだろうか。そもそもシェアに閾値があるのかと言う問題はあるが、今以上に急激にパワーが高まる時が来るような気がしてならない。これまでは先進国がリードして世界経済の仕組みを作り、ルールを決め、運用してきたがそうした仕組み、ルールは変更を迫られることも多くなりそうだ。



*WEOにおける先進国(Advanced Economies、40か国):アンドラ、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、カナダ、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、香港、アイスランド、イスラエル、イタリア、日本、韓国、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、マカオ、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウエー、ポルトガル、プエルトリコ、サンマリノ、シンガポール、スロバキア、スロベニア、スペイン、スウェーデン、スイス、台湾、イギリス、アメリカ

佐久間 啓


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