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ライン川の水位低下は最悪期を脱したか?

~今後は水位回復の予報だが、それも降雨次第~

田中 理

要旨
  • ドイツのライン川の水位は現在、大型船の就航が難しくなる40センチを切っているが、流域での雷雨予報により、週末に向けて50センチ近くまで回復するとみられている。来週には80センチ、9月中に100センチ近くまで回復すると見込まれているが、こうした予報は降雨次第でかなりの幅がある。例年10月に向けて水位は一段と低下する傾向があり、まだ安心できる状況にはない。今後水位が多少回復したとしても、輸送コストの上昇は避けられない。

猛暑による渇水が続くドイツでは、水上輸送の大動脈であるライン川の水位が、川幅が狭い中流のカウプ周辺の観測地点で、12日に大型船の就航が難しくなるとされる40センチを切り、15日には一時31センチまで低下したが、17日には35センチまで回復した(図表1)。16日付けのBloomberg報道によれば、ライン川で約150の大型荷積み船を就航する輸送会社の場合、カウプ周辺の水位が30センチを切ると保有する船舶の9割が、20センチを切ると全ての船が就航不能になると伝えている。17日にはカウプ近くでタンカーが座礁し、河川の一部が一時閉鎖された。なお、ここでの水位は浅瀬にある観測地点のもので、船舶が通る川の中心部分の水位はこれより110~120センチほど深い。

図表1
図表1

上流の水位変化や降雨予想などに基づく連邦水路海運庁の17日時点の短期予報によれば、今後水位は緩やかに上昇し、21日には49センチに回復するとみられている(図表2)。その後、ライン川流域での雷雨予報を反映し、8月24日頃に80センチを上回った後は、再び低下すると予想されている(図表3)。15日時点の6週先予報では、9月の水位も緩やかに上昇し、100センチ近くまで回復するとしている(図表4)。ただ、こうした予報は降雨によって大きく左右され、6週先の95%信頼区間は上下に150センチ程の幅がある。例年、10月頃に向けて推移は一段と低下する傾向がみられ(図表5)、今後の降雨量次第だが、まだ安心できる状況にはない。

図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

混乱回避に向けた努力も続けられている。15日付けのBloomberg報道では、ライン川流域に工場を持つドイツの大手化学会社は、30センチの水位でも650トンまで積載可能な荷積み船を年内に就航予定とされる。現在利用している船は、同じ水位では200トンまでしか積載できない。短期的な解決策とはならないが、長年の課題であったカウプ周辺の水位を深くする工事も検討されている。また、大型船の就航が不能になった場合、小型船で複数回に分けて輸送することや、陸路や鉄道輸送に切り替えることもできる。ただ、コロナ禍克服による経済活動再開の影響もあり、ドイツでも運輸業界は深刻な人手不足なうえ、一部のタンカー船はウクライナの食料輸送に動員されており、十分な代替輸送手段を確保するのは難しい。今後水位が多少回復したとしても、積載量の制限が必要となる限り、資源価格の高騰と相俟って、輸送コストの上昇は避けられない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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