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ドイツのエネルギー危機に伏兵

~ライン川の水位低下で石炭輸送に黄信号~

田中 理

要旨
  • ドイツの海上輸送の大動脈であるライン川の水位低下は、冬場のガス不足を乗り切る代替エネルギー源である石炭輸送を困難にする。大型船の就航が不可能になる水位に近づいている。

猛暑による渇水が続くドイツでは、ライン川の水位が低下し、海上輸送に支障が出る水準に近づいている。ライン川の中流に位置するラインラント=プファルツ州カウプ周辺の水位は、4日時点で54センチと、2018年以来の水準に低下している(図表1)。ドイツの関係省庁によれば、カウプ周辺の水位が75センチを切ると大型船の荷物の積載量が制限され、40センチを切ると就航が難しくなる。既に荷積み制限が始まっており、燃料費の高騰と相俟って輸送費用の増加が避けられない。2018年の水位低下時は、ライン川流域周辺の化学関連施設の操業が難しくなり、化学製品の生産や出荷が大幅に落ち込んだ(図表2)。現在の水位は8月初旬としては2018年を下回っており、例年秋に向けて水位が一段と低下する(図表3)。週末には水位が40センチ台に低下するとみられる。

(図表1)ドイツ・ライン川の水位(カウプ周辺)
(図表1)ドイツ・ライン川の水位(カウプ周辺)

(図表2)ドイツ鉱工業生産の推移
(図表2)ドイツ鉱工業生産の推移

(図表3)ドイツ・ライン川の水位(カウプ周辺)
(図表3)ドイツ・ライン川の水位(カウプ周辺)

スイスの山岳地帯からドイツ西部を抜け、欧州最大の港があるオランダのロッテルダム周辺で北海に抜けるライン川は、ドイツの海上輸送の大動脈で、流域にはデュッセルドルフなどドイツを代表する商業都市に加えて、多くの工業施設や電力発電所などが立地する。ドイツではロシアからのガス供給が縮小され、冬場のガス不足への警戒が高まっている。ロシア産化石燃料に代わるエネルギー源として、脱炭素と逆行する石炭火力の利用拡大で急場をしのいでいる。だが、火力発電所で利用される石炭の多くは、オランダの港から海上輸送で運ばれる。ライン川を就航する大型荷積み船は3000トン級のものが多く、陸上輸送で代替するには限界がある。このまま水位低下が進めば石炭輸送が滞り、電力不足に拍車が掛かる恐れがある。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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