デジタル国家ウクライナ
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マイナス金利の終わりの始まり

~スイス大手行が富裕層向けマイナス預金金利を廃止へ~

田中 理

要旨
  • スイスの大手行は7月から、これまで富裕層向け預金に課していたマイナス金利(手数料徴収)を廃止する。こうした動きは、マイナス金利の長期化による弊害を象徴する事例とされてきた。スイス中銀は今月中旬、政策金利を▲0.75%から▲0.25%に引き上げ、今後も利上げの継続を示唆している。今回の富裕層向け預金のマイナス金利廃止も、先々の利上げ継続と政策金利のプラス圏浮上を見込んだもの。コロナ禍克服とウクライナ侵攻を受け、世界の中銀を取り巻く環境が一変し、脱マイナス金利の動きが急速に進んでいることを示唆する。

ロイター通信は29日、スイス二大銀行の一角を占める大手銀行が7月1日より富裕層向け預金に課していたマイナス金利を廃止することを伝えている。スイス国立銀行(中銀)が2014年12月に政策金利をマイナス圏に引き下げて以来、スイスの市中銀行は預貸利ザヤの圧迫に苦しんできた。スイスの二大銀行は2019年から2020年に相次いで、富裕層向け預金を対象に0.75%の手数料の徴収を開始した。通常、銀行に預金を預け入れると、預金量に応じて一定の利子を受け取るが、マイナスの預金金利では逆に利子(手数料)を支払うことになる。当時、ユーロ圏、デンマーク、スウェーデンの中銀も政策金利をマイナス圏に引き下げるなか、市中銀行が個人向け預金にマイナス金利の適用を開始したのは、マイナス金利の長期化による弊害を象徴する事例とされた。今回のマイナス金利の適用廃止は、世界の中銀を取り巻く環境が一変し、脱マイナス金利の動きが急速に進んでいることを示唆する。

スイス中銀は今月16日、▲0.75%の政策金利(3ヶ月物ロンドン銀行間取引金利誘導目標の上下限の中央値)を▲0.25%に一気に50bp引き上げた。スイス中銀は15年振りとなる政策金利の引き上げと同時に、7月1日以降のマイナス金利の適用免除の範囲を法定準備金の30倍から28倍に引き下げた。したがって、政策金利のマイナス幅は縮小したものの、超過準備内のマイナス金利の適用対象が拡大し、銀行収益を圧迫する状況は当面続くことになる。政策金利を利上げ後の▲0.25%に維持した場合、スイス中銀は予測最終期(2025年1~3月期)のインフレ率が2%を上回ると予想している。声明文では、中期的な物価安定を確保するため、更なる利上げが必要となる可能性があることに言及している。スイス中銀は利上げに合わせて、2017年9月以来続けてきた「スイスフランが過大評価されている」との評価を声明文から削除した。今回のスイス大手行による富裕層向け預金のマイナス金利廃止も、先々の利上げ継続と政策金利のプラス圏浮上を見込んだものと言える。既にスイスの小規模銀行がマイナス預金金利の適用廃止で先行していたが、今回の決定を受けて、別の大手行も追随するとみられる。

以上

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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