EUのロシア産石油禁輸に暗雲

~ハンガリーの反対で5月末の合意は困難に~

田中 理

要旨
  • EUが検討中のロシア産石油の禁輸措置は、ハンガリーの反対で5月末の臨時首脳会議での合意が危ぶまれている。EUはハンガリーなど東欧諸国に対して、代替調達先確保での財政支援を提案している。だが、資金支援は復興基金を通じて行われる計画で、EUの基本価値違反で復興計画の承認が見送られているハンガリーは難色を示している。今回のハンガリーの反対には、エネルギー転換での財政支援や復興基金の拠出開始でのEU側の譲歩を引き出す狙いがある。

ロシアによるウクライナでの戦争継続の資金源を断ち、ロシア産化石燃料依存の早期脱却を目指す欧州連合(EU)は、既に決定済みのロシア産石炭禁輸に加えて、第6弾ロシア向け制裁の目玉策としてロシア産石油と石油製品の禁輸措置を検討している。EUの制裁発動や延長には、加盟する27ヵ国の全会一致の決議が必要で、これまで5月30・31日の臨時欧州首脳会議での合意を目指してきたが、ハンガリーの反対で早期合意が困難な状況にある。ハンガリー政府は欧州首脳会議のミシェル常任議長に対して、代替エネルギー調達先確保でのEUの財政支援の詳細を明らかにしない限り、次の首脳会議でロシア産石油禁輸についての協議に応じない意向を伝えた。欧州委員会のフォンデアライエン委員長も24日、5月末の合意が難しいとの見解を表明した。

4月の国民議会選挙で政権基盤を強化したハンガリーのオルバン首相は、司法・メディア・教育機関への介入やLGBTに差別的な法律の施行などを巡って、近年、EUとの対立姿勢を強めている。オルバン首相は司法やメディア支配を通じた強権的な国家運営を強めるとともに、EUに対するバーゲニングパワーを確保する目的もあり、ロシアや中国などに接近してきた。ハンガリーは24日、隣国ウクライナでの戦争を理由に非常事態を宣言した。同様の措置はコロナ危機時にも採用され、政令を通じて様々な政策の実行が可能になり、国家統制色をさらに強めようとしている。

ロシアにエネルギー供給の多くを依存するハンガリーは、脱ロシア依存のエネルギー転換には巨額の財政資金が必要になると主張している。欧州委員会は18日、2027年までのロシア産化石燃料依存脱却とグリーンエネルギーへの移行を加速するため、総額2100億ユーロの投資計画を発表した。ロシアへのエネルギー依存度の高いハンガリーなど東欧諸国に対しては、代替調達先を確保するための財政支援と、代替調達先を確保するまでの猶予措置を提案しているが、20億ユーロの財政支援は欧州復興基金(コロナ危機からの復興に必要な財政資金を加盟国に提供する基金)を通じて拠出される。ハンガリーは現在、EUの基本価値違反を理由に復興計画の承認が見送られており、復興基金からの資金拠出が開始されていない。今回の反対も本気でロシアに寝返るつもりはなく、復興基金を経由しない財政支援を確保するか、復興基金の資金拠出開始に向けたEU側の譲歩を引き出す狙いがあると考えられる。

以上

田中 理

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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