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オルバン続投と対ロシア制裁

~ハンガリー選挙が影を落とすEU内の不協和音~

田中 理

要旨
  • 打倒オルバン政権を目指して野党が共闘したハンガリーの国民議会選挙は、オルバン首相が率いる与党の圧勝に終わった。ロシアのプーチン政権とも近く、法の支配や難民受け入れを巡って、近年EUとの対立を繰り返すオルバン政権の続投が決まった。EUは既に同国に対する復興基金の拠出を差し止めているほか、法の支配に違反する加盟国へのEU予算の拠出を凍結する新たな仕組みの発動も視野に入れている。ハンガリーはロシア産のガスや石油にエネルギー供給の多くを依存しており、対ロシア制裁の強化に反対している。オルバン政権の続投が決まったことで、法の支配や対ロシア制裁強化を巡って、今後改めてEUとの対立が表面化する恐れがある。

4月3日に行われたハンガリーの国民議会選挙は、オルバン首相が率いるEUに懐疑的な中道右派政党「フィデス(Fidesz)」と「キリスト教民主人民党(KDNP)」の統一会派が、改選前(133議席)から議席を積み増し、定数199のうち135議席余りを獲得して圧勝した模様。オルバン政権打倒を目指し野党6党と複数の政治運動が共闘した統一会派「ハンガリーのための連合」は改選前(62議席)を下回る56議席余りの議席獲得にとどまったほか、民族主義的な極右政党「我が祖国運動(MHM)」が5%の阻止条項を初めて突破して7議席を獲得した模様。与党は議会の3分の2以上の議席を確保し、オルバン首相は5期目の首相就任を確実なものとした。

政治思想の違いを乗り越え統一会派を結成した野党勢は、最近に至るまで各種の世論調査で与党の統一会派と接戦を繰り広げていたが、ロシアによるウクライナへの進攻以降、与党勢にリードを広げられ、選挙結果は世論調査が示唆する以上の大敗に終わった。近年、司法・メディア・教育機関への介入、シリア難民の受け入れ拒否、同性愛禁止などを巡ってEUとの対立を繰り返しているハンガリーは、EUやNATOの加盟国でありながら、ロシアのプーチン政権とも親密な関係を築いてきた。新型コロナウイルスの感染拡大時には逸早くロシア製ワクチンの使用を承認し、オルバン首相とプーチン大統領はウクライナ進攻直前にモスクワで会談し、エネルギー分野などでの協力関係を確認した。

野党勢はオルバン政権の法の支配・民主主義軽視や親ロシア姿勢を批判し、親EU姿勢をアピールしてきたが、与党は影響下にある国有メディアなどを通じて、野党が主張するロシアへのエネルギー制裁強化が資源価格の高騰を通じて国民生活に深刻な打撃を及ぼす恐れがあることや、ウクライナへの武器供与や派兵がハンガリーを戦争に巻き込む恐れがあるとして、野党勢を攻撃してきた。ハンガリーはロシア産のガスや原油への依存度がEU平均以上に高い。昨年にはロシアとの間で新たなガス契約を結び、他の欧州諸国と比べて低い価格でガスを調達している。オルバン首相はロシアのウクライナ進攻を非難し、EUの対ロシア制裁に拒否権発動こそしていないが、更なる制裁強化には反対する意向を表明している。

EUは近年、法の支配や差別禁止などのEUの基本価値に違反するハンガリーやポーランド政府の方針を問題視してきた。欧州委員会は両国に対して、加盟国にコロナ危機からの復興に必要な財政資金を提供する欧州復興基金(次世代のEU)の資金拠出開始に必要な復興計画の承認を保留している。これとは別に、法の支配に違反する加盟国へのEU予算の拠出を凍結する新たな仕組みの発動も視野に入れているが、政治介入との批判に晒される恐れがあるため、選挙前の手続き開始は手控えてきたとされる。欧州司法裁判所は今年2月、ハンガリーとポーランドの両国が法の支配に違反するとの判決を下し、手続き開始の準備が整った。オルバン政権の続投が決まったことで、法の支配や対ロシア制裁強化を巡って、今後改めてEUとの対立が表面化する恐れがある。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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