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朝食価格指数の上昇

~パン、マーガリン、シリアル、コーヒーの値上がり~

熊野 英生

要旨

今後、ウクライナ侵攻の影響を受けた国際商品市況の上昇によって、家計の食料品への支出も増えるだろう。筆者が朝食に関連が深い10品目を選んで、総務省「消費者物価」を使って朝食物価指数をつくると、その指数は2月の前年比が3.8%と大きく上昇していた。この指数は、今後さらに上昇する可能性がある。

目次

朝食関連の食材が高騰

国際商品市況が上昇して、食料品の価格が上がっている。よく観察してみると、「朝食」に馴染みの深いものほど、大きく値上がりしていることを発見した。消費者物価指数を使って、前年比の価格上昇を示すと、小麦を使っているパンは、2022年2月の前年比7.2%と上昇が大きい。パンに塗るジャムは同2.0%、マーガリンは同9.5%と高い伸びだった。ほかに、シリアルは同5.7%の上昇。コーヒー・ココアは同5.6%。コーヒーに入れる砂糖は同5.0%となっている。すべての食料の平均も、同2.8%まで上昇している(生鮮食品を除くと同1.6%)。だから、朝食に使う食材は、おおむね食料平均を上回って値上がりしていると特徴付けられる。

これらの品目は、おおむねウクライナ侵攻が始まる前までの価格上昇を反映している。ウクライナ情勢が緊迫化して、国際商品市況が急騰している影響は、これから小麦製品などの広範な食料品価格を押し上げていくだろう。

そこで、特に朝食に関連する10品目に絞って、合成価格指数を作ってみた。これを「朝食価格指数」と名付けて、その指数の推移を確認すると、朝食価格指数の上昇率は、2022年2月に前年比3.8%まで上がっていた(図表1)。この指数は、2021年12月の前年比が1.4%、2022年1月の前年比が2.4%と次第にプラス幅が広がっている。

朝食物価指数の前年比伸び率の推移
朝食物価指数の前年比伸び率の推移

構成された10品目の中には、上がっている品目だけではなく、前年比が小幅プラス、ないしマイナスの品目も含めている(図表2)。パン、シリアル、コーヒー・ココア、卵、マーガリンの5品目は大きく上昇しているが、加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコン)は前年比0.5%、バターは同0.0%、牛乳は同▲0.6%である。上昇しているパン、シリアル、コーヒー、砂糖は、国際商品市況の高騰を強く反映していると考えられる。さらに、今後4月からは、小麦の政府売渡価格が半年前よりも17%も上昇する予定だ。それによって、国内小麦製品は4月以降に軒並み上昇することが予想される。そして、この価格は、2022年10月の次回分にはもっと上昇する可能性がある。そう考えると、この朝食価格指数は、今後の4月以降には一段と伸び率が高まっていく可能性がある。

朝食物価指数を構成する10品目の内訳
朝食物価指数を構成する10品目の内訳


(参考)
2022年2月の消費者物価は、総合(除く生鮮食品)の前年比が0.56%へと上昇した(1月の前年比0.24%)。そこにも食料費(除く生鮮食品)の上昇が微妙に効いている。食料費(除く生鮮食品)は、1月の寄与度0.30%から2月の寄与度0.37%へと+0.07%ポイントほど増えていた。

輸入価格の上昇

今後、朝食価格が上昇していきそうな主な理由としては、ウクライナ侵攻を受けて、小麦・大豆・とうもろこしなどの国際商品市況が上がってきていることがある。ウクライナとロシアは、こうした農産物の主要な生産国である。現在はまだ3月であるが、ウクライナへの軍事侵攻が長期化すれば、作付けが始まる春から、収穫期の秋にかけて農業生産が滞る可能性がある。そうすると、穀物の世界的な需給がアンバランスになって市況を上昇させるだろう。また、ロシアへの経済制裁も、ロシアからの穀物輸出を制約するだろう。

また、日本にとっては、円安の進行も、輸入物価を押し上げて、それが消費者物価に早晩跳ね返っていくだろう。日本銀行の「企業物価統計」の中にある輸入物価では、円ベースの穀物価格は2022年2月までにその伸び率が大きく上昇していた(図表3)。ウクライナ侵攻は、2月24日から始まっているから、ここにはまだウクライナ侵攻の影響は反映されていない。3月以降の輸入物価は、その影響を織り込んで、一段と高騰することになるだろう。

輸入物価の食料関連品目の上昇率
輸入物価の食料関連品目の上昇率

増える朝食費の推定

より具体的に朝食関連の食料費が増えるのはどのくらいになるのだろうか。総務省「家計調査」(2人以上世帯)では、朝食関連の10品目のウエイトは、食料費(含む外食)の約10%であった。この食料費から、菓子・酒・飲料を除いて、その金額から朝食費を割り出してみると、やはり10%近くになっていた。この朝食費が年間3.8%のペースで上昇すると仮定すれば、2022年中の支出増加額は、1世帯平均で約3,600円になる計算である(食料費の0.37%)。

これまで家計が支出する食料費の割合(エンゲル係数)は、ここ数年は高止まりしてきた(2021暦年28.5%、2人以上世帯)。そうした中で、パンなど主食に支払う費用が増えていくことは、さらにエンゲル係数を高めていくことになるだろう。消費者が物価に対して感じる「痛み」は、こうした主食コストの上昇によって、さらに強まると考えられる。

熊野 英生


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

熊野 英生

くまの ひでお

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 金融政策、財政政策、金融市場、経済統計

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