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3連続利上げも、BOEはハト派傾斜

~5月金融政策レポートの物価見通しに注目~

田中 理

要旨
  • 昨年12月に利上げを開始したBOEは3会合連続の利上げを決定し、政策金利を0.75%に引き上げた。前回会合で50bpの利上げを主張した4委員が25bp利上げに転向し、1委員が資源高による家計消費の下押しを背景に金利の据え置きを主張した。投票結果はハト派的だったが、ウクライナ情勢を巡る不透明感もあり、ひとまず極端な政策主張が影を潜めたに過ぎない。物価の上振れと労働市場の逼迫が続くとみられるなか、BOEは今後も利上げを継続する公算が大きい。今後の利上げペースを判断するうえで、5月金融政策レポートの中期的なインフレ予想に注目する。

英イングランド銀行(BOE)は17日に前日に終わった金融政策委員会(MPC)の結果を公表し、政策金利を0.50%から0.75%に25bp引き上げることを、賛成8・反対1の賛成多数で決定したことを明らかにした。2月のMPCで50bpの利上げを主張した4委員(ハスケル、マン、ラムスデン、ソンダース)が何れも25bpの利上げに賛成し、カンリフ副総裁が資源高による家計消費の下押しを重視し、金利の据え置きを主張した。

2月MPC後に発表された経済指標は、月次GDP、失業率、賃金などが2月の金融政策レポートの想定を上回って改善し、経済活動と労働市場の一段の改善が示唆される。BOEスタッフは、1~3月期の実質GDP成長率が前期比+0.75%と、2月の金融政策レポートでの同横這い予想を上回ると考えている。また、資源価格のさらなる高騰を受け、消費者物価は4~6月期に前年比+8%前後でピークを打ち、これは2月の金融政策レポートの見通しを約1%ポイント上回ると予想する。このまま資源高が続けば、10月の料金改定で電力・ガス料金の一段の引き上げが避けられない(2~7月の資源価格が料金改定の積算根拠)。その一方で、原油・天然ガス価格の上昇一服、物価高による家計の実質購買力の目減り、市場金利が織り込むBOEの利上げ回数の上振れ(年末までに2%前後に到達)により、ピークアウト後のインフレ率は2月の金融政策レポートの想定を上回るペースで上昇率が鈍化する可能性があると指摘する。

労働市場の逼迫、価格や物価の強い上昇圧力と将来にわたって継続するリスクに鑑み、ほとんどの政策委員が25bpの利上げが正当化されると判断した。最近の賃金上昇、価格動向、インフレ期待の高まりが定着するリスクを軽減し、インフレ率が中期的に目標値に達するため、今回のMPCで金融政策を引き締める必要があるとの結論に至った。政策据え置きを主張したカンリフ副総裁は、物価高と労働市場逼迫の長期化による二次的影響のリスクから、さらなる引き締めが必要になる可能性があることを認めている。ただ、資源高が家計の実質所得と消費行動に与える影響の大きさをより重視している。ウクライナ情勢は家計や企業の景況感を悪化させると同時に、インフレ圧力を高める。同副総裁は、今後の金融政策がこうした相反する影響についての詳細な評価に基づいて決まると主張する。

そのうえで、BOEは経済状況に関する現在の評価に基づき、向こう数ヶ月の間に金融政策をさらに緩やかに引き締めることが適切であると思われるが、中期的なインフレ見通しがどう進展するかによって、こうした判断には上振れ・下振れ双方のリスクがあるとの見解を示した。5月のMPCと金融政策レポートに向けて、今後のデータや最近の地政学的事象が中期的なインフレに与える影響を再評価すると締め括った。

4委員の50bp利上げ主張撤回と1委員の据え置き主張の投票結果はハト派的だったが、ウクライナ情勢を巡る不透明感もあり、ひとまず極端な政策主張が影を潜めたに過ぎない。物価の上振れと労働市場の逼迫が続くとみられるなか、BOEは今後も利上げを継続する公算が大きい。2月の金融政策レポートでは、今回の25bpを含めて2023年末までに約100bpの追加利上げを前提とした場合、消費者物価が2024年央以降に2%の物価目標を下回ると予想していた。ピークアウト後の物価上昇率が急速に鈍化する可能性があることは、今回利上げに反対したカンリフ副総裁以外の政策委員の多くが共有している模様。今後の利上げペースを考えるにあたっては、ウクライナ情勢と最近の経済情勢を踏まえた5月の金融政策レポートで、2023年末までに約150bpの追加利上げを織り込む市場金利を前提とした場合に、中期的な物価見通しがどのレベルに収斂するかに注目が集まる。

これによりウクライナ情勢を受けた主要3中銀の政策対応が出揃ったが、①ウクライナ情勢の直接的な影響が最も軽微な米国のFRBが約3年振りの利上げを開始し、今後も積極的な利上げを継続することを示唆し、②直接的な影響が最も大きいユーロ圏のECBが資産買い入れの終了時期を前倒しし、利上げ開始の自由度と即応性を確保し、③直接的な影響は軽微だが、資源高を通じた影響が及びやすい英国のBOEがやや慎重化したものの、利上げを継続する姿勢を示唆した。三者三様の対応だが、何れの中銀もインフレへの警戒姿勢を滲ませ、緊迫化するウクライナ情勢が政策正常化を中断するものとまでは見ていない。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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