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年内利上げに近づくECB

~利上げ観測容認、3月理事会に注目~

田中 理

要旨
  • 物価の上振れが続くなか、ECBの利上げ観測が高まっている。昨年12月に段階的な買い入れ縮小方針を発表した直後だけに、2月の理事会での政策変更は見送られたが、ラガルド総裁は記者会見で、今後の政策見直しの可能性を排除しなかった。スタッフ見通しが発表される次回3月の理事会で、従来の資産買い入れプログラム(APP)の新規買い入れ終了の前倒しを決め、利上げ開始の地均しを始める公算が大きい。9月に買い入れ終了後、12月の利上げ開始とみる。

ECBは3日に終わった理事会で政策変更を見送ったが、インフレへの警戒姿勢を滲ませ、資産買い入れを前倒しで終了する可能性を示唆した。昨年12月の理事会では、①コロナ危機対応で開始したパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)を3月末で終了すること、②1~3月期のPEPPの買い入れ規模を昨年10-12月期より減らすこと、③PEPP終了時の急激な金融環境の引き締まりを回避するため、従来からの資産買い入れプログラム(APP)を一時的に増額すること(4~6月期を月額400億ユーロ、7~9月期を月額300億ユーロに増額し、10月以降は200億ユーロで必要な限り続ける)などが決定された(図表1)。ECBはこれまで、一時的な押し上げ要因(ドイツの付加価値税率変更の影響など)が剥落することから、ユーロ圏の消費者物価が1月をピークに上昇率が鈍化に向かうと予想してきた。だが、理事会直前に発表された1月の速報値は前年比+5.1%と前月から一段と上昇が加速し、統計開始以来の過去最高を更新した(図表2)。物価の上振れが続くなか、市場参加者の間では年内の利上げ観測が高まっている。

理事会後の記者会見でラガルド総裁は、参加メンバー全員がインフレ動向を懸念しており、物価の高止まりが長期化することで、二次的波及のリスクが高まるとし、一段の物価上振れに警戒感を滲ませた。昨年12月に資産買い入れの段階的な縮小方針を発表した直後だけに、今回の理事会で結論を急ぐべきでないとの意見が多数派だったが、今後の政策判断はデータ次第とし、スタッフ見通しの発表月である3月や6月の理事会がとりわけ重要になると述べた。昨年12月の理事会後の記者会見では、2022年中の利上げの可能性が極めて低いと述べたのに対して、今回はまだその段階にはないとしながらも、2022年中の利上げの可能性を排除しなかった。新規の資産買い入れ終了後にしばらくして利上げを開始する出口の順番を変更する可能性を否定したことから、年内の利上げ開始には10月以降も必要な限り続けると説明してきたAPPを前倒しで終了する必要がある。

ECBは従来、インフレ加速が一時的で、賃上げや価格転嫁の動きが限定的であることを理由に慎重な緩和縮小を支持してきた。年後半に集中する賃金交渉のスケジュールを考えると、賃上げの動きを確認するにはまだしばらく時間が掛かりそうだ。他方で、物価の上振れが長期化するなか、コア物価も予想以上に高止まりするなど、価格転嫁の動きが徐々に広がってきた可能性がある。3月の理事会では、足元の物価の高止まりが中期的な物価安定に与える影響を精査し、4月以降のAPPの買い入れペースや終了時期の見直しに着手する公算が大きい。ラガルド総裁は段階的な買い入れ縮小を支持する方針を示唆しており、周知期間も考えると、6月や9月の利上げ開始のハードルは高い。ECBは1~3月期のPEPPの買い入れペースを減らすとしているが、年明け以降も週毎の買い入れ規模は目立って減っていない(図表3)。PEPP終了時に買い入れ規模が一気に縮小することを回避するためには、やはりAPPの一時的な増額が必要とみられ、増額したAPPの買い入れを段階的に縮小・停止するには、2~3ヶ月では短すぎるように思える。4月にAPPを増額し、その後に段階的に買い入れを縮小、9月末に新規買い入れを終了し、12月に利上げを開始するのが、年内利上げ時の最短スケジュールではないだろうか。

(図表1)欧州中央銀行の資産買い入れの月額推移
(図表1)欧州中央銀行の資産買い入れの月額推移

(図表2)ユーロ圏の消費者物価の推移
(図表2)ユーロ圏の消費者物価の推移

(図表3)ECBのPEPP買い入れ額の推移
(図表3)ECBのPEPP買い入れ額の推移

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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