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英BOEの政策正常化が本格化へ

~2月の追加利上げでバランスシート縮小の条件が整う~

田中 理

要旨
  • 昨年12月の利上げ開始後、英国では物価の上振れや雇用改善が続いており、BOEは2月3日に追加利上げに踏み切る公算が大きい。これにより政策金利は0.5%に達し、BOEが量的緩和を通じて保有する資産の再投資を停止する条件が整う。BOEは利上げに続き、近くバランスシートの縮小に着手しよう。物価の大幅上振れが続くとみられることから、BOEはその後も5月と8月に利上げを継続し、政策金利は保有資産の売却を開始する条件を満たす1.0%に達すると予想する。物価の上振れとコロナとの共生模索が続くなか、政策正常化が本格化する。

英イングランド銀行(BOE)は昨年12月の金融政策委員会(MPC)で、コロナ危機後で初の利上げを開始し、政策金利を0.1%→0.25%に引き上げた。その後に発表された経済データからは、物価の一段の上振れや一時休業補助金終了後も労働需給の逼迫が継続していることが確認される。新型コロナウイルスの新規感染者は依然として高水準にあるが、年明け直後のピーク時から半減している。追加接種の進展や重症化率が限定的なことから、政府は19日に感染予防措置をほぼ全面的に撤廃することを決定。在宅勤務勧告を終了し、屋内施設でのマスクの着用義務やナイトクラブ・大規模イベント参加時のワクチン接種証明の提示義務を解除した。

足元の経済・物価・雇用動向は、昨年11月の金融政策レポート(旧物価レポート)でのBOEの想定を大きく上回っている。昨年10~12月平均の消費者物価は前年比+4.9%に達し、12月単月では同+5.4%に加速し、BOEの中央値予想の同+4.2%を大幅に上振れしている(図表1)。足元でエネルギー価格の高騰が続いており、今後も公共料金の追加引き上げが予想され、物価の上振れが続く公算が大きい。また、BOEは一時休業補助金利用者が労働市場に復帰することから、昨年9月末の同制度終了後は失業率が上昇すると見込んでいた。だが、昨年10月で終わる3ヶ月移動平均の失業率は4.2%と2020年12月の5.2%をピークに低下が続いており、BOEの中央値予想を上回って改善している(図表2)。昨年12月のMPCではオミクロン株の感染拡大への警戒がありながら利上げに踏み切ったが、年明け以降に新規の感染者は減少に転じている。昨年11月の月次GDPは前月比+0.9%と前期の落ち込みから力強い成長を記録し、月次ベースではコロナ危機以前の水準を回復した。代表的な企業景況感である1月の購買担当者指数(PMI)は製造業・サービス業ともに前月からやや低下したものの、底堅さを保っている。2月の金融政策レポートでは、昨年10~12月期の実質GDP成長率を上方修正するとともに、消費者物価のパスを大幅に上方修正、失業率のパスを下方修正(改善方向)するとみられる。こうした環境に鑑みれば、2月3日に結果が公表されるMPCでは追加利上げを決定し、政策金利を0.25%→0.5%に引き上げる可能性が高い。

BOEは昨年8月に金融政策の正常化に向けた政策指針を修正し、量的緩和を通じて保有する債券の再投資を終了する政策金利の水準を従来の1.5%から0.5%に引き下げた。2月に追加利上げを行えば、政策金利の水準は0.5%に達する。年内の償還スケージュールを確認すると、3月に300億ポンド弱の大型償還がある以外は、年後半に100億ポンド弱の償還が予定されている。利上げと同時に再投資の終了を決定し、バランスシートの縮小に着手する可能性が高い。物価の大幅上振れが続くとみられることから、BOEはその後も金融政策レポートの発表月である5月と8月のMPCで利上げを継続し、政策金利は1.0%に達すると予想する。BOEは政策金利が1.0%に達した段階で、保有資産の売却を通じたバランスシートの縮小に着手する方針を示唆している。物価の上振れとコロナとの共生模索が続くなか、BOEの政策正常化が本格化する。

(図表1)BOE金融政策レポートの消費者物価見通し
(図表1)BOE金融政策レポートの消費者物価見通し

(図表2)BOE金融政策レポートの失業率見通し
(図表2)BOE金融政策レポートの失業率見通し

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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