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ドラギの選択、首相続投か大統領転身か?

~イタリア大統領選出と政局安定の行方~

田中 理

要旨
  • イタリアでは来年2月のマッタレッラ大統領の任期が近づくなか、年明け早々にも後継大統領の選出手続きが本格化しよう。現在の議会構成を考えた場合、右派・左派・中道から幅広い支持を得られる人物を探すのは容易でない。ドラギ首相が自ら大統領就任に意欲を見せなくても、適任者が見つからずに、ドラギ首相が後継大統領に選出される可能性もある。その場合も後継首相が上下両院で信任されれば、ポピュリスト政権の誕生につながる前倒し総選挙は回避される。だが、後継首相がドラギ氏同様の幅広い信任を得られるかは不透明で、改革の推進力が低下したり、2023年の議会任期を待たずに政権運営が行き詰まる恐れがある。

イタリアの政局安定の鍵を握るのは、来年早々にも始まるマッタレッラ大統領の後継選出投票の行方だろう。国家元首である大統領は専ら儀礼的な存在とされるが、近年では議会の解散権や閣僚の任命権を通じて、一定の政治的な影響力を発揮してきた。来年2月3日に7年の任期を迎えるマッタレッラ大統領は続投の可能性を否定しており、任期満了までに後継大統領の選出手続きが行われる。投票は無記名で行われ、630名の下院議員、315名の上院議員と終身議員(現在は6名)、58名の地域代表の合計1009名が投票権を持つ。3回目までの投票は3分の2以上の賛成が必要で、4回目以降は単純過半数で足りる。無記名投票という性質から、過去の選出投票では白票・無効票・棄権票が多く、第二次大戦後の12回の投票のうち、初回で決まったのが2回、10回以上に及んだことも4回あり、最多は23回に及んだ(図表1)。予め立候補者を募って投票を行う通常の選挙とは異なり、本人への事前のすり合わせもないまま選出手続き中に新たな候補者が浮上し、そのまま大統領に選出されることも珍しくない。例えば過去3回の選出投票をみると、何れも初めの段階ではほとんど票を獲得していなかった候補が最終的に勝利している(図表2)。

現地メディアでは複数の候補者の名前が挙がるが、何れも決め手に欠ける。最終的に過半数の支持が必要で、現在の上下両院の議会構成を考えた場合、右派・左派・中道を問わず幅広い支持が得られる人物でなければ大統領に選出されることは難しい。そうしたなかで有力候補として度々名前が浮上するのが、今年2月に首相に就任した欧州中央銀行(ECB)前総裁のドラギ氏だ。元々ドラギ氏は首相就任以前はマッタレッラ大統領の有力な後継候補だった。政局不安定化とコロナ禍の難局に請われて首相に就任したが、ドラギ氏に代わる大統領候補の選出は難しいとの見方もある。本人は自身の進退についての明言を避けており、このまま大統領への就任に意欲を見せることがなかったとしても、後継選出投票が始まり、過半数の支持が得られる人物がいない場合、ドラギ首相が後継大統領に選ばれる可能性も否定できない。

その場合も後継首相が上下両院で信任されれば、2023年6月の議会任期を待たずに前倒しで解散・総選挙を行う必要はない(図表3)。議会の解散権を持つ大統領にドラギ氏が就任する場合、コロナ禍克服と復興に重要な局面での政局不安定化とポピュリスト政権誕生につながる総選挙を回避しようと考える可能性が高い。ドラギ氏の大統領就任と首相退任が決まれば、イタリアの政治安定が崩れるとの不安から金融市場に一時的に動揺が広がろうが、解散・総選挙が回避されることが確認されれば、市場の動揺は早期に収まろう。その場合も後継首相がドラギ首相ほどの幅広い信任を得られるとは限らない。改革の推進力が低下し、何れかの段階で政権運営が行き詰まり、任期前解散につながるとの不安は拭えない。

(図表1)イタリア大統領選出までの投票回数
(図表1)イタリア大統領選出までの投票回数

(図表2)過去のイタリア大統領選出投票の主な候補者と投票結果
(図表2)過去のイタリア大統領選出投票の主な候補者と投票結果

(図表3)イタリア政局シナリオのフローチャート
(図表3)イタリア政局シナリオのフローチャート

以上

田中 理


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