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BOEはテーパリングを開始

~2023年初頭の利上げに向けて動き出す~

田中 理

要旨

BOEは5月のMPCで政策金利と資産買い入れ目標を据え置いたが、国債の買い入れペースの減額を開始した。経済活動再開の前倒しや一時的な物価の押し上げ要因から、目先の景気や物価見通しを上方修正したが、早期の利上げ開始は想定していない。緩和的な金融環境を維持し、利上げ開始は2023年初頭を見込む。

英イングランド銀行(BOE)は6日、前日に終わった金融政策委員会(MPC)の結果を公表した。政策金利を0.1%に据え置くこと、社債の買い入れ目標残高を200億ポンドに維持することを全会一致で、国債の買い入れ目標残高を8750億ポンドに維持する(1月から年末前後までに1500億ポンドの国債を新規で購入することに相当する)ことを賛成8・反対1の賛成多数で決定した。チーフエコノミストを務めるホールデン理事は、国債の買い入れ目標残高を8250億ポンドに減額(新規買い入れを1500億ポンドから1000億ポンドに減額)すべきと主張した。BOEは同時に週毎の国債購入ペースを44億ポンドから34億ポンドに減額する運営指針を表明したが、年末前後までに1500億ポンドを購入する計画の全体像(総額と終了時期)は不変であるとし、今回の買い入れペースの減額を金融政策スタンスの変更と受け止めるべきではないと強調した。

同時に発表された金融政策レポート(旧物価レポート)では、予想より早いペースでの経済活動再開を受け、2021年の実質GDP成長率を前回(2月):+5.0%→今回(5月):+7.25%に上方修正し、需要前倒しを反映して逆に2022年を7.25%→5.75%に下方修正した(2023年は+1.25%で不変)。修正後の見通しでは今年の10-12月期にコロナ危機前のGDPの水準を回復すると見込み、前回2月時点の来年1-3月期から前倒しされた(図)。消費者物価の見通しは、原油価格の持ち直しやVATの時限減税終了の影響で、今年の10-12月期から来年の10~12月期までの間、一時的に物価目標である2%を超過するものの(ピークは2021年10-12月期の2.47%)、その後は予測期間を通じて2%をやや下回る水準で推移する。一時休業スキームが9月末まで延長されたことを受け、失業率のピークは今年の7-9月期の5.4%と、前回2月時点の7%超から大幅に下方修正された。

こうした見通しでの政策金利の前提は、先物金利の動向に基づき、2022年中に利上げを開始し、2022年10-12月期時点で現状対比で0.11%の利上げ、2023年10-12月期時点で0.39%の利上げ、予測最終期の2024年7-9月期時点で0.56%の利上げを想定する。前回2月時点の前提では、最大で0.14%の利下げを想定し、予測最終期の2024年4-6月期に現状の金利水準を回復するにとどまった。

BOEは目先の景気や物価を大幅に上方修正したが、何れも一時的なものとして早期の緩和縮小を想定していない。今回の国債の買い入れペースの縮小(テーパリング)開始も、予め想定していた買い入れ総額と終了時期に合わせた運営上の理由と説明している。他方で政策金利を現状に据え置いた場合の物価見通しは、一時的な押し上げ要因が終了した後も2%を上回って推移する展開を想定する。2022年中の受給ギャップ解消を見込んでいることもあり、2023年初頭の利上げ開始と平仄が合う。なお、早期の国債買い入れ縮小を主張したホールデン理事は、6月のMPC後に退任することを表明しており、今後の金融政策運営に与える影響は限定的と考えられる。

(図)英BOEの金融政策レポートの経済・物価・失業率見通し
(図)英BOEの金融政策レポートの経済・物価・失業率見通し

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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