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ドイツ憲法裁が復興基金にゴーサイン

~正式稼働への障害はまだ残っている~

田中 理

要旨

欧州復興基金の正式稼働に必要な関連規則の署名差し止めを命じていたドイツ憲法裁判所は21日、違憲の申し立てを退ける予備的判断を下した。これで基金の正式稼働に向けた障害の1つが取り除かれたが、4月末を期限とする復興計画の提出が遅れている国や、債券発行に必要な関連規則の議会承認が遅れている国が複数あり、引き続き基金の稼働が後ずれする恐れがある。

ドイツ憲法裁判所は21日、コロナ危機からの復興に必要な財政資金をEU加盟国に提供する欧州復興基金がドイツ基本法(憲法)に違反するとの申し立てを退ける予備的な判断を下した。復興基金の正式稼働には、基金の原資となる債券発行を可能にする関連規則(Own Resources Decision)を全てのEU加盟国が批准する必要がある。ドイツ連邦議会は関連規則を先月に承認済みだが、違憲審査の申立てを受け、憲法裁判所は3月26日、申し立てに対する法的判断を下すまでの間、シュタインマイヤー大統領に発効に必要な署名手続きをしないように要請していた。

憲法裁判所は申し立てが全くの根拠を欠く訳ではなく、基金の返済原資の穴埋めで連邦議会の財政主権を脅かす恐れがあるとの訴えを認めたが、同時に基金の規模は限定的なうえ、EUには基金の返済原資を補う別の手段があり、ドイツ政府に財政上の負担が発生し、ドイツ基本法に違反する可能性は高くないと説明。正式な法的判断で最終的に違憲となる可能性もあるが、今回申し立てを退ける予備的な判断を下し、基金の稼働を妨げないことによる利益が上回るとの見解を表明した。今後も正式な法的判断の検討が継続され、欧州司法裁判所に法的判断を付託する可能性もあり、最終判断が出るまでには年単位の時間を要するとみられる。最終的に違憲と判断される可能性もゼロではないが、今回の憲法裁判所の説明からはその可能性は低そうだ。

これで基金の正式稼働に向けた障害の1つが取り除かれたが、4月末を期限とする復興計画の提出が遅れている国があるほか、4月14日の時点で27ヶ国のうち10ヶ国(ドイツ、オランダ、オーストリア、アイルランド、フィンランド、ハンガリー、ポーランド、ルーマニア、エストニア、リトアニア)が債券発行に必要な関連規則の発効を終えていない。ドイツの発効は時間の問題だが、3月に総選挙が行われたオランダでは政権発足協議が難航しており、早期の発効が危ぶまれている。また、ポーランドでは復興計画を巡って連立与党内の意見対立が続いており、関連規則の議会承認に必要な野党勢の協力取り付けも難航している。提出された復興計画は欧州委員会が審査したうえで閣僚理事会で承認される。計画承認に2~3ヶ月程度を要し、7~8月頃には加盟国が初回の資金を手にすると見られてきた。計画承認の間に残りの加盟国が関連規則の議会承認を終えなければ、債券発行を開始できず、資金拠出が秋以降に後ずれすることになる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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