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2025.04.01
国際秩序
安全保障
防衛
民主主義
トランプ政権
自由の守護者か、秩序の破壊者か、変貌する米国
~Freedom in the World 2025公表、米国の「力の支配」を憂う~
石附 賢実
1.世界で19年連続の自由度低下
2025年2月に米Freedom Houseによる年次の“Freedom in the World 2025”(以下、報告書)が公表された。1973年の調査開始以来、世界各国・地域を独自メソッドに基づいて自由度を100点満点で点数化し、Free(自由)、Partly Free(一部自由)、Not Free(自由ではない)に区分しており、その推移を経年で追える貴重な調査だ。報告書の調査対象は2024年であり、19年連続で全体的な自由度は低下しているとされる。60カ国で政治的権利と市民的自由が悪化し、改善が見られたのは34カ国にとどまった。
2024年は史上最多規模の選挙の年であったが、40%以上の選挙が暴力や不正により影響を受けたとされる。メキシコや南アフリカでは犯罪組織が候補者を襲撃し、フランス、韓国、米国では極端な政治的対立が暴力につながる事態となった。さらに、ロシアやチュニジアのように、選挙制度そのものが操作の対象となり、有力な野党候補が排除されるケースも増えている。
民主主義国であっても、選挙によって選ばれた指導者が司法やメディアの独立性を傷つける例が増えている。韓国では、尹錫悦大統領が戒厳令を宣言し、その後撤回されたが混乱が続いている。スロバキアやメキシコでは、司法制度や汚職対策機関の権限が縮小され、政府の不正を監視する力が弱まっているとされる。調査の詳細はFreedom HouseのHPを参照されたい(https://freedomhouse.org/report/freedom-world)。

2.民主主義 vs 権威主義のイメージで世界のパワー・バランスを見てきたが・・・
拙稿(2024)では、本調査の3つの区分に基づいてGDPを積算し、パワー・バランスの推移をみている。資料2は拙稿(2024)のグラフの直近年度のデータを報告書の2024年調査分にアップデートしたものである。先に見たように自由度の悪化傾向は引き続いているものの、一見、Free国のパワーの後退は落ち着きを見せているように見える。
拙稿(2024)において、民主主義陣営のパワーを維持するには、Free国が経済成長することに加えて、各国において民主主義の度合いを維持・高めることが必要と指摘していたところであるが、それどころではなくなっている。昨今の国際情勢、特に米国の振る舞いは、ロシアとの融和や同盟国への恐喝といった、これまでの想定のはるか斜め上を行くものだ。もとより「民主主義vs権威主義」といった綺麗な色分けができる世界ではないが、国内については「自由」で「法の支配」(注1)が機能していたとされる米国が、国際秩序の最大の不安定要因となっているとすれば、資料2のように自由度別にパワー・バランスを見ることが無意味になってしまう可能性がある。なぜなら、国内の自由度の高い、法の支配が機能している国が、国際社会においても法の支配を重視する、という暗黙の価値観が崩れるからだ。

3.今後の行方~力の支配が進むなかでミドルパワー国が結集する必要がある
2025年1月に米国ではトランプ大統領が就任し、2025年2月のゼレンスキー大統領との会談は決裂の様相をみせた。ウクライナ侵略3年を機に提出されたロシア非難の国連決議に対して、中国が棄権するなかで米国はロシアや北朝鮮とともに反対票を投じている。トランプ大統領はグリーンランドやパナマ運河獲得の欲望を隠さないなど、他国の主権を脅かす発言を繰り返している。
報告書によれば米国の点数は84点と、日本の96点、カナダの97点、イギリスの92点などと比べると低いものの、Freeに分類されている(資料1)。大きな問題は、先ほども述べた通りFreeとされる米国が、権威主義的な国とともに国際秩序を揺るがしている点にある。国内では分断・格差など数多の問題があれども、法の支配に従って選出された米国の大統領が、国際社会において「法を無視した力の支配」を誇示することは、これまで少なくとも公然とは行われてこなかった。力の強い国が「法の支配の維持に適切に力を使うこと」、これが国際的に法の支配が成り立つ前提の一つであろうし、ダブルスタンダードとの批判を浴びながらも、米国はそのように振る舞おうとしてきたはずである。
この先、力のある国が力を誇示し弱い国を従わせる、「力の支配」の世界となってしまうのだろうか。今のところ米中関係は競争関係であって、蜜月関係には程遠いが、経済力・軍事力が突出した両国と、巨大な核戦力を持つロシア、即ち米中ロが「力」で幅を利かせ、国際秩序を規定する世界となってしまうことは万が一にも避けたい(注2)。
しかし、かような秩序が前提となってしまう場合、パワー・バランスを考える上で国家を①「力の支配を行使しうる大国」、②「法の支配を重視するミドルパワー国」、③「その他の新興国」に分類して考えていく必要が出てくるかもしれない。日欧は②「法の支配を重視するミドルパワー国」に属することになるが、③「その他の新興国」を巻き込み、力の支配にうまく対抗していく道筋を描いていく必要がある。欧州の一部極右政党がトランプ政権と距離を置き始めているのは、彼ら自身は①にはなりえず、かといって同盟国や同志国ですら侮辱する相手に頼り切ることもできないからであろう。
現状、日本、そして欧州の多くの国が米国と軍事同盟を結んでいる。米国に頼りながらも米国から「デリスキング」(注3)的に自立を志向する、そして、法の支配を信奉する・信奉せざるを得ない国々が連携して力の支配に対抗していく- ミドルパワー国には、このような難しいかじ取りが求められていくことになる。中国が③を取り込む動きも加速されよう。また、現状は厳しいものの欧州が米中に対抗しうる「力」を獲得すべく結束できるかどうかも、オプションとしては排除されまい。国際情勢の変化に対応したパワー・バランスの様々な描き方については追って考察してみたい。
報告書の調査は2024年時点となり、トランプ大統領の就任前である。トランプ第一次政権にも増して強権的な政権運営、一部の通信社を締め出すなどホワイトハウスにおける報道の自由が低下している現状に鑑みると、米国自体の法の支配が揺らぎ、次回調査では米国の点数がさらに下がることも予想される。米Freedom Houseは自由や民主主義といった価値観を世界に広めるために、1973年に“Freedom in the World”の公表を開始した。当時は誰も、米国自身の自由度を心配し、米国が国際秩序における法の支配の最大の不安定要因となりつつある現状を、まさか想像していなかったであろう。
【注釈】
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石附賢実(2023)「【1分解説】法の支配とは?」参照。
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ロシアはウクライナの停戦に当たり、米ロ間の会談で決着をつけて戦勝国として振舞おうとしているとされ、ロシア国内メディアではこのような大国による秩序形成をヤルタ会談になぞらえて「ヤルタ2.0」などと表現しているとされる。ヤルタ会談とは、1945年2月に旧ソ連・クリミア半島ヤルタに米英ソの首脳が集まり、大戦後の勢力圏などを決めた会談である。
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石附賢実(2023)「【1分解説】デリスキングとは?」参照。
【参考文献】
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Freedom House (2025) “Freedom in the World 2025”
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IMF (2024) “World Economic Outlook October 2024”
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石附賢実(2024)「不正選挙と暴力の代償~岐路に立つ民主主義、Freedom House年次報告からパワー・バランスを紐解く~」
石附 賢実
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

