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両利きの国際協力

~G20が挑む、政府と市民の両アプローチ~

田村 洸樹

要旨
  • 本稿は、2024年から市民主導の「G20ソーシャルサミット」が新たに開催されたことを踏まえ、G20が挑む「両利きの国際協力」について解説するものである。
  • G20とは、世界経済の安定と成長を主目的とし、19の主要国と欧州連合(EU)・アフリカ連合(AU)で構成される国際協力プラットフォームである。多様な地域と発展段階の国を包摂し、国連の持つ普遍性とG7の持つ世界経済への影響力を兼ね備えた存在といえる。
  • G20サミットとは、G20のプラットフォームを通じて、国際課題の解決等に向けた議論や国際協力のための提言等を「政府と市民の両アプローチ」で取りまとめるプロセスである。「政府のアプローチ」では、各国の閣僚や政策立案者が分野毎にまとめた提言を「G20リーダーズサミット」で最終合意する。一方、「市民のアプローチ」では、若者(Y20)、経済界(B20)等のエンゲージメントグループがまとめた提言を「G20ソーシャルサミット」で最終合意する。
  • 例えば、2024年のG20リーダーズサミットでは「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」の設立が合意された。これは、まずG20開発大臣会合や飢餓貧困閣僚級会合による政府のアプローチで設立が提唱され、その後、Y20サミット、B20サミット、G20ソーシャルサミット等の市民のアプローチによる多角的・分野横断的な視点の提言を踏まえ、最終的な合意形成に至ったものである。
  • 2024年に初めて開催されたG20ソーシャルサミットは、G20の「両利きの国際協力」の側面を、さらに堅牢な枠組として体系的に確立させた。G20サミットの本質は、最終成果ではなく、その過程(プロセス)にある。政府と市民の両アプローチで、コンセンサスに基づいた未来の姿を描いていく、両利きの国際協力プラットフォームとしてのG20のさらなる高度化と、今後の国際課題の解決への貢献に期待したい。
目次

1. はじめに

本稿は、2024年から市民主導の「G20ソーシャルサミット」が新たに開催されたことを踏まえ、G20が挑む「両利きの国際協力」について解説するものである。本稿では、閣僚等による「政府のアプローチ」と、若者や経済界等による「市民のアプローチ」を両立させる国際協力の在り方を「両利きの国際協力」と表現している。

2. G20とは

G20とは、世界経済の安定と成長を主目的とする、19の主要国と欧州連合(EU)・アフリカ連合(AU)で構成される国際協力プラットフォームである(資料1)。本章では、G20の特徴を「加盟国の数と影響力」と「加盟国の多様性」の観点から、他の主要プラットフォームである「国際連合(国連)」及び「G7」と比較して解説する。

図表
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(1) 加盟国の数と影響力

資料2の通り、国連は、世界平和と安全を主目的に、第二次世界大戦後の1945年に設立された国際協力プラットフォームである。加盟国は193カ国にのぼり、世界人口の99%、世界経済の98%を占める。ほぼすべての国が加盟する普遍性(注1)を備えている。

国連とは対照的に、僅か7カ国(米国、カナダ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、日本)で構成された国際協力プラットフォームがG7である。G7は、1970年代に発生した第一次石油危機への対応を主目的に設立され、経済規模の大きな先進国のうち「共通の価値観(人権や民主主義等)」を共有することに重点を置いている。G7加盟国が占める世界人口は僅か10%である一方、世界経済(GDP)の半数近い45%のプレゼンスを占める経済的な影響力を持つ。G7は少数国が自分たちの価値観に基づいて意思決定を行っている点が、普遍性を重視する国連とは大きく異なる特徴といえる。

この文脈において、G20は国連とG7の中間に位置づけられる。G20は、1990年代後半に発生したアジア通貨危機をきっかけとして、世界経済の安定と成長を主目的に設立された。加盟国は、G7にそれ以外の主要国を加えた19カ国で構成され、カバーする世界人口は58%、GDPは78%にのぼる。国連の持つ普遍性とG7の持つ経済的な影響力を併せ持つ国際協力プラットフォームといえる。

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(2) 加盟国の多様性

資料3の通り、G20の主要19カ国は、東南アジア・太平洋、欧州・中央アジア、ラテンアメリカ・カリブ海、中東・北アフリカ、北米、南アジア、サハラ以南アフリカの7つの地域すべてをカバーする。これは、東南アジア・太平洋、欧州・中央アジア、北米の3地域のみカバーするG7と異なり、G20は多様な地理的特性、文化、歴史をもつ国の意見が反映される枠組といえる。

さらに、国の発展段階を示す所得水準では、G20の主要19カ国が、高所得、中所得(上位)、中所得(下位)、低所得国のうちの3つをカバーしている。高所得しかカバーできていないG7とは異なり、G20は多様な発展段階にある国の意見が反映される。

図表
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ここで、EUとAUを通じてG20に間接的に参加する国を含めた場合、加盟国の数は97カ国(南サハラを除く)まで拡大する。つまり、すべての地域と所得水準の国をカバーすることになり、国連に匹敵する包括性(注2)を有するといえる。G20は、多様な地域と発展段階の国を包摂する枠組としての機能を果たす潜在力を持っている。

3. G20サミットとは

G20を通じて、国際課題の解決等に向けた議論や国際協力のための提言等を「政府と市民の両アプローチ」で取りまとめるプロセスを「G20サミット」と呼ぶ。毎年開催されるG20サミットには、従来から開催されている「G20リーダーズサミット」と、2024年から開催が始まった「G20ソーシャルサミット」がある。本章では、「政府と市民による両アプローチの全体像」と「合意形成までの流れ」を解説する。

(1) 政府と市民の両アプローチの全体像

資料4の通り、G20サミットは、国や省庁の枠を超えた、横断的かつ網羅的な視点での政策議論を促進するため、政府と市民の両アプローチがとられている。社会的役割の視点で様々なステークホルダーが、省庁横断的な提言を提出することで、政府のアプローチで陥りがちな縦割りの壁を壊し、「横串」を刺す役割を担っている。

図表
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「政府のアプローチ」では、各国の閣僚や政策立案者が分野毎にまとめた提言を「G20リーダーズサミット」で最終合意する。複数の大臣会合(デジタル経済大臣会合、教育大臣会合等)が開催され、特定分野に焦点を当てたコミュニケがまとめられる。

一方、「市民のアプローチ」では、若者(Y20)、経済界(B20)等のエンゲージメントグループがまとめた提言を「G20ソーシャルサミット」で最終合意する。エンゲージメントグループとは、G20において、若者、経済界、労働者、女性、研究者等、社会を構成する者を代表する13のグループ(注3)を指す。多くの場合、各国の市民団体やNPO・NGO等が参加しており、日本からは、経済界を代表するB20に日本経済団体連合会、科学アカデミーを代表するS20に日本学術会議、若者を代表するY20にG7/G20 Youth Japan等の組織や団体が参加している。

(2) 合意形成までの流れ

資料5では、2024年のG20リーダーズサミットで合意された「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの設立」を例に挙げ、政府と市民のアプローチがどのように合意形成に関わってきたかをまとめている。

図表
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まず、政府のアプローチとして、2024年7月22日のG20開発大臣会合のコミュニケが「飢餓と貧困の撲滅に向けた取組を支援し加速化させるために、飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの創設を期待する」との文言を盛り込み、続く7月24日のG20飢餓貧困閣僚級会合の成果文書が「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの創設をエンドースし、2024年11月のG20首脳会議における立ち上げを期待する」旨を提唱した。一方、市民のアプローチでは、政府の「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの設立」について活発な議論や提言のとりまとめが行われた。

例えば、8月16日のY20(ユース)サミットでは「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスの政策バスケット(注4)にある学校給食プログラム等の政策介入を支援すべき」との具体的な取組テーマに関する提言が示された。また、8月28日のB20(ビジネス)サミットでは「飢餓、貧困、不平等に対処するには、社会保障措置の拡大、公共サービスの提供効率を向上させるためのデジタル技術の活用、中小企業や自営業者への的を絞った支援、農業部門を強化するための政府支援等、包括的な戦略が必要」との文言が盛り込まれ、多角的かつ分野横断的な取組みの重要性が指摘された。

これらすべてのエンゲージメントグループによる市民のアプローチを踏まえ、11月14日のG20ソーシャルサミットは「G20諸国およびその他のすべての国々が飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンスに参加すること」を緊急かつ最優先の事項と指摘した。同時に、飢餓と闘う公共政策やプログラムに資金提供するためのファンド設立や、G20諸国およびその他のすべての国々と国際機関の相互協力の促進を求めるコミュニケを採択した。

11月18日のG20リーダーズサミットにおいては、ここまでの政府・市民の両者の議論や提言を踏まえ「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」が設立された。アライアンスには、現時点(2025年3月)で92カ国、46の財団、26の国際機関、10の国際金融機関が参加しており、49の政策活動が行われている。

4. おわりに

コロナパンデミックや気候変動等、我々が現在直面している国際課題は、ひとつの国や政府だけでは解決できない。世界経済や国際社会は相互依存的な関係にあり、多国間による国際協力や、政府、民間企業、市民社会等多様なステークホルダーとともに、課題解決に向けた議論や合意形成を行う必要がある。G20は、限られた国の数で包括性を担保できる効率的な枠組であり、エンゲージメントグループによる構造化された仕組みでマルチステークホルダーの関与が確保されている点が特徴的である。

資料6の通り、従来のG20サミットは、政府と市民の要望が「G20リーダーズサミット」に集中する構造となっていた。しかし、2024年に初めて(注5)「G20ソーシャルサミット」が開催されたことで、これまで個別に受け止められてきたエンゲージメントグループの意見が、効率的に政府のアプローチへとインプットできる仕組みとして確立した。つまり、G20の「両利きの国際協力」の側面を体系的に実現したのである。

図表
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近年では、価値観の相違やロシアのウクライナ侵攻などの地政学的問題等により、G20リーダーズサミットにおいて共同声明の合意が困難な場面があることも事実である。しかし、これは政府のアプローチに限らず、市民のアプローチでも同様である。

例えば、Y20コミュニケ2024の注釈(注6)からは、「人道支援、食糧支援、緊急支援が必要とされる特定の国や状況」、「脆弱なグループの定義」、「SDGs達成の位置づけ」等で意見が一致しなかったことが読み取れる(資料7)。過去の経験や価値観に捉われない、比較的柔軟な考えを持った若者であっても、すべての国が全会一致で合意することは容易でない。

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G20サミットの本質は、最終成果ではなく、その過程(プロセス)にある。G20の意思決定の前提にある、コンセンサスに基づく合意とは、言い換えれば、全員が納得して約束できる「妥協点を探ること」に他ならない。多様な立場を尊重し、最適な解を探すプロセスを継続することこそが国際協力の本質ではないだろうか。

政府のアプローチだけでなく、市民のアプローチを体系化するための「G20ソーシャルサミット」の試みは、まだ始まったばかりである。政府と市民の両アプローチで、コンセンサスに基づいた未来の姿を描いていく、両利きの国際協力プラットフォームとしてのG20のさらなる高度化と、今後の国際課題の解決への貢献に期待したい。

以 上

【注釈】

  1. 普遍性とは、すべてのものに通じる性質のことである。国連は、世界のほぼすべての国が加盟しているため、普遍性を有する国際機関といえる。

  2. 包括性とは、様々な要素を網羅することである。G20主要19カ国にEUとAUの加盟国を合わせた97カ国は、世界銀行の区分において、国連と同様にすべての地域と所得水準を網羅しているため、国連に匹敵する包括性を有する枠組といえる。

  3. Business(B20)、Urban(U20)、Judiciary(J20)、Parliament(P20)、Civil(C20)、Startup(Startup20)、Think-tank(T20)、Supreme Audit Institutions(SAI20)、Science(S20)、Youth(Y20)、Women(W20)、Labour(L20)、Ocean(O20)の13団体。

  4. ここでの政策バスケットは、アライアンスが取組むプログラムの一覧を指す。

  5. G20リーダーズサミットのコミュニケ内で明示的に言及されたのは初めて。

  6. 意見の不一致は、共同声明等のコミュニケにおいて注釈で対処されることが多い。

【参考文献】

田村 洸樹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

田村 洸樹

たむら ひろき

総合調査部 主任研究員(~25年3月)
専⾨分野: 国際政策、環境・エネルギー

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