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OECD加盟国拡大の戦略的意図

~自由主義陣営による国際秩序の実現とルールメイキングの主導への挑戦~

田村 洸樹

要旨
  • OECDは1961年の設立以来、加盟国数を20から38まで約2倍に拡大した。冷戦終結を境に急拡大し、特に1991年~2006年と2006年~2021年の各15年間にそれぞれ6カ国と8カ国が加盟している。現在、8カ国が加盟候補国として審査を受けており、これらが加盟すれば46カ国まで拡大する。
  • 加盟国の拡大は、主に欧州・アジア太平洋・中南米カリブ地域に集中している。原加盟国は欧州18カ国と北米2カ国であったが、その後の追加加盟国18カ国は欧州9カ国、アジア太平洋5カ国、中南米カリブ4カ国となっている。
  • 加盟国の経済規模の多様化が進んでいる。設立時の原加盟国は、19カ国が先進国と呼ぶに相応しい経済規模を誇っていたが、その後の追加加盟国は、1960~1970年代に加盟した4カ国のみが原加盟国と同水準の経済規模だった。特に直近の2カ国は新興途上国並みの経済規模で加盟を果たしている。
  • このような背景から、二つのOECD加盟国拡大の戦略的意図が読み取れる。一つ目は、自由主義陣営による国際秩序の実現である。OECDへの加盟は実質的な自由主義陣営への参加と同義とみなすことができる。冷戦終結後の加盟国拡大は、権威主義陣営や第三勢力の国々を自由主義陣営に取り込もうとする意図の表れである。
  • 二つ目は、自由主義陣営によるルールメイキングの主導である。OECDはこれまで多くの国際規範を非加盟国に広げてきた。しかし、近年は経済的な影響力が低下している。アジア太平洋や中南米カリブ地域の新興国を中心とした加盟国の拡大は、追加加盟国を取り込むことでルールメイキングの主導権を維持しようとする意図の表れである。
  • 地球規模の課題を解決に導くことができるLike-mindedな(共通の価値観を持つ)国の集まりへの期待は高まっている一方で、OECDの影響力は低下し、自由主義陣営の一体性に影を落としている。OECDには、組織の多様性と包括性を高めながら、共通の価値観を維持するという難しい舵取りが迫られている。
目次

1. はじめに

本稿の目的は、OECD(経済協力開発機構)による加盟国拡大の歴史を振り返り、その背景にある戦略的意図を考察することである。まず、OECD原加盟国、追加加盟国、加盟候補国(注1)の計46カ国(資料1)について、加盟国数の推移、加盟国の地理的分布、加盟国の経済規模の視点で整理する。次に、加盟国拡大の背景にある二つの戦略的意図について、自由主義陣営による国際秩序の実現と、自由主義陣営によるルールメイキングの主導の観点から考察する。

図表
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2. OECD加盟国拡大の歴史

(1)OECD加盟国数は冷戦終結を境に急拡大

OECDは、世界経済の発展、国際協力の推進、途上国開発の支援を主な目的として、1961年に設立された国際機関である。統計データに基づく政策提言などを行う「世界最大のシンクタンク」として知られている。もともと、第二次世界大戦後の欧州復興を目的としたOEEC(欧州経済協力機構)から発展的に改組された経緯があり、設立当初の加盟国は欧米諸国であった。

OECD設立からの60年間(1961年~2021年)で、加盟国の数は20から38まで約2倍に拡大した。特に、1991年の冷戦終結(ソ連崩壊)を境に、旧社会主義圏の諸国が市場経済の導入や民主化を実現させたことでOECDへの加盟が急速に進展し、それまでの30年間で4カ国だった加盟国の数は、1991年~2006年までの15年と2006年~2021年の15年の間にそれぞれ6カ国と8カ国拡大している(資料2)。 

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現在、OECD加盟に向けた審査(注2)を受けている加盟候補国は8カ国である(資料3)。これは、現行の加盟審査プロセス(注3)が導入されて以降、同時進行中の数として過去最多である。8カ国すべての加盟候補国の加盟が実現すれば、OECD加盟国の数は46カ国まで拡大する。

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(2)加盟国拡大の地域は欧州・アジア太平洋・中南米カリブに集中

OECD原加盟国、追加加盟国、加盟候補国の地理的分布を見てみよう(資料4)。設立時の原加盟国は、欧州18カ国(アイスランド、アイルランド、イギリス、オーストリア、オランダ、ギリシャ、スイス、スウェーデン、スペイン、デンマーク、ドイツ、ノルウェー、フランス、ベルギー、ポルトガル、ルクセンブルク、トルコ、イタリア)と北米2カ国(米国、カナダ)であった。

その後の追加加盟国18カ国は、欧州9カ国(フィンランド、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、エストニア、スロベニア、ラトビア、リトアニア)、アジア太平洋5カ国(日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、イスラエル)、中南米カリブ4カ国(メキシコ、チリ、コロンビア、コスタリカ)であった。つまり、欧州以東および北米以西・以南へと加盟国を拡大している。

さらに、加盟候補国8カ国は、欧州3カ国(クロアチア、ブルガリア、ルーマニア)、アジア太平洋2カ国(タイ、インドネシア)、中南米カリブ3カ国(アルゼンチン、ブラジル、ペルー)である。つまり、設立後の60年間、OECD加盟国拡大における地理的なアプローチは一貫して欧州・アジア太平洋・中南米カリブに集中しており、現時点ではアフリカなどの地域からの追加加盟国および加盟候補国は存在していないが、2025年にG20議長国を務める南アフリカが今後アフリカ初の加盟候補国になる可能性もある。

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(3)加盟国の経済規模は多様化が進展

OECD原加盟国、追加加盟国、加盟候補国の経済規模を見てみよう(資料5)。ここでは対人口比の経済規模を比較するため、1人当たり名目GDPに着目する。原加盟国と追加加盟国については加盟当時の順位、加盟候補国については2023年時点の順位で整理する。

設立時の原加盟国は、19カ国(米国、スウェーデン、カナダ、ルクセンブルク、スイス、ノルウェー、デンマーク、イギリス、アイスランド、フランス、ベルギー、ドイツ、オランダ、オーストリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリア)が先進国と呼ぶに相応しい経済規模を誇り、トルコのみが55位だった。

その後の追加加盟国は、既に多くの経済大国が設立時から加盟していることもあり、1960~1970年代に加盟した4カ国(日本、フィンランド、オーストラリア、ニュージーランド)のみが原加盟国と同水準の経済規模だった。残りの14カ国はすべて40~70位台に集中しており、特に直近の2カ国(コロンビア117位、コスタリカ81位)は新興途上国並みの経済規模で加盟を果たしている。さらに、加盟候補国8カ国の経済規模は、現時点で60~100位台が中心である。

OECDは、設立時からの「先進国クラブ」としての性質を加盟国の拡大によって段階的に薄めており、近年では加盟国の経済規模の多様化が進んでいることが分かる。

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3. OECD加盟国拡大の戦略的意図

OECDは、冷戦終結を境に、欧州・アジア太平洋・中南米カリブへの集中的な加盟国拡大を進めてきた。その結果、加盟国の経済規模の裾野は広がっている。本章では、これらの事実を踏まえ、加盟国拡大がもつ戦略的意図を「自由主義陣営による国際秩序の実現」と「自由主義陣営によるルールメイキングの主導」の二つの側面から考察する。

(1)自由主義陣営による国際秩序の実現

法の支配、人権、民主主義、自由主義経済などの「共通の価値観」を重視する欧米諸国を中心とした国の集まりを「自由主義陣営」、それに対抗する国の集まりを「権威主義陣営」、どちらにも属さない国々を「第三勢力」と定義した場合(資料6)、OECDへの加盟がもつ意味を国際秩序の観点から見てみよう。

図表
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OECDが10年毎に策定しているビジョンには、一貫してOECDという組織が自由主義陣営の価値観に基づくコミュニティである旨が明記されている。つまり、OECDへの加盟は、実質的な自由主義陣営への参加と同義とみなすことができる(資料7)。

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このような前提に基づけば、冷戦終結を境に加盟国数が拡大したことや、その多くが旧権威主義陣営の国々であったことを踏まえると、OECDの加盟国拡大は、権威主義陣営や第三勢力の国々を自由主義陣営に取り込もうとする「自由主義陣営による国際秩序の実現」という戦略的意図を持つものと解釈できる。

(2)自由主義陣営によるルールメイキングの主導

OECDは、自由主義陣営の経済成長・国際協力・途上国支援のため、共通ルールやスタンダードなどを策定してきた。これらのルールは、当初共通の価値観に基づいてOECD加盟国向けに作られたが、多くは国際規範として非加盟国にも広がっている。

例えば、「外国公務員贈賄防止条約(Convention on Combating Bribery of Foreign Public Officials in International Business Transactions)」や「国際投資及び多国籍企業に関する宣言(Declaration on International Investment and Multinational Enterprises)」などの法的・政治的拘束力のある条約や宣言、さらに「OECD移転価格ガイドライン(OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations)」や「OECDプライバシー保護とデータの国境を越えた流通に関するガイドライン(OECD Guidelines on the Protection of Privacy and Transborder Flows of Personal Data)」などの法的拘束力のないガイドラインは、多くの非加盟国にも影響を与える国際規範として機能している(資料8)。

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OECDは、原加盟国のほとんどが経済大国であったからこそ、加盟国内に留まらず国際的なルールや規範を普及・定着させるルールメーカーとしての代表性を持つことができていた。

しかし、近年、OECDの影響力は低下傾向にある。世界の名目GDPに占める原加盟国の割合は69%(1961年)から49%(2023年)まで縮小している一方、特に近年のグローバルサウスの経済発展により、非加盟国の割合が39%(2023年)まで拡大している(資料9)。

図表
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BRICS(注4)に代表されるような、権威主義陣営による第三勢力の囲い込みは、自由主義陣営と権威主義陣営の間で第三勢力の奪い合いが始まっていることの表れだ。自由主義陣営は追加加盟国を取り込むことで辛うじて国際経済の過半数のプレゼンスを維持しているといえよう。

このような、アジア太平洋や中南米カリブ地域の新興国を中心とした加盟国の拡大や、自由主義陣営を取り巻く権威主義陣営との競争環境の激化を踏まえると、OECDの加盟国拡大は、第三勢力の国々を取り込むことでルールメイキングの主導権を維持しようとする戦略的意図を持つものと解釈できる。

4. おわりに

世界は金融危機、パンデミック、気候変動など、前例のない地球規模の課題に直面している。グローバル化とデジタル化が進んだ現代社会では、一国だけでは解決できない問題が増加している。地球規模の課題を解決に導くことができるLike-mindedな(共通の価値観を持つ)国の集まりへの期待は高まっている。

一方で、OECDの影響力は低下し、権威主義陣営が力をつけて第三勢力の囲い込みに動いている。そのような中で、自国第一を掲げるトランプ政権下の米国が、自由主義陣営の一体性に影を落としている。国際秩序の混乱と不安定化は深刻さを増している。

OECD加盟国の拡大は、自由主義陣営による国際秩序の実現と、ルールメイキング主導権の維持への貢献が期待される一方、全会一致による意思決定が難しくなるなどの懸念材料も多分に含んでいる。OECDには、組織の多様性と包括性を高めながら、共通の価値観を維持するという難しい舵取りが迫られている。

以 上

【注釈】

  1. OECD加盟国となることに関心と決意を公式に示したOECD非加盟国またはOECDの関連性と影響力の観点から加盟の優先国として理事会が指定した国を「OECD加盟予定国(A prospective Member)」と呼ぶ。OECD理事会が、加盟予定国との協議開始を決定し、OECD事務総長によって作成された加盟ロードマップを採択することで、加盟に向けた審査プロセスが開始する。本稿では、加盟に向けた審査プロセスが開始された段階の国を「OECD加盟候補国」と呼んでいる。したがって、現時点でOECD加盟協議は開始されているものの、加盟ロードマップの採択に至っていないウクライナについてはOECD加盟候補国に含めていない。
    https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/about/legal/framework-for-consideration-prospective-members.pdf

  2. OECD加盟に向けた審査プロセスとは、28の主要OECD委員会等が加盟候補国の「OECDルールを実践する意思と能力」と「OECDベストプラクティスとの整合性」を7分野の政策領域の視点で評価すること。OECDルールには、2025年2月現在有効なもので273の勧告・宣言・条約などが存在する。各委員会等が審査結果を公式見解として審査完了時点で、OECDの最高意思決定機関であるOECD理事会へと提出され、全会一致で加盟が承認される。(https://legalinstruments.oecd.org/

  3. 現行のOECD加盟審査プロセスは、1990年代後半に策定された「ノボルレポート」を基礎としており、厳格かつ包括的な評価を通じて加盟候補国の適格性を判断する。2004年に採択された”A Strategy for Enlargement and Outreach(通称:「ノボルレポート」)”は、OECD加盟プロセスの基本原則を定めた文書。OECDの将来的な規模と加盟国構成に関する重要な提言を行い、追加加盟国の受け入れ基準を明確化した。ノボルレポート以前にも、OECDには加盟審査プロセスが存在していたが、より体系的で厳格なプロセスが確立された。「ノボル」は当時、作業部会(Heads of Delegation Working Group on the Enlargement Strategy and Outreach)の議長を務めていたOECD日本政府代表部の登誠一郎大使の名に由来。

  4. BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5か国の頭文字を取った言葉であり、今後大きく成長することが期待される代表的な新興国を指す。2025年のBRICS議長国を務めるブラジル政府のホームページ(https://brics.br/en/about-the-brics)によれば、現在のBRICS構成国はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピア、インドネシア、イランの11カ国とある。本稿では、ロシアと中国を権威主義陣営、その他を第三勢力に分類している。

【参考文献】

田村 洸樹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。