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2024.11.05
SDGs・ESG
持続可能な社会(SDGs)
環境・エネルギー・GX
地方創生
脱炭素社会の実現に向けたカーボンプライシングの活用
~地方創生とGX-ETSに対してJ-クレジットが果たす役割~
加藤 大典
- 要旨
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- カーボンプライシングとは、排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させる経済的政策手法である。さまざまな仕組みがあるが、本稿は「J-クレジット」制度に焦点をあてる。
- J-クレジット制度とは、国による「国内における地球温暖化対策のための排出削減・吸収量認証制度」のことである。中小企業・自治体等の省エネ・再エネ設備導入等を促進するとともに、クレジットの活用による国内での資金循環を促すことで環境と経済の両立を目指している。
- J-クレジット制度は、重要な社会課題の一つである「地方創生」の解決にも役立つ。地域で創出されたJ-クレジットを購入することにより、当該創出者・地域に資金が循環し、その資金を元にさらなる設備投資や環境配慮の取組みにつなげることで、産業の活性化つまり地方創生の一助となり得る。「地産地消」すれば人のつながりも含めより深く直接的に地域社会に貢献することができる。
- 現在、企業等によってはJ-クレジットを購入した旨の公表をしているが、購入した「量(t-CO2)」の公表に留まっている。普段CO2排出量の多寡を特に意識することのない人にとっては、購入・活用の程度がどれほどなのか、直ちには理解しづらい。今後の開示にあたっては「金額換算(円)」した発信も期待したい。J-クレジットの活用の程度が格段に理解しやすくなるだろう。
- J-クレジットは、GX‐ETS参画企業の自主目標達成のために活用可能な「適格カーボン・クレジット」の一つとされている。自主目標の達成・未達成は、第1フェーズ(2023~2025年度)の終了時に判断されるため、今後、J-クレジットの購入需要が高まり、取引が活発化することも想定される。また超過削減枠の取引が2024年11月1日から始まったところであるが、超過削減枠の取引価格への影響も含め、J-クレジット取引価格や取引量等の動向は注目が必要であろう。
- 現在、政府の地球温暖化対策計画の見直し検討も進められているところであり、新計画の中でどのように位置づけられていくかについても、注目していきたい。
- 目次
1.はじめに~カーボンプライシングとは~
カーボンプライシングとは、排出するCO2(カーボン、炭素)に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させる経済的政策手法である。
カーボンプライシングには、政府主導の仕組みのほか、民間の取組みとして企業が自社のCO2排出を抑制するために設定する「インターナル(企業内)カーボンプライシング」などさまざまな仕組みがある(資料1)。本稿は、各種のカーボンプライシング制度の理解の一助・きっかけとなるよう、「J-クレジット」制度に焦点をあて概観し、私見を述べる。

2.J-クレジット制度とは
(1)概要
J-クレジット制度とは、国による「国内における地球温暖化対策のための排出削減・吸収量認証制度」のことである(注10)。省エネ・再エネ設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・吸収量(単位はt-CO2)をクレジットとして国が認証する制度であり、経済産業省・環境省・農林水産省が2013年度より(注11)、実施要綱に基づき運営している。
(2)J-クレジット制度が目指すもの
J-クレジット制度は、中小企業・自治体等の省エネ・再エネ設備の導入等を促進するとともに、クレジットの活用による国内での資金循環を促すことで環境と経済の両立を目指している(資料2)。
また、政府の現行の地球温暖化対策計画(2021年10月22日閣議決定)(注12)においては、2050年カーボンニュートラルの実現を目指す上で必要な分野横断的な制度と位置付けられ、国内の多様な主体による省エネ設備導入や再エネ活用等による排出削減対策、適切な森林管理による吸収源対策を積極的に推進していくために、制度の更なる活性化を図るとされている。あわせて、J-クレジットを活用したカーボン・オフセットの取組みの推進やカーボン・オフセットされた製品・サービスの普及を図り、国民の行動変容の促進に向けた役割も期待されている。
J-クレジット創出者にとってのメリットとしては、①省エネ対策の実施によるランニングコストの低減・再エネの導入、②J-クレジット売却益の獲得(投資費用の回収やさらなる投資に活用)、③地球温暖化対策への積極的な取組みに対するPR効果、④J-クレジット制度に関わる企業や自治体との関係強化、⑤組織内の意識改革・社内教育、といったことが挙げられる。
一方、J-クレジット購入者にとっては、①温対法・省エネ法の報告、②国際イニシアチブ(CDP・SBT・RE100)の報告、③カーボン・オフセット(注13)、④SHIFT(注14)の削減目標達成、⑤経団連カーボンニュートラル行動計画の目標達成、⑥GX‐ETSの目標達成等に活用できる。

(3)J-クレジットの創出
J-クレジットとして創出され認証されるクレジットの量は、「プロジェクト実施後排出量」と「ベースライン排出量(対策を実施しなかった場合に想定される排出量)」の差分である。
いわゆる削減系プロジェクト(省エネや再エネ等)に関しては、プロジェクトの実施によりベースライン排出量よりも排出を削減した分がクレジットとして認証される。一方、いわゆる吸収系プロジェクト(森林等)では、プロジェクトの実施以降のCO2吸収・固定量がクレジットとして認証される(資料3)。

プロジェクトは、J-クレジット制度で承認されている方法論に基づいて実施される。方法論とは、排出削減・除去・吸収に資する技術ごとに、適用範囲、排出削減・除去・吸収量の算定方法及びモニタリング方法等を規定したものである。随時見直しや新規追加がなされており、2024年7月時点で6分類(省エネルギー、再生可能エネルギー、工業プロセス、農業、廃棄物、森林)71種類ある(資料4)(注15)。

制度開始以後、J-クレジットのプロジェクト登録件数と認証量は着実に増加してきており、2024年8月に実施された第61回認証委員会(注16)終了時点で、プロジェクト登録件数は1,152件、クレジットは1,075万t-CO2が認証されている(資料5)。

(4)J-クレジットの取引
J-クレジットは、相対(含む仲介事業者の利用)やカーボン・クレジット市場を通じて取引ができる。相対取引に関しては、J-クレジット制度のウェブサイト上で売り出しクレジット一覧が閲覧できるため、その情報をもとにクレジット保有者と取引することができる。一方、市場取引に関しては、カーボン・クレジットの流動性を高め、価格を公示するための取引プラットフォームとして、J-クレジットを対象としたカーボン・クレジット市場が2023年10月11日に東京証券取引所に開設された。
現在、例えば省エネ由来のJ-クレジットは、1,510~2,850円/t-CO2で取引されている(資料6)。なお、2016年6月から2023年5月の間に14回、J-クレジット制度事務局が入札販売を実施していた。2023年5月の総販売量および平均落札価格は、省エネルギーが41,410t-CO2、1,551円/t-CO2、再生可能エネルギーは256,204t-CO2、3,246円/t-CO2であった(注17)ことを踏まえると、売買高は現状まだ少ない。

3.J-クレジットを活用した地方創生
2.で記述のとおり、J-クレジット制度は、「国内における地球温暖化対策」を主目的とした「J-クレジット創出者とJ-クレジット購入者との間の資金循環の仕組み」であるが、一方で、わが国が抱える重要な社会課題の一つである「地方創生」の解決にも役立つ。地域で創出されたJ-クレジットを購入することにより、当該創出者・地域に資金が循環し、その資金を元にさらなる設備投資や環境配慮の取組みにつなげることで、産業の活性化つまり地方創生の一助となり得る。大都市に本社を構える企業もJ-クレジットを購入することで、離れた場所からではあるが資金面で地域社会支援することができる。一歩踏み込んで、全国に広く展開する各拠点(工場・事業所等)において、各地域で創出されたJ-クレジットを購入し、各拠点における製品やサービス、会議やイベント等のカーボン・オフセット(資料7)に活用すれば、「地産地消」の形で、人のつながりも含めより深く直接的に地域社会に貢献することができる。地方創生という観点からも、J-クレジットの活用が望まれる。

4.企業等によるJ-クレジット購入の発信にあたって
現在、企業等によってはJ-クレジットを購入した旨の対外公表をしているが、購入した「量(t-CO2)」の公表に留まっている(注19)。また資料7のJ-クレジット制度HPでのカーボン・オフセットの事例公表も同様に、活用した「量(t-CO2)」の発信となっている。普段CO2排出量の多寡を特に意識することのない人にとっては、現在の開示のあり方では購入・活用の程度がどれほどなのか、直ちには理解しづらいだろう。
そこで、今後企業等がJ-クレジットの購入に関する開示をしていくにあたっては、「量(t-CO2)」の発信に加え「金額換算(円)」した発信も期待したい。先に触れたとおり、カーボン・クレジット市場が創設され、J-クレジットの価格水準は見える化されてもいる。金額換算(円)した発信がなされることで、J-クレジットの活用の程度が格段に理解しやすくなるだろう。試しに資料6の単価を資料7の個別事例に当てはめて概算すると、それぞれの事例が数千円から20万円ぐらいと算出でき、量のみの開示よりイメージしやすいだろう。
5.J-クレジットに新たに求められるGX-ETSの「適格カーボン・クレジット」としての役割
J-クレジットは、2023年度から試行されているGX-ETSにおいて、GX‐ETS参画企業の自主目標達成のために活用可能な「適格カーボン・クレジット」の一つとされている(資料8)。自主目標の達成・未達成は、第1フェーズ(2023~2025年度)の終了時に判断されるため、今後、J-クレジットの購入需要が高まり、取引が活発化することも想定される。また超過削減枠(注20)の取引が2024年11月1日から始まったところであるが(注21)、超過削減枠の取引価格への影響も含め、J-クレジットの取引価格や取引量等の動向は注目が必要であろう。
さらに、2026年度に本格稼働させるGX-ETSの具体案に関して、有識者や産業界等の意見を踏まえた検討を行うため、「GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ」が設置され、2024年9月から検討が始まっている(注22)。年内にも案が公表されるものと見込まれるが、J-クレジットは引き続きGX-ETSの重要な一端を担うと思われることから、方法論の拡充を含めJ-クレジットのさらなる創出が必要であろう。
加えて、政府の地球温暖化対策計画の見直し検討も進められている(注23)。新計画の中で、J-クレジット制度がどのように位置づけられていくかについても、注目していきたい。

【注釈】
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炭素税とは、燃料や電力を使用して排出したCO2に対して課税する税のこと。地球温暖化対策税が該当する。
https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html -
排出量取引制度(Emission Trading Scheme:ETS)とは、企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間でCO2の排出量を取引する仕組みのこと。排出枠の上限(キャップ)を定めることから、「キャップ&トレード制度」とも言われる。GX-ETSとは、カーボンニュートラルに向けて野心的に取り組む企業が参加する「GXリーグ」において、企業が自主設定し開示する削減目標達成に向けた排出量取引のこと。2023年度から第1フェーズ(2023~2025年度)が試行されており、現在、第2フェーズ(2026年度~)からの本格稼働に向けた検討が進められている。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/kaisai.html -
エネルギー諸税の例として石油石炭税、揮発油税がある。
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公的なクレジット制度として他に二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism:JCM)がある。JCMは、パートナー国と協力して温室効果ガスの削減に取り組み、削減の成果を両国で分け合う制度のこと。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000122.html -
証書とは、再生可能エネルギー由来の電力量・熱量を「kWhやkJ」単位で認証し、加えて、その属性(発電日時、発電所、発電方式等)を保証することで、購入者が外部調達した電力等のエネルギーについて、別途調達した証書を付加価値として活用できるようにしたもの。例として非化石証書がある。
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220628003/20220628003-f.pdf -
FIT賦課金とは、日本の再生可能エネルギー促進のために電気料金に上乗せされる費用のこと。電力会社が、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」により再生可能エネルギーで発電された電気を買い取るコストを、電気の利用者が、電気の使用量に比例して負担する。
https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/kaitori/fit_faq.html -
化石燃料賦課金とは、2028年度から導入される、化石燃料の輸入事業者等に対して、輸入等する化石燃料に由来するCO2の量に応じて徴収するもの。
https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210004/20230210004-1.pdf -
インターナルカーボンプライシングとは、低炭素投資・対策推進に向け、企業内部で独自に設定、使用する炭素価格のこと。環境省が「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン~企業の低炭素投資の促進に向けて~」を策定・公表している。https://www.env.go.jp/press/ICP_guide_rev.pdf
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ボランタリークレジットとは、各国・地域における規制や制度に必ずしも基づかない、企業の自主的な活用が前提で運営されている制度のこと。例として国内ではJブルークレジット、海外ではVerified Carbon Standard(VCS)、Gold Standard(GS)、American Carbon Registry(ACR)、Climate Action Reserve(CAR)がある。
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220628003/20220628003-f.pdf -
「国内における地球温暖化対策のための排出削減・吸収量認証制度(J-クレジット制度)実施要綱Ver.7.1(2024年7月31日))」
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それまで、国内クレジット制度(中小企業等の低炭素投資を促進し、温室効果ガスの排出削減を推進することを目的とした制度。2008年10月開始)と、J-VER制度(自らの活動に伴い発生する排出量を他の場所の削減量(クレジット等)で埋め合わせて相殺するカーボン・オフセットの取組により、国内における排出削減・吸収を一層促進することを目的とした制度。2008年11月開始)の2制度があった。いずれも2012年度で終了予定であったため、2012年度に「新クレジット制度の在り方に関する検討会」が設置され、両制度を統合の上、クレジット制度を継続することとなった。
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/mechanism/carbon_offset/conf5/120802torimatome.pdf -
カーボン・オフセットとは、「我が国におけるカーボン・オフセットのあり方について(指針)」において、「市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、カーボン・クレジット等により、その排出量の全部または一部を埋め合わせること、すなわち『知って、減らして、オフセット』の取組をいう。」と定義されている。
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SHIFT(Support for High-efficiency Installations for Facilities with Targets : 工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業)とは、意欲的な二酸化炭素排出削減目標を盛り込んだ脱炭素化促進計画を策定する事業(「脱炭素化促進計画策定支援事業」)及び、意欲的な削減目標を盛り込んだ脱炭素化促進計画に基づき高効率機器導入や燃料転換を実施して二酸化炭素の排出量を削減し、排出量の算定及び排出枠の償却を行う事業(「設備更新補助事業」)に対して補助金を交付する事業のこと。https://japancredit.go.jp/case/subsidy/
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直近では、2024年10月15日に第36回運営委員会が開催され、新規方法の策定(N2O分解装置の導入)や既存の方法論の改定が審議されている。なお運営委員会は、実施要綱や方法論、各種規程等の基本文書の決定及び改廃(一部の事項を除く)に関する審議や、制度管理者(国:経済産業省・環境省・農林水産省)への制度変更に関する意見の提出、認証委員会からの意見への対応案の審議等を行う。
https://japancredit.go.jp/steering_committee/ -
認証委員会は、プロジェクト登録や認証に関する審議、プロジェクト登録や認証に関する制度変更についての意見の運営委員会への提出等を行う。
https://japancredit.go.jp/authentication_committee/ -
J-クレジットのこれまでの入札販売結果は公表されている。
https://japancredit.go.jp/tender/ -
活用事例の出所は次のとおり。
事例1(https://japancredit.go.jp/cp/67/)
事例2(https://japancredit.go.jp/cp/107/)
事例3(https://japancredit.go.jp/cp/125/)
事例4(https://japancredit.go.jp/cp/123/)
事例5(https://japancredit.go.jp/cp/86/)
事例6(https://japancredit.go.jp/case_search/pdf/donguri/2023101901.pdf -
企業等のJ-クレジット購入に関する対外公表として次のような事例がある。
https://www.eneos-re.com/news/pdf/news_20240701.pdf
https://www.kayatani.co.jp/post-291/ -
超過削減枠とは、GXリーグ参画企業(うち2021年度の直接排出量が10万t-CO2e以上)の排出削減量であり、GXリーグ事務局が発行する温室効果ガスの量のこと。直近年度から直接・間接排出量の総量が減少し、かつ直接排出量がNDC水準(2030年度46%削減(2013年度比)に相当する直線的な削減経路)を下回る場合、その分の削減価値を「超過削減枠」として売却できる。
https://gx-league.go.jp/aboutgxleague/document/GX-ETS%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81.pdf -
超過削減枠は、2024年11月1日(金)より、カーボン・クレジット市場にて取引が開始されたが、初日の売買高は0(ゼロ)であった。
https://www.jpx.co.jp/equities/carbon-credit/daily/mklp77000000kc92-att/20241101_cc_quotations.pdf -
「中央環境審議会地球環境部会2050年ネットゼロ実現に向けた気候変動対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会中長期地球温暖化対策検討ワーキンググループ(合同会合)」
【参考文献】
加藤 大典
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

