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今すぐ始めるAIによる顧客分析

~データで見える課題と打ち手~

柏村 祐

目次

1.顧客データ分析の重要性

顧客データは、企業が競争力を維持し成長を実現するための重要な経営基盤である。小売業、飲食業、金融業、Eコマース、旅行業など、顧客との直接的な接点をもつ多くの企業が顧客の購買履歴、サービス利用状況、コミュニケーション記録などの多様なデータを収集し、それらを分析して製品開発やサービス改善に活用している。

従来の顧客データ分析では、データサイエンティストや分析専門家が統計手法を用いてデータから傾向を把握し、洞察を導き出してきた。しかし、分析の速度や精度に限界があり、また分析者の経験や知見に大きく依存するという課題があった。そこで近年、機械学習や深層学習などのAI技術を活用した高度なデータ分析が注目を集めている。AIを活用することにより、リアルタイムでデータの有意なパターンを発見することができ、顧客行動の分析や効果的な提案につなげることが可能となっている。

本レポートでは、高度なAIを活用した顧客データ分析の実践事例を検証することで、AI活用による顧客理解の深化と、それにもとづくビジネス戦略の高度化について明らかにしていく。これにより、企業がAIを活用した顧客データ分析をどのように導入し、顧客価値の創造とビジネスの成長を実現できるかについての示唆を得る。

2.AIによる顧客ニーズ分析とビジネス提案

本節では、パソコン、タブレット、スマートウォッチなどのIT機器を取り扱うECサイトのサンプルデータ(注:本研究のために筆者が作成した仮想データ)を用いて、AIによる顧客データ分析の具体的な実践と、その分析から得られるビジネスへの示唆について検証する。分析に使用したデータセットには、注文ID、顧客名、商品名、数量、注文日、支払い方法、配送方法、単価、総額、注文状況、顧客評価の項目が含まれている。

まず、ECサイトのデータについて、「データを分析し考察ください」とAIに指示したところ、以下の詳細な分析結果が得られた。まず、商品カテゴリーにおいては高額商品が売上の上位を占める傾向にあり、デジタルカメラが最も高い売上となっていた。支払方法については、従来型の銀行振込や代金引換と、キャッシュレス決済がバランスよく利用されている。一方、27%という比較的高いキャンセル率や、5点満点中2.89点という中程度の顧客満足度が課題となっている。

これらの分析を踏まえたAIによる改善提案は、キャンセル率低減のための原因分析と対策、顧客満足度向上のためのサービス品質改善、さらに電子マネー等の新しい決済方法の利用促進となっている。なお、多様な支払方法に対応していることは本ECサイトの強みとして活かすべきとされている(図表1)。

図表
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続いて、「注文状況と顧客満足度の関係性を分析し、改善点を探ることはできますか?キャンセル率が高いことが気になっています」とAIに質問したところ、以下の分析結果が得られた。まず、注文状況と顧客評価の関係では、処理中の注文が最も高い評価(3.08)を示す一方、発送済み注文の評価が最も低い(2.72)点が課題として浮かび上がった。価格帯別では7~10万円の商品で最もキャンセル率が高く(58.33%)、3万円未満の商品で最も低い(5.56%)という特徴が見られた。支払方法とキャンセルの関係では、電子マネーでの注文が最も高いキャンセル率(62.50%)を示し、デビットカードが最も低い(14.29%)という結果となった。商品別ではノートパソコンが最も多くキャンセルされており、特にデジタルカメラのキャンセル時の評価が低い(1.67)ことが判明した。これらの分析結果を踏まえ、AIは価格帯別対策として商品説明の強化やローン支払いオプションの提供、支払方法の最適化としてキャンセル率の低い決済方法の推奨、商品カテゴリー別対策として商品情報の充実化、さらに配送・処理プロセスの改善として発送済み注文の低評価原因調査などの改善を提案した(図表2)。

図表
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最後に、「今後の売り上げ向上につながる施策を提案ください」とAIに依頼したところ、以下の戦略的提言が示された。まず分析結果にもとづく主要な施策として、商品戦略の最適化では、デジタルカメラ(売上393万円)とノートパソコン(売上344万円)が売上上位である一方、両者ともキャンセル率が高い(25%、45.45%)ため、商品説明の充実化が必要とした。

顧客セグメント別アプローチでは、VIP顧客プログラムの導入やロイヤリティプログラムの実施が提案されている。配送・受取方法の最適化では、店頭受取(評価3.03)を活かした施策や、キャンセル率の低い(16.13%)宅配便の利用促進が推奨されている。商品別改善施策では、キャンセル率の高い商品(キーボード66.67%、スマートフォン50%)への対策や、評価の低い商品の改善が必要とされている。

これらの施策に加え、販売促進策の導入、カスタマーサービスの強化、データ活用の高度化も提案されており、優先順位としては、まずキャンセル率の高い商品カテゴリーの改善、次いでVIP顧客プログラムの導入、最後に配送・受取方法の最適化を実施することが推奨されている(図表3)。

図表
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以上の分析を通じて、AIによるデータ分析では、人間による従来の分析では見落としがちな細やかな洞察が得られることが明らかとなった。たとえば、単なる売上データの分析だけでなく、顧客セグメントごとの購買パターンや、商品カテゴリー別のキャンセル率など、具体的な課題を即座に抽出できている。さらに、それらの課題に対して、ロイヤルティプログラムの導入やカスタマーサポートの強化など、実践的な解決策まで提示できることが確認された。

3.AIによる顧客分析の価値創造と実践的展望

AIを活用した顧客データ分析は、企業の意思決定プロセスを革新的に変革する段階に達している。専門知識をもたない実務担当者でも、AIとの対話を通じて高度な分析と実践的な戦略立案が可能となっている時代である。

AIによる迅速かつ高度な分析は、もはや一部の先進企業だけのものではない。ChatGPTといった一般に利用可能なAIツールの登場により、企業規模や業種を問わず、誰もが顧客データの価値を最大限に引き出せる時代が到来しているのである。

図表
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AIによる顧客分析の価値は、以下の4点に集約される(図表4)。第一に、分析の民主化である。専門家でなくても、直感的な質問を投げかけるだけで高度な分析が可能となり、データ活用の敷居が大きく下がっている。第二に、分析の即時性と精度の向上である。数週間を要していた複雑なデータ分析が数分で完了し、人間が見落としがちな微細なパターンまで抽出することが可能となっている。第三に、分析の包括性と体系化である。AIは売上データ、顧客満足度、キャンセル率など、多様なデータを統合的に分析し、それらの相関関係から実効性の高い示唆を導き出すことができる。第四に、戦略提案の具体性と実践可能性の向上である。AIは数値分析にとどまらず、優先順位付きの実行計画まで提示することが可能である。

企業にとっては、これらのAIツールを活用し、顧客データという重要な資産から最大限の価値を引き出すことが有効ではないだろうか。なぜなら、AIによる顧客分析は、もはや競争優位性を確保するための「選択肢」ではなく、ビジネスの成長と進化に不可欠な「必須要件」となっているからである。顧客データをもちながらAIを活用していない企業は、貴重な経営資源を眠らせているに等しい。いま必要なのは、AIを活用した顧客分析に踏み出す「実行力」である。それは、より良い顧客体験の創造と、持続的な企業価値の向上への第一歩となるはずである。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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