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AIでスピーチ原稿を作成する時代が到来

~えっ!まだスピーチ原稿を自分で書いているの?~

柏村 祐

目次

1.効率化が求められるスピーチ原稿の作成

ビジネスの現場において、スピーチ原稿の作成は多くのビジネスパーソンが経験する業務の1つである。スピーチ原稿は、会議でのプレゼン、セミナーの司会、各種会合での挨拶など、緊張するシーンで使用されることが多い。そのため、適切な内容と表現を事前に準備し、何度も練習する人も多いだろう。

スピーチ原稿は、正確な情報伝達や時間管理、一貫性のあるメッセージの維持などを目的として、口頭で伝える内容を事前に文章化するものである。効果的なスピーチ原稿を作成するためには、聴衆の理解度や関心を考慮しつつ、適切な用語や表現を選び、説得力のある論理構成を心がける必要がある。さらに、限られた時間内で要点を押さえること、聴きやすいリズムを確保すること、話し言葉に近い自然な文体で作成することなど、考慮すべき点は多岐にわたる。このような複雑な要素を含むスピーチ原稿の作成には、経験豊富なビジネスパーソンであっても時間を要するため、原稿作成の効率化が求められる。

近年、AI技術の急速な進歩により、様々なビジネスプロセスで自動化や効率化が進んでいるが、スピーチ原稿作成でもAIを活用できるようになっている。本レポートでは、ビジネスシーンにおけるAIによるスピーチ原稿作成の可能性と課題について検討する。

2.AIによるスピーチ原稿作成の実態

はじめに、AIによるスピーチ原稿作成の実態について、具体的な事例を用いて検証する。今回、取引先の50周年記念式典での主賓挨拶、部下の結婚式での主賓挨拶、そして新入社員に対する入社式での挨拶という3つのスピーチ場面を想定した。これらは、できる限り原稿を読まずにスピーチすることが望ましく、事前に準備した原稿を暗記して挨拶することも多い。今回の実験では、各場面についてAIに原稿作成を依頼し、その結果を分析した。

まず、AIに対して、「医療機器メーカーA社の50周年記念式典での主賓挨拶を作成してください。この会社とは20年来の取引関係があり、特に画像診断装置の開発でともに成長してきました」と指示したところ、AIは図表1のような原稿を生成した。

図表
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生成された挨拶文は一般的なものであったため、具体的なエピソードを加えるために、「コロナウイルスの際の患者への迅速な対応やそのことが社会に広く知れ渡ったことによるマスメディアでのご活躍について、具体事例として挨拶文に追加ください」という追加指示を出したところ、AIは図表2のようにブラッシュアップした。ブラッシュアップされた原稿では、コロナ禍における具体的な活動実績や社会貢献について言及されており、A社の特徴と実績をより反映した内容となった。特に、マスメディアでの活動について触れることで、社会的影響力の大きさを適切に評価する内容となっている。

図表
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次に、「入社3年目の営業部署に所属する部下の結婚式での主賓挨拶」という設定で、 部下の結婚式での挨拶文の作成を依頼した。AIは最初に図表3のような原稿を生成した。

これについても、具体的なエピソードを加えるために「配属当初は戸惑っている様子もありましたが、徐々に職場に慣れ、今ではチームのリーダー役を担っており、貴重な戦力になっているという誉め言葉を追加してください」という追加指示を出したところ、AIは図表4のようにブラッシュアップした。修正後の原稿では、部下の成長過程を具体的に描写することで、より説得力のある内容となった。特に、配属当初の戸惑いから現在のリーダーとしての活躍まで、時系列に沿った展開により、聴衆の共感を得やすい内容となっている。

3つ目の事例として、「従業員数500名程度の製造業における新入社員20名に向けた入社式での挨拶」という設定で、社長による歓迎の挨拶文の作成を依頼した。AIは最初に図表5のような原稿を生成した。

さらに「新入社員に期待することとして、失敗を恐れずチャレンジしてほしいことを追記ください」という指示を出したところ、AIは図表6のようにブラッシュアップした。追記された内容により、単なる歓迎の意を示すだけでなく、新入社員への具体的な期待と会社の文化を示唆する内容となった。特に、失敗を恐れないチャレンジ精神の重要性を強調することで、会社の成長志向の文化が効果的に伝えられている。

以上の結果から、AIは各場面の特性を理解し、適切な内容とトーンをもつ原稿を作成する能力を有していることが確認された。さらに、適切なキーワードを提供することで、AIはより洗練された、場面に即した原稿を作成することが可能であることも明らかになった。もちろん、AIによる原稿作成はあくまでも準備の一助であり、最終的には人間の感情や経験を反映させ、聴衆との共感を生み出すよう工夫する必要があることは言うまでもない。

3.スピーチ原稿作成における人間とAIの新たな協働モデル

AIの能力が日々進化するなかで、人間とAIの協働により、より効果的かつ効率的なスピーチ原稿作成が可能となっていくだろう。この新たな協働モデルは、AIと人間それぞれの強みを活かした革新的なアプローチを提示している。

図表
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図表7が示すように、AIと人間はそれぞれ異なる強みをもっている。AIは情報処理、構造化、初稿生成に優れており、人間は創造性、感情表現、経験にもとづく洞察を提供することができる。この両者の特性を組み合わせることで、より高度なスピーチ原稿作成が可能となるだろう。この協業における新しいワークフローは、AIによる初稿作成から始まり、人間によるレビュー・編集、そしてAIによる改善という循環的なプロセスからなる。AIを活用する際には、適切なプロンプト(指示)を与える人間の能力が重要となる。たとえば、2節で述べたように「コロナウイルスの際の対応」や「失敗を恐れずチャレンジしてほしい」といった具体的な指示を与えることで、AIはより場面に即した原稿を生成できる。このような指示能力を人間が磨くことで、AIとの協働をより効果的に進めることができるだろう。

一方で、AIが生成した原稿をそのまま使用するのではなく、スピーチする人間が内容を十分に理解し、自分の言葉で表現できるようになることも重要である。AIは効率的な原稿作成の支援ツールであり、最終的には人間の感情や経験を反映させ、聴衆の共感を生み出すことが求められる。

また、AIを活用する際には倫理的な配慮も重要である。AIが生成した内容に対しては、常に人間による監修が必要であり、偏見や不適切な表現がないか、事実関係は正確か、著作権に抵触していないかなどを慎重に確認する必要がある。

つまり、AI時代のスピーチ原稿作成では、新しいスキルセットの獲得が求められるのである。AIとの効果的な対話能力、AIが生成した原稿の批判的評価能力、AI生成コンテンツの倫理的・法的問題の識別能力、AI生成原稿の人間らしい表現への変換能力などである。これらのスキルを磨くことで、AI時代のスピーチ原稿作成はより高度で効率的なものとなり、質の高い、説得力のあるスピーチを行うことができるようになるだろう。

これからのAI時代のスピーチ原稿作成は、「えっ!まだスピーチ原稿を自分で書いているの?」といわれるような、AIと人間の新たな協働モデルへと進化していくだろう。この協働モデルは、創造的で洞察に富んだスピーチ原稿を効率的に生み出す力をもつ。同時に、人間の役割も進化し、AIとの効果的な協働やAIが生成した内容の適切な活用、そして実際の活用場面でのスピーチ力の重要性が相対的に増していく。今後、ビジネスパーソンには、AIの強みを最大限に引き出しながら、聴衆の心に響くスピーチを作り上げ、それをしっかりと語る能力が一層求められることになるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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