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2024.07.03
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AIが立案した「骨太の方針2025」案とは
~人工知能VS官僚、未来の政策はこう変わる~
柏村 祐
1.骨太の方針の重要性
「骨太の方針」は、正式名称を「経済財政運営と改革の基本方針」という、日本の国家運営において極めて重要な政策文書である。この方針が作られるようになった背景には、1990年代後半から2000年代初頭にかけての日本経済の長期停滞がある。当時の小泉純一郎内閣が、経済再生と財政再建を同時に進める「構造改革」を推進するため、2001年に初めて策定した。
骨太の方針の重要性は、以下の点において顕著である。まず、この方針は翌年度の予算編成の基本となる。各省庁はこの方針に基づいて予算要求を行い、財務省はこれを指針として予算を編成する。次に、骨太の方針は中長期的な国家戦略を示す。人口減少、少子高齢化、財政再建、経済成長戦略、外交・安全保障政策など、日本が直面する重要課題に対する政府の姿勢と対策が明記される。さらに、骨太の方針は政治と行政、そして民間セクターを結ぶ重要な接点となっている。
骨太の方針が実際の政策や生活に与えた影響は多岐にわたる。たとえば、2013年以降の方針に盛り込まれた「アベノミクス」政策は、大胆な金融緩和や財政出動を通じて日本経済の回復を促し、実質的な賃上げや雇用の改善につながった。また、2015年の方針で示された「一億総活躍社会」の理念は、働き方改革や女性の社会進出促進など、具体的な政策として実現されてきた。さらに、近年の方針に含まれるデジタル化推進は、マイナンバーの普及やデジタル庁の設立など、社会のデジタルトランスフォーメーションを加速させている。
近年のAI技術の飛躍的な進歩は、政策立案の領域にも新たな可能性をもたらしている。機械学習や自然言語処理の発展により、AIは膨大なデータを処理し、複雑な分析を行うことが可能になった。これらの技術を活用することで、過去の骨太の方針のデータ、経済指標、社会動向、国際情勢などを総合的に分析し、将来の政策方針を導き出せる可能性が出てきた。
本レポートでは、このような背景を踏まえ、AIが2025年の骨太の方針を作成できるかという挑戦的な課題に取り組む。その結果を分析することで、AIによる政策立案の可能性と限界を探る。
2.2022年から2024年の骨太の方針の分析
本節では、2022年から2024年の骨太の方針について、AIを用いて分析を行った結果を詳細に記述する。この分析は主に2つの段階から構成される。最初に過去3年分の骨太の方針を読み込み、次にその分析結果を評価する。まず、2022年から2024年の骨太の方針をAIに読み込ませ、「過去3年間の骨太の方針について時系列で分析してください」と指示したところ、AIは各年の重点課題や背景、時系列での傾向、今後の展望について詳細にまとめた。その分析によると、2022年から2024年にかけて「新しい資本主義」の概念が深化し、賃上げと投資を経済成長の主要なエンジンとして位置づける傾向が強まっていることが明らかになった。また、社会課題の解決と経済成長の両立、官民連携の重要性、中長期的視点での政策立案などが一貫して強調されている点も指摘された。AIは今後の展望として、新しい資本主義の実行状況の注視、賃上げと投資の好循環維持、社会課題解決に向けた官民連携の強化、国際環境変化への柔軟な対応などを挙げており、これらの分析結果は今後の政策立案や経済戦略の検討に有用な示唆を提供している(図表1)。

次に、AIに対して「過去3年間の骨太の方針について時系列で評価してください」と指示したところ、AIは過去3年間の骨太の方針にもとづく政策について時系列で詳細な評価を行った。2022年の方針については、新しい資本主義という理念を掲げた点を評価しつつ、具体性の不足や財源の曖昧さを指摘した。2023年の方針に関しては、具体的な政策の提示や構造改革への意識を評価する一方で、実行力に課題が残るとした。2024年の方針については、デフレ脱却への強い意志や重点課題への集中、政策の継続性を評価しながらも、財政健全化とのバランスや政策の実効性に関する課題を指摘した。
総評として、過去3年間の骨太の方針が賃上げと投資を軸とした成長戦略を推進し、社会課題解決と経済成長の両立を目指してきた点を評価しつつ、政策の実効性やスピード感、財政健全化とのバランスなどの課題も残されているとした。AIは今後の注目点として、具体的な政策の実行状況と成果、財政健全化に向けた具体的な計画、規制改革や意識改革など政策の実効性を高めるための取組みの進捗状況を挙げた。
最後に、日本経済の未来は政府の政策だけでなく、企業の努力、個人の行動、社会全体の意識改革にかかっているとし、官民一体となって課題解決と成長に取り組むことの重要性を強調した(図表2)。
各年の骨太の方針により実現した政策の具体的な事例としては、以下のようなものが挙げられる。2022年の方針では、賃上げ促進税制の拡充が盛り込まれ、これにより多くの企業で賃上げが実施された。2023年の方針では、デジタル田園都市国家構想の推進が掲げられ、地方でのテレワーク推進や5G整備が加速した。2024年の方針では、グリーントランスフォーメーション(GX)推進のための投資促進策が導入され、再生可能エネルギー関連産業の成長につながった。これらの例は、骨太の方針が単なる理念的な文書ではなく、実際の政策立案と実行に直結する重要な指針であることを示している。

3.AIによる2025年骨太の方針骨子案の作成
2025年の骨太の方針骨子案をAIに作成してもらうために、「2022年、2023年の骨太の方針の評価と2024年の内容を踏襲し、2025年の骨太の方針の骨子を作成ください」と指示したところ、2025年骨太の方針の骨子案が作成された。この骨子案は、「成長型経済の定着とWell-being社会の深化:希望を生み出す日本へ」というテーマを掲げ、序論、基本的考え方、重点政策、結語の4つの主要セクションで構成されている。
序論では新たなステージへの挑戦を掲げ、基本的考え方では持続可能な成長と包摂的な社会の実現を目指すとしている。重点政策は4つの柱で構成され、成長型経済のエンジン再点火、Well-being社会の深化、激動する世界をリードする日本へ、持続可能な財政構造の構築が挙げられている。各政策分野では具体的な施策が示されており、賃上げの定着化と加速、未来への投資加速、全世代型社会保障の進化、少子化対策の抜本的強化、教育改革2.0、共生・共助社会の深化などが含まれている。また、国際競争力強化や経済安全保障の視点も盛り込まれており、グローバルな視点と国内課題のバランスが取れた内容となっている。結語では、国民一人ひとりが希望をもてる未来の創造に向けた決意が表明されている。この骨子案は、過去の方針の評価を踏まえつつ、新たな社会経済環境に対応するための方向性を示しており、今後の日本の経済社会政策の指針となることが期待される(図表3)。
AIが提案するWell-being社会とは、経済的な豊かさだけでなく、心身の健康、社会的つながり、環境との調和など、多面的な観点から個人と社会の幸福を追求する社会を指す。これは単に物質的な豊かさを追求するのではなく、人々の生活の質や満足度を重視する考え方である。具体的には、ワーク・ライフ・バランスの改善、心身の健康増進、生涯学習の促進、社会参加の機会拡大、環境保全と経済成長の両立などが含まれる。Well-being社会の深化とは、これらの要素がより広く社会に浸透し、制度や文化として定着していくことを意味する。たとえば、企業が従業員の健康と幸福を重視する健康経営の普及、地域コミュニティの再生と強化、持続可能な環境政策の実施などが、Well-being社会の深化につながると考えられる。

4.AIによる政策立案の可能性と課題
これまでの実験結果から、AIによる政策立案能力には大きな可能性があるといえる。AIは膨大なデータを高速で処理し、過去の政策文書や統計データを総合的に分析することで、一貫性のある政策提言を行うことができる。特に、過去の傾向を的確に把握し、それを踏まえた将来予測を行う能力は人間を凌駕する可能性もある。また、AIは客観的なデータにもとづいた政策立案を行うことができる点も大きな利点である。さらに、AIは24時間365日稼働可能であり、常に最新のデータを取り込んで政策を更新することができる。これにより、急激な社会変化や予期せぬ事態にも迅速に対応する政策立案が可能となる。
一方で、AIによる政策立案には課題も存在する。まず、AIは与えられたデータやアルゴリズムに基づいて判断を行うため、データの質や選択に偏りがあると、その結果にも偏りが生じる。また、AIは倫理的判断や価値観にもとづく選択を行うことが困難であり、社会的合意形成が必要な政策分野では人間の介入が不可欠である。さらに、AIが提案する政策の実現可能性や具体的な実施手順については、人間の専門家による精査が必要となる。
加えて、AIによる政策立案を導入することで、政治家や官僚の役割が変化する可能性がある。政策立案のプロセスが自動化されることで、人間の政策立案者は、より高度な判断や調整に集中することができるようになる一方で、政策立案のスキルや経験が失われる懸念もある。
これらの課題を克服しつつ、AIと人間の専門家が協働することで、より効果的かつ効率的な政策立案が可能になると考えられる。具体的には、AIが大量のデータを分析し、政策オプションを提示し、人間の専門家がそれらを評価し、最終的な意思決定を行うというプロセスが想定される。このような協働モデルを構築することで、AIの客観性と人間の価値判断を組み合わせた政策立案を実現できるのではないか。
今後、AIによる政策立案の実用化に向けては、より多くの実験や検証が必要となる。特に、AIが生成した政策案の有効性や実現可能性を評価するための基準や手法の確立が求められる。また、AIによる政策立案を公共の意思決定プロセスに組み込むための法的・制度的枠組みの整備も課題となる。さらに、AIによる政策立案の透明性や説明責任を確保するための仕組みづくりも重要である。AIの透明性については、使用されたデータやアルゴリズムの公開、意思決定プロセスの可視化などが考えられる。説明責任に関しては、AIが提案した政策の根拠や予測される影響を、人間の専門家が精査し、国民にわかりやすく説明する体制が必要となるだろう。もちろん、AIによる政策立案が進んだとしても、最終的な意思決定は人間が行うべきであることはいうまでもない。
柏村 祐
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 柏村 祐
かしわむら たすく
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ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション
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