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リーンキャンバスAIの衝撃

~スタートアップ必見!AIが加速させるビジネスモデル構築~

柏村 祐

目次

1.リーンキャンバスの特徴

リーンキャンバスは、スタートアップ企業が効率的にビジネスプランを策定するためのフレームワークである。これは、起業家のアッシュ・マウリャが「Running Lean」という著書で紹介したもので、トヨタの生産方式でも有名な「リーン」(無駄を排除する)という概念に基づいている(注1)。

リーンキャンバスを活用すれば、顧客が抱える問題、提供すべき解決策、主要な指標、競争優位性など、ビジネスの核心的な要素を1枚の紙にまとめ、アイデアを明確にし、チーム間のコミュニケーションを促進することができる。この方法は、従来の詳細なビジネスプランの作成に比べ、時間とリソースの節約につながる。

リーンキャンバスの元の概念となるリーンスタートアップは、同じく起業家のエリック・リースが提唱したもので、スタートアップ企業が無駄を最小化し、顧客からの迅速なフィードバックを取り入れながら製品開発を行うための方法論である(注2)。リーンスタートアップにより、最小限の機能をもつ製品を早期に市場に投入し、顧客のフィードバックを収集して製品を継続的に改善するループを実現することができる。

リーンキャンバスに類似するものとしてビジネスモデルキャンバスがある(注3)。両者の主な違いは、ビジネスモデルキャンバスがより広範なビジネスモデルの検討に適している一方で、リーンキャンバスが主にスタートアップ企業のニーズに焦点を当てている点にある。

近年、リーンキャンバスAIという技術が注目されている。これは、ビジネスアイデアやモデルを迅速に検証し、初期段階のビジネスプランを作成するAIである。AIが市場分析、競合分析、顧客セグメントの特定などのプロセスを自動化し、起業家やビジネスオーナーがリーンキャンバスをより迅速かつ効率的に作成することを支援するというものだ。そこで本稿では、そのリーンキャンバスAIの実態とその可能性について考察する。

2.リーンキャンバスAIの実態

リーンキャンバスAIが具体的にどのようなプロセスで機能し、ビジネスモデル構築を効率化するのかを詳細に解説する。本稿では社会課題解決につながるスタートアップの事例として「高齢化や過疎化が進む地域における移動販売サービス」、「フードロス削減のためのフードシェアアプリ」をテーマとして取り上げる。

まず、「高齢化や過疎化が進む地域における移動販売サービス」については、少子高齢化に伴い特に過疎地域のスーパーやコンビニが閉鎖され、食料品や物品の購入が難しくなっているという課題を設定する。そこで、スタートアップ企業としてこの課題の解決に資するビジネスモデルを明らかにするために、AIにリーンキャンバスの作成を依頼した。生成されたリーンキャンバスは図表1の通りである。

この事例では、AIによって生成されたリーンキャンバスが、地域社会の具体的なニーズに応えるサービスモデルを示している。これをみると、このサービスが物理的なアクセスの制限に直面している高齢者や遠隔地域に住む人々に対し、生活必需品を提供することで、生活の質を向上させる可能性を秘めていると理解できる。

図表1  AIによって生成された移動販売サービスのリーンキャンバス
図表1  AIによって生成された移動販売サービスのリーンキャンバス

次に、「フードロス削減のためのフードシェアアプリ」の事例をみてみる。現代社会ではフードロスの削減が課題となっており、適切なソリューションが求められている。AIにリーンキャンバスの作成を依頼したところ、図表2のようなリーンキャンバスが生成された。

AIが生成したリーンキャンバスは、フードロス削減のための実現可能なソリューションを提案している。このソリューションは、余剰食品を有効に活用することで環境への貢献とともに、経済的な利益も生み出すことができる点で、特に注目に値する。

図表2  AIによって生成されたフードシェアアプリのリーンキャンバス
図表2  AIによって生成されたフードシェアアプリのリーンキャンバス

以上のように、リーンキャンバスAIは、スタートアップのビジネスモデル構築において有効なツールになることがうかがえる。本稿で取り上げた社会課題の解決を目指すプロジェクトでは、AIがリーンキャンバスを生成し、事業計画の初期段階で鳥瞰的な見方を提供した。スタートアップ企業にありがちな失敗の原因として、市場の見込み違いや収益化計画の甘さが挙げられる。リーンキャンバスAIの活用は、これらのリスクを事前に特定し、回避する気づきをもたらすのではないか。

リーンキャンバスAIは、自然言語処理や機械学習などの技術を活用して、ビジネスモデルの核となる要素を迅速に分析したうえで、市場ニーズや競合環境を明確にし、現実的で実行可能なビジネス戦略の立案を支援する。リーンキャンバスAIの利用は、スタートアップが事業リスクを低減し、成功に向けた計画を練る上で有効といえるだろう。

3.リーンキャンバスAIの可能性

リーンキャンバスAIの導入は、ビジネスモデルの構築と評価を効率化し、多くのビジネスを市場に適応させ、企業成長を加速させる可能性を秘めている。それは、AIを活用することでリーンキャンバスの作成と評価のプロセスが大幅に自動化され、起業家やビジネスオーナーが抱える時間とリソースの制約という問題を軽減できるからである。

また、データに基づいてAIが提供する分析と洞察は、市場のニーズや顧客の行動パターンをより深く理解するきっかけを提供し、ビジネスアイデアの検証と製品開発の方向性を迅速に調整することを支援する。特に市場分析、競合分析、顧客セグメントの特定など、ビジネスモデルの構築に必要な複数のプロセスを効率化することができる。たとえば、ビジネスアイデアの仮説を設定し、それを検証するための実験を設計し、結果を分析するという一連のステップも迅速に実行することが可能だ。その結果、ビジネスモデルの調整と改善をより柔軟に行い、製品・サービスを市場に展開する時間を短縮することができる。

加えて、リーンキャンバスAIは、スタートアップ企業だけでなく既存企業が新規事業の機会を探る際にも有用で、AIによる分析は既存のビジネスモデルに対する新たな洞察と、事業拡大や事業再構築の機会を見出す視点を提供する。

ただし、リーンキャンバスAIには一定の限界がある。その提案は過去に起こった事実とデータからの推測によるもので、常に正確な将来予測ができるわけではない。そのため、最終的なビジネス判断はあくまで人間が行う必要がある。

リーンキャンバスAIの普及により、技術的な専門知識がない人々でもAIツールのサポートを受けながら自分のビジネスアイデアを検証し、発展させることができるようになる。それは、多様なビジネスアイデアの出現と、それに伴うイノベーションを加速することになるだろう。

【注釈】

1)アッシュ・マウリャ『Running Lean ―実践リーンスタートアップ』オライリージャパン 2012年

2)エリック・リース『リーン・スタートアップ』日経BP 2012年

3)ビジネスモデルキャンバスについては、下記拙稿をご参照いただきたい
「ビジネスモデルキャンバスAIの衝撃~AI を使ってビジネスの変革を考えてみた~」
https://www.dlri.co.jp/report/ld/316585.html

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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