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クレームメールAIの衝撃

~AIが実現する次世代のクレーム対応~

柏村 祐

目次

1.クレームメール対応の重要性と課題

今日の企業にとって、顧客からのクレームに迅速かつ丁寧に対応することは極めて重要である。電話とメールがその主な手段となるが、顧客満足度やブランドイメージに直接影響を及ぼすため、注意深く行うべきである。電話での対応は、即時性と対面感があり、顧客の感情を直接的に把握することができる。一方で、メールでの対応は、文書としての明確さと記録が残るという利点があるが、表情や声のトーンが伝わらないため、誤解を招くリスクがある。そのため顧客からのクレームメールへの対応には、顧客の気持ちや要望を理解し、的確な文章として応えることが求められる。

現在、クレームメールへの新たな対応策としてAIの活用が注目されている。AIは迅速かつ効率的な応答を可能にし、顧客のニーズに合わせカスタマイズした対応を提供することができる。本稿では、クレームメールに対するAIの活用について概観し、顧客対応においてAIがどのように活用できるかを考察する。

2.クレームメールへのAI活用とそのプロセス

AIを活用することにより、顧客によるクレームメールへの対応を迅速かつ効率的に行うことが可能になる。AIは顧客のメールから不満の内容を自動的に把握し、それに基づいた回答案を作成することができる。このプロセスでは、自然言語処理技術を用いて、顧客の言葉から感情や具体的な問題点を分析し、適切な応答を生成する。

ここでは、実際の顧客からのクレームメールに対してAIがどのように機能するのか、具体的な事例を通じてその能力を検証してみたい。

AIによるクレームメール対応は、事前準備工程と返信メール生成工程の2つの段階に分けられる。事前準備工程では、AIの活用における個別の役割や振る舞いを設定し、AI上でこれらの設定を有効化することが重要である。AIに対する役割としては「顧客からのクレームメールの返信案を作成すること」と定め、クレームメールへの応答においては「応答はフォーマルであること」「相手に不快な思いをさせないこと」「クレーム内容を詳細に洞察すること」を事前準備作業として設定し、AI上で有効化する(図表1)。

図表 1
図表 1

次に、顧客からのクレームメールに対する返信メール生成工程を検証する。ここでは企業の落ち度があるケースと落ち度がないケースについて確認してみよう。たとえば、企業に落ち度がある高橋氏からのクレームメールに対する対応として、「クレームメールに対する返信案を作成してください」という指示をAIに出す(図表2)。

図表 2
図表 2

その結果、AIは事前の設定に従い、高橋氏からのクレーム内容に記載されている問題点(破損している、作動しない、2日で故障)や要望事項(全額返金、品質管理の強化、48時間以内の解決策の提示)を把握したうえで、フォーマルかつ高橋氏に不快感を与えない返信案を瞬時に作成した(図表3)。このプロセスでは、AIが高橋氏のメールの内容を詳細に分析し、その内容に沿った適切な返信を生成した。このように、AIを活用することで、クレームメールへの迅速かつ適切な対応が実現されることがわかる。

図表 3
図表 3

次に、別の顧客である2人目の伊藤氏からの企業に落ち度がないクレームメールに対して、「以下の顧客はインターネットの情報を読み誤解している可能性があります。クレームメールに対する返信案を作成してください」という指示文をAIに出してみた(図表4)。

図表 4
図表 4

その結果、AIは事前の設定に従い、伊藤氏からのクレーム内容に記載されている問題点(安全性に関する懸念、健康リスク)や要望事項(正確な情報開示、対処法)を把握した上で、フォーマルかつ伊藤氏に不快感を与えない返信案を瞬時に作成した(図表5)。この過程で、AIは顧客のメールの内容を詳細に分析し、その内容に沿った適切な返信を生成している。

これら2つの例からもわかる通り、AIの利用によりクレームメールへの迅速かつ適切な対応が実現され、顧客との信頼関係を構築する上でAIは重要な役割を果たすことができる。AIのこの能力は、顧客の要望に敏感に対応し、適切な解決策を提案することで、顧客満足度を向上させることに貢献するといえるだろう。

一方で、AIは完璧ではなく、誤動作や判断ミスを避けることはできない。そのため、人によるモニタリングと対処プロセスを用意することも重要である。AIが作成した返信案の内容確認や、顧客からの追加のフィードバックに基づいて適切に人が関与し、必要に応じて直接顧客とのやりとりによって問題を解決することも求められる。そのような人とAIの協働により、より高度な顧客サービスを実現できるだろう。

図表 5
図表 5

3.クレームメール対応の構造とAIの活用

クレームメール対応においては、一定の共通フレームワークが存在する。それは、名乗り、お詫び、事実確認、質問・共感、解決策・代替案、結びという流れで構成されており、各ステップで顧客の不満を解消し、信頼を築くために重要な役割を果たす。

特に名乗りとお詫びは顧客に対する敬意と誠意を示すため、クレーム対応の初期段階で重要である。また、事実確認ではクレームの原因や顧客の要望を正確に把握し、質問・共感を通じて顧客の立場に立って考える。最終的に解決策・代替案を提示し、結びにて対応を締めくくる。AIの活用はこれらのフレームを適切に実行するうえで有効であり、自然言語処理技術を用いたAIはクレームの内容を正確に理解し、顧客の感情を把握することができる。また迅速なデータ処理能力により適切な解決策を提案し、効率的な対応を実現する。

以上のように、AIによるクレームメール対応は、一貫性と効率性を持って顧客の期待に応えることができる。クレーム対応について高いスキルを持つ人材は、顧客の要望や問題を深く理解し、対応することができる。対応のばらつきはスキルの差に起因することが多く、クレーム対応の質は顧客満足度に直接影響し、企業の信頼性にも関わってくる。クレーム対応が不適切であると、二次クレーム、すなわち最初の対応者に対するクレームにつながるリスクがあり、これは企業の信用をさらに低下させ、顧客の信頼を回復するためにはさらなる努力が必要になる。適切なクレーム対応は、初期の段階で問題を解決し、二次クレームの発生を防ぐことが重要である。

上手なクレーム対応は、商品やサービスに関する知識の習得、コミュニケーション能力の向上、怒りへの対処法などが挙げられる。これらは、クレームを効果的に処理し、顧客との良好な関係を維持するために不可欠である。クレーム対応には、こちらに落ち度がないケースも存在するが、それでも顧客の立場を理解し、適切な対応をすることが求められる。

また、人とAIの比較では、AIは一定のレベルで迅速かつ一貫した対応が可能であるが、人の能力にはばらつきがあるため、クレーム対応の手順通りにAIが通常レベルの対応をすばやく行い、その後に人がフォローする流れが顧客満足度につながるのではないかと考えられる。

AIを活用したクレームメール対応は、顧客満足度の向上、ブランドイメージの保持、そしてオペレーションの効率化に大きく寄与する可能性がある。AIによる迅速かつ適切な対応は、顧客との信頼関係を強化し、長期的な顧客ロイヤルティの構築につながるだろう。また、AIの進化に伴い、今後はさらに複雑なクレームに対しても柔軟かつ高度な対応が可能になることが期待される。このようなAIの活用は、個別サービス間の質のばらつきを解消し、サービス全体の質を向上させることになるだろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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