インバウンド回復を機に考える「おもてなし」

~まずは外国人への声かけ・手助けから~

水野 映子

目次

1.外国人観光客の再増加

夏休み真っ盛り。外国からも多くの観光客がやって来ている。

日本を訪れる外国人(訪日外客数)の数(図表1左)は、新型コロナウイルス感染症の拡大後に激減したが、昨年からの入国制限の緩和などに伴って急増している。2023年6月には、感染拡大後初めて200万人を突破した。感染拡大前の水準に迫る勢いである。

2023年上半期の訪日外客数の国・地域の内訳(図表1右)をみると、韓国(29.2%)、台湾(16.5%)をはじめ、英語を公用語としない国・地域がかなりの割合を占めている。

 図表1 訪日外客数
 図表1 訪日外客数

2.道・駅で迷う外国人を手助けしない人も

インバウンド(外国から日本への旅行)が回復するにつれ、街中で道に迷ったり鉄道などの乗り方がわからずに戸惑ったりしている外国人もよく見かけるようになってきた。

内閣府が毎年実施している「バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査」には、「外出の際、外国人が道や駅で迷っていた場合、声をかけて手助けをしたいと思うか」という質問がある。この質問に対して手助けをしたいと思うと答えた人の割合は、2023年2月の調査では65.4%、すなわち全体の3分の2弱だった(図表2)。

2018年から5年間の変化をみると、新型コロナの感染拡大初期の2020年から2021年の間に、手助けをしたいと答えた割合が6ポイントほど減っている。その後、この割合は微増しているが、直近の2023年でも2020年の水準には戻っていない。

図表2 道や駅で迷っている外国人に声をかけて手助けをしたいと思うか
図表2 道や駅で迷っている外国人に声をかけて手助けをしたいと思うか

次に、この質問で手助けをしたいと答えた人に対し、実際に声をかけて手助けしているかどうかをたずねた結果を図表3に示す。これをみると、2021年以降のどの年においても、手助けをしている人の割合は3分の2弱だった。一方、「ほとんど手助けできていない」または「手助けしていない」と答えた人、すなわち実際に手助けをする機会があっても手助けしていない人が2割程度いる。

図表3 道や駅で迷っている外国人に実際に手助けをしているか
図表3 道や駅で迷っている外国人に実際に手助けをしているか

3.声をかけないのは「外国語がわからないから」

では、なぜ道や駅で迷っている外国人を手助けしないのか。図表4は、前述(図表2)の質問で手助けをしたいと思わないと答えた人に対し、その理由をたずねた結果である。

2021~2023年のどの時点においても、回答割合が圧倒的に高かったのは「外国語がわからないから」である。この割合は徐々に減ってはいるが、2023年でも過半数(56.6%)を占めている。外国語がわからないことが、外国人に声をかけて手助けする際の大きなバリアになっていることがわかる。

次に割合が高かったのは「手助けをしたくても対応方法がわからないから」(2023年:28.2%)である。外国語で話すこと以外の対応方法が思いつかない人もいるのだろう。

図表4 道・駅で迷っている外国人に、声をかけて手助けしない理由(複数回答)
図表4 道・駅で迷っている外国人に、声をかけて手助けしない理由(複数回答)

4.外国語以外のコミュニケーション方法もある!

では、外国語がわからなければ、外国人に声をかけて手助けすることはできないのだろうか。

2020年2~3月に文化庁が実施した調査では、外国人と接する機会がある人に対し、どのように意思疎通を図っているかを質問している(注1)。接する外国人は観光客に限定されていないが、観光客とのコミュニケーション方法を考えるうえで参考になる。

まず、言語を用いたコミュニケーションについてみると、「英語などの外国語を使って」(44.7%)が2位にあがっているが、半数には達していない(図表5左)。これに僅差で続いているのが、3位の「やさしい日本語で分かりやすく」(43.7%)である(注2)。

外国人観光客とのコミュニケーション方法というと、一般には英語がイメージされがちだが、実際には皆が英語で会話できるわけではない。一方、彼らの中にも、ある程度以上の日本語がわかる人はいる。前述の「英語などの外国語で」、あるいは4位の「特に気を使うことなく日本語で」という方法でのコミュニケーションは難しくても、「やさしい日本語」なら通じる人もいるだろう。

外国語・日本語という言語でのコミュニケーション方法を上回ったのは、「身振り手振りを交えて」(51.3%)という非言語でのコミュニケーション方法である。身振り手振り(ジェスチャー)だけでの意思疎通は難しいこともあるが、言語でのコミュニケーションを補う方法としては有効である。

もう一つ注目したいのは、5位の「スマートフォンなどの翻訳ツール」である。この調査が実施された2020年から現在までの3年半ほどの間に、スマートフォンのアプリなどの翻訳ツールは目覚ましく進歩した。この調査時点で翻訳ツールを使っていると答えた人は20.3%に過ぎなかったが、現在は利用者がもっと増えて活用の幅も広がっていると考えられる。

年代別にみると、「英語などの外国語」「身振り手振り」「翻訳ツール」と答えた割合は若い世代で高い(図表5右)。若い世代を中心に、多様なコミュニケーション方法が駆使されていることがうかがえる。一方で、「やさしい日本語」は40歳以上で比較的多く使われている。

図表5 外国人と意思疎通を図る方法(複数回答)
図表5 外国人と意思疎通を図る方法(複数回答)

5.一般市民ができる「おもてなし」とは?

外国人観光客に日本での滞在を安心して楽しんでもらい、また来たいと思ってもらうためには、受け入れ側である観光業のプロはもちろん、一般市民の意識や行動も大切だ。街中で困っている外国人を見かけた人は、外国語が流暢に話せないから手助けできないと思うのではなく、自分ができる方法で声をかけてみてはどうだろうか。まずは簡単な外国語や日本語で話してみる、通じなければスマホのアプリなどで日本語から外国語に翻訳する、ジェスチャーやイラストを使う、など方法はいろいろある。

とはいっても、皆がそれらの方法をすぐに思いつき、柔軟に使いこなせるとは限らない。老若男女が外国語のみならず外国人とのコミュニケーション方法を幅広く学べる機会・場が、学校や地域などにもっとあるとよいだろう。外国人と実際に交流し、コミュニケーションできる機会・場が増えればさらによい。そうなれば、日本に来る外国人の観光しやすさとともに、日本に住む外国人の暮らしやすさも高まるはずである。

かつて、東京2020オリンピック・パラリンピック招致をきっかけに、「おもてなし」という言葉が世間をにぎわせた。市民の声かけや手助けこそ「おもてなし」の第一歩といえよう。

水野 映子


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