日本人にも役立つ「やさしい日本語」

~外国人対応だけでないメリット~

水野 映子

目次

1.「やさしい日本語」をめぐる動き

日本に住む外国人(在留外国人)は、2022年末に過去最高の308万人となった(注1)。日本の人口のおよそ40人に1人(2.5%)が外国籍の人という計算になる。その国籍・地域は、多い順に中国・ベトナム・韓国・フィリピン・ブラジルである(図表1)。これらの国で主に使われている言語はいずれも異なる。

図表1 在留外国人の国籍・地域の内訳
図表1 在留外国人の国籍・地域の内訳

外国人(注2)に情報をすばやく正確に伝えるためには、それぞれの母語に翻訳・通訳することが望ましい。だが、現実にはそれが難しいこともある。そこで、日本語をある程度知っている外国人に情報を伝える方法のひとつとして、「やさしい日本語」への注目が集まるようになった。やさしい日本語とは、「難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語」などと定義されている(注3)。

政府は、2019年(令和元年)から「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」にやさしい日本語での対応を含めてきた(注4)。その「令和4年度改訂」版では、「情報発信及び相談対応におけるやさしい日本語化の更なる促進」が、重点項目「外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制の強化」の施策のひとつになっている(注5)。

こうした施策にもとづき、出入国在留管理庁・文化庁は2020~2023年の間に、やさしい日本語に関するガイドラインを、別冊も含めて4冊発行した(図表2)。また、2022年6月公表の「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」には、今後5年間の具体的施策として、地方公共団体職員や地域住民対象のやさしい日本語研修の実施などがあがっている(図表3)。

図表2 出入国在留管理庁・文化庁発行のやさしい日本語に関するガイドライン
図表2 出入国在留管理庁・文化庁発行のやさしい日本語に関するガイドライン

図表3 「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」における やさしい日本語に関する具体的施策
図表3 「外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ」における やさしい日本語に関する具体的施策

2.「やさしい日本語」は日本人にも「やさしい」

最初に述べたように、いまや日本の人口の40人に1人は外国籍の人である。いうまでもないが、国籍やルーツ、言語にかかわらず日本に住む人はみな地域コミュニティの一員であり、日本社会を支える存在でもある。

「やさしい日本語」普及の目的は、外国人の情報入手やコミュニケーションを円滑にすることにある。そのことは、外国人だけでなく、共に暮らす日本人のためにもなる。たとえば、情報の行き違いやコミュニケーションのすれ違いによる生活上・仕事上のトラブルを避けることができる。また、地域や職場などでより活躍してもらえるようになる。さらには、互いに異なる文化を知り、交流を楽しむこともできる。つまり、マイナス面を減らす効果に加え、プラス面を増やす効果も期待できる。

またそれ以外にも、やさしい日本語の使用が日本人自身に与えるメリットはある。それは、やさしい日本語を使えば、日本人も言葉を理解しやすくなることである。

前述の図表2のガイドラインのうち、書き言葉に主な焦点をあてた①には、やさしい日本語を作るための3つのステップが載っている(図表4a)。そのステップ1は「日本人にわかりやすい文章」を作ることである。具体的には「情報を整理する」「文をわかりやすくする」「外来語に気を付ける」などのポイントがある。

また、話し言葉に関するガイドライン③でも、話の「内容を整理」することが「はじめの心得」となっている(図表4b)。その他、聴き方や話し方のポイント(たとえば、相手の話をしっかり聴く、短くはっきり言い切る、相手が理解できる言葉に言い換えるなど)も書いてある。これらは、一般に日本人同士のコミュニケーションの基本とされるポイントでもある。

したがって、これらのような日本語の書き方・話し方をすれば、日本人にも情報が伝わりやすくなるだろう。また、情報を出す側にとっては、やさしい日本語を書こう・話そうとする過程で、情報を整理できるメリットもある(注6)。

外国人・日本人を問わず多様な人々が情報を的確に伝え合い、コミュニケーションし合えることは、誰もが暮らしやすい社会の実現につながる。やさしい日本語がその一手段として役立つ可能性に、今後も注目したい。

図表4 ガイドラインにおける「やさしい日本語」のポイント
図表4 ガイドラインにおける「やさしい日本語」のポイント

【注釈】

  1. 出入国在留管理庁「令和4年末現在における在留外国人数について」2023年3月
    (https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00033.html)

  2. これ以降、本稿では便宜上、日本語を母語としない人を「外国人」、日本語を母語とする人を「日本人」とする。外国にルーツを持ち日本語を母語としない日本国籍の人なども「外国人」に含める。

  3. 図表2の①の定義にもとづく。

  4. 外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(改訂)」2019年12月
    (https://www.moj.go.jp/isa/content/930004638.pdf)

  5. 外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和4年度改訂)」2022年6月
    (https://www.moj.go.jp/isa/policies/coexistence/nyuukokukanri01_00140.html)

  6. その他、知的障害者や聴覚障害者との情報のやり取り・コミュニケーションにもやさしい日本語の考え方が有効である、やさしい日本語がAIによる自動翻訳(機械翻訳)に向いているなどの指摘もある。


【参考文献】

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。