ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

変化するSNSの役割

~情報「共有」から、情報「収集」「流し見」ツールへ~

稲垣 円

目次

インターネットの普及から約30年、そしてスマートフォンが普及して10年以上が経過し、生活者を取り巻く情報環境や情報の扱い方は大きく変化した。中でもSNSは、私たちの生活に欠かせないものとなっている。利用者は年々増加しており(注1)、提供されるサービスの数や入れ替わり、そして機能の拡大などをみると、その変化・進化のスピードは目まぐるしい。

一方で、確かなエビデンスに基づく情報も、エビデンスに乏しい不確実な、または全くの偽物の情報もSNSを経由して伝達される。いつでも、どこでも、知りたい情報を自ら検索・収集し、誰かと共有することができる時代を享受している私たちは、SNSとどのように付き合えば良いのだろうか。

本稿では、当社が2019年と2023年に実施した調査(注2)から、生活者のSNS利用に関する意識について考察する。

1.SNSを利用する目的

図表1は、SNSの利用目的について2019年と2023年の回答を比較した結果である。

4年前の2019年に実施した結果では、利用目的で最も多かったのが「新たな知識や情報を得るため」で、回答は全体の5割を超えている(51.1%)。続いて「時間(暇)つぶしのため」(44.0%)、「連絡通信の手段として」(41.1%)「(現在の)友人や知人との関係を維持するため」(37.2%)であった。他方、2023年の結果では、順位こそ異なるが、上位3項目は「時間(暇)つぶしのため」(41.6%)が全体の中で割合が最も高く、続いて「新たな知識や情報をえるため」(36.6%)、「連絡通信の手段として」(35.7%)であった。割合を見ても、2019年の結果ほど、突出して高い割合を示す項目はなく、先の3項目の割合は拮抗している。

「新たな知識や情報を得るため」(2019年:51.1%→2023年:36.6%)「(現在の)友人や知人との関係を維持するため」(2019年:37.2%→2023年:17.8%)のように、2019年と比較して2023年に割合が大きく減少した項目もある一方、「商品を購入するときの参考にするため」は2023年に割合が増えている(2019年:14.3%→2023年:23.4%)。このことから、4年間で生活者のSNS利用目的が、共有から情報を収集するツールへと変化したことが見てとれる。

図表1
図表1

性別で見ると(図表2)、2019年に最も割合が高かった「新たな知識や情報を得るため」は、2023年には男女共に10ポイント以上下がっており、「(現在の)友人や知人との関係を維持するため」に至っては女性が21.7ポイント、男性は17.0ポイント減少した。加えて、女性は「良い出来事や、嫌な出来事があった時に友人や知人と共有するため」が、10.3ポイント下がっている。もはやSNSは友人知人との関係維持や情報共有に必要不可欠なツールである、という認識が薄れつつあるのだろうか。

図表2
図表2

さらに、特徴的な項目を抜き出し性年代別にみると(図表3)、2019年と2023年の傾向に特徴があることが浮かび上がってくる。両年ともに最も割合が高かった「新たな知識や情報を得るため」は、2019年は男女共に20代、30代が5割超えており、特に女性20代は72.4%、30代は60.0%と高い割合を示し、全体の割合を高めていた。一方で、2023年をみると、性や世代による極端な差がなくなり30~40%のあたりに収まっている。また、「(現在の)友人や知人との関係を維持するため」は、2019年と比較して、全ての年代で15ポイント以上下がっている。その一方で「商品を購入するときの参考にするため」は女性が高い傾向があったが、2023年は男性も全ての年代で5ポイント以上増加、女性では4分の1が商品購入の参考としてSNSを利用するまでに増加している。以上から、SNSは、関係維持や出来事共有といった、従来のディープな関係維持ツールとしての位置づけは低下し、家族・友人との連絡手段や、情報収集のツールへと位置づけが変化しているとみることができるだろう。

図表3
図表3

2.SNSの利用で感じること

では、SNSを利用することで、どのようなことを感じているのだろうか。

図表4は、SNSの利用で感じることについて、2019年と2023年の回答を比較した結果である。各項目を、「閲覧に関するストレス」「虚栄(良く見せること)に関するストレス」「つながりに関するストレス」「情報公開に関するあきらめ」「SNS利用の効用」に分類して確認すると、「閲覧に関するストレス」の2項目は、2019年と比較して2023年は5ポイント以上下がっている。

一方で、虚栄に関するストレスの2項目と、つながりに関するストレス項目の「常に人とつながっていなければならない気がする」、情報公開に関するあきらめストレスの3項目は、若干ではあるが2023年の調査結果で増加していた。常に閲覧してつながっている相手に反応しなくてはならない、ということへの強迫的な思いは薄れつつあるものの、SNS上での自分自身の魅せ方、見え方には今もストレスを感じている様子がうかがえる。また、依然として4分の1が「投稿した内容が、知らない人にみられても仕方がない」と回答していることから、SNSを利用することは自分の情報が公開されて当たり前であるという意識、そうした状況を前提として利用している様子が垣間見える。

図表4
図表4

3.SNS利用による疲れ、気持ちの落ち込み

とはいえ、個人情報がさらされていくことや、意識・無意識にかかわらず、SNS上で多すぎる情報に次々と触れることによる心身の影響も見逃せない。

図表5は、図表4において、2019年と2023年で6.3ポイント差であった「SNSを使うことで疲れを感じたり、気持ちが落ち込んだりする」について性年代別に示したものである。結果をみると、女性の方が男性よりも割合が高く(全ての年代で男女に5ポイント以上の差がある)、特に女性20代~40代は、SNS利用者の3割強が、50代でも4分の1が疲れや気持ちの落ち込みを感じていることがわかる。

常時接続し、自分の情報が公開されているという状況が当たり前であるとしても、「さらされている/さらしている」ことへの耐性が強くなるとは限らない。そうした環境に居続けていることの影響を利用者自身がいかに自覚するかが課題であろう。

図表5
図表5

4.情報過多の時代におけるSNSの使い方、情報の捉え方

SNSを利用していると、“見たいもの”と“見たくないもの“を自ら取捨選択する前に、あらゆる情報が目に入ってくることがある。

特に、提供されるサービスの閲覧履歴や購入履歴、登録データ等から、その人が次に見たいコンテンツや購入したい商品を予測し「おすすめ」したり、知り合いかもしれない“友達”を紹介したりするアルゴリズムが組まれているため、私たちは否が応でも、また全く違和感なく、情報を目にすることになる。同じような趣味嗜好、主義主張が似ている人や自身と同年代や近しい友人の見栄えの良い投稿を見れば、うらやましさや自己嫌悪に陥ることもあるだろう。

他方、先に図表4,5においてSNS利用の効用について述べたが、別の見方をすると、SNSを利用している人の7割程度は今のところネガティブな影響を受けてはいないとみることもできる。こうした層が「SNSで見るものがすべてとは限らない」と理解し、「自分に必要な情報を選ぶ」ことが大事だと理解しているならば、情報過多の時代において多くの人はSNSとは「そういうものだ」と割り切った上で、信頼はそこそこに、目の前に現れる情報と付き合っている(流し見している)、というのが現状ではないかとも考えられる。

膨大な情報に日々触れ、あるいは、無自覚に自らそうした海に飛び込んでいる中で、それらの影響を受けずに生活すること自体難しい。また、AI技術を活用したツールの急速な進化を目の当たりにすると、ますます使い方(来るものを受け取る/自ら探して取捨選択する、好みの情報だけを観る/多種多様な情報を観る)によって、活用できる情報の個人差が質・量ともに広がるだろう。

「リテラシーが必要だ」というのは正論だが、私たちはあまりにも速すぎる、多すぎる、そして複雑すぎる情報社会を生きているのだ、という事実を知ることから、まずは始めなければならない。

【注釈】

  1. 総務省「令和3年通信利用動向調査」(2021年8月調査実施)によれば、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を利用する個人の割合はほぼ全ての年齢階層で増加し、78.7%に達したと報告している。
  2. 本稿では、当研究所が実施してきた生活定点調査の一部を活用している。各調査概要は以下の通り。

各調査概要
各調査概要

【参考資料】

  • 坂本旬、山脇岳志「メディアリテラシー 吟味思考を育む」時事通信社2022年1月
  • 総務省「令和3年通信利用動向調査」2022年5月.
  • 第一生命経済研究所編「人生100年時代の『幸せ戦略』全国2万人調査から見える多様なライフデザイン」東洋経済新報社、2019年10月.
  • ハンナ・フライ著、森嶋マリ訳「アルゴリズムの時代 機械が決定する世界をどう生きるか」文藝春秋、2021年8月.
  • 法政大学大学院 メディア環境設計研究所編「アフターソーシャルメディア 多すぎる情報といかに付き合うか」日経BP、2020年6月.
  • NHK放送文化研究所「情報過多時代の人々のメディア選択~『情報とメディア利用』世論調査の結果から~」2018年12月.

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。