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生成AI検索copilotの衝撃

~ここまで来た!検索エンジンにおけるAIの活用~

柏村 祐

目次

1.検索エンジンの進化と課題

インターネットの検索エンジンは、現代社会における重要な情報源の1つとなっている。

検索エンジンの歴史は、インターネットの普及とともにある。初期の検索エンジンは比較的単純な設計で、ウェブ上のドキュメントを単語レベルでインデックス化し、その単語に基づいてウェブページを検索する仕組みであった。しかし、1990年代中盤以降、Googleの登場に伴い、検索エンジンの歴史は大きな転換点を迎える。

Googleは革新的な技術を導入し、検索結果の質を大幅に改善した。具体的には、ウェブページの単語の出現頻度だけでなく、他のウェブページからのリンク数(被リンク数)も評価基準に加えた。現代の検索エンジンは、人工知能(AI)と自然言語処理(NLP)の利用により、ユーザーの入力ミスを修正し、ユーザーが何を検索しているのかを深く理解する能力をもつようになった。これにより、検索エンジンはより精度の高い検索結果を提供し、ユーザー体験を大幅に向上させている。言い換えれば、検索エンジンは単なる情報検索ツールから、情報を理解し解釈する能力をもつ高度なシステムへと進化したのである。

しかし、その一方で、検索エンジンの使用には課題も伴う。その1つは、検索エンジンで質問を考える手間である。適切な検索結果を得るには、具体的かつ効果的なキーワードを設定することが求められる。しかし、そのためには一定の情報リテラシーを必要とする。ユーザーは適切な質問の設定に時間と労力を費やすこととなる。2つ目の課題は、リンクをクリックして情報を精査する手間である。検索エンジンは結果をリストで提示するが、それが真に求める情報かどうかを確認するには、各リンクを1つずつ開き、内容を確認する作業が必要となる。これには時間を消費し、また求める情報が見つからなかった場合は、キーワードを再設定し再検索を行うこととなる。

このような課題を解決するために、生成AI検索copilot(以下、検索copilot)が開発されている。copilot(日本語訳は副操縦士)とは、ユーザーが作業を行う際に、自動的にタスクを補助する仕組みを指す。本レポートでは、検索copilotの能力について概観し、検索エンジンのユーザー体験価値向上につながるAI活用について解説する。

2.検索copilotの実態

検索copilotはユーザーの質問を理解し、ウェブ上から関連する情報源を収集する。必要に応じて対話式のボタンでプロンプト(ユーザーに入力を促す画面)を表示することで、ユーザーが質問を明確化することが可能となる。その結果、関連しない回答を待つ時間が減少し、質問の編集も容易になる。また、この検索copilotにより、ユーザーは質問を考える手間やリンクをクリックして情報を精査する手間を大幅に軽減することができる。さらに、検索copilotは、ユーザーの情報取得の効率化だけでなく、より直感的で人間らしいインターフェースを提供することで、ユーザー体験の改善に寄与している。

以下では、この生成能力を、具体的な事例として物品購買と旅行計画に関する検索を通じて、詳しく説明する。初めに、物品購買に関する検索について、検索copilotの能力を確認する。検索copilotの検索バーに「help me buy headphones(ヘッドホンの購入を手伝ってください)」と入力したところ、「What type of headphones are you looking for?(どのようなヘッドホンをお探しですか?)」と「What is your budget?(ご予算をお聞かせください)」といった問いとそれぞれに対応する選択肢が生成された。利用者は、検索copilotが生成した選択肢から自身の好みに合致するものを選択すれば良い。ここではヘッドホンのタイプとしてin-ear(インイヤー)を選択し、予算を50ドルから100ドル以内に設定した。その上で、「Anything else to add?(他に追加するものはありますか?)」という問いに対して、使用目的としてミーティングに使うことを追記した(図表1)。

図表1
図表1

結果として、検索copilotは利用者の要望に応じたヘッドホンに関する情報を、「Based on your preferences for in-ear headphones with a budget of $50-$100 and for use in meetings, I have found a few options that might suit your needs(予算50~100ドル、会議での使用を想定したイヤホンの好みを踏まえ、ニーズに合いそうな選択肢をいくつか見つけてみました)」という文章(図表2赤枠)と共に、具体的な機種名が4つ推薦された(図表2青枠)。推薦された機種の詳細を確認するには、添付されたリンク先をクリックすれば良い。

図表2
図表2

次に、旅行計画に関する検索について、検索copilotの能力を確認する。検索copilotの検索バーに「Plan trip to Tokyo(東京への旅行計画を作成して)」と入力したところ、「How long will your trip be?(旅行の日数は?)」といった問いと、入力領域が生成された。また、「What are your interests?(あなたの興味は何ですか?)」という問いと共に、チェックボックスで選択できる興味の選択肢が生成された。ここでは旅行日数を3日間に設定し、興味として観光、グルメ、文化のチェックボックスを選択した。その上で、「Anything else to add?(他に追加するものはありますか?)」という問いに対して、休暇と入力した(図表3)。

図表3
図表3

結果として、検索copilotは利用者の入力内容に応じた3日間の東京旅行計画を作成した。1日目の旅行計画では「観光と文化」をテーマに、浅草寺、上野動物園、東京国立博物館、秋葉原が推薦された。2日目の旅行計画では「食事と買い物」、3日目では「観光と食事」がテーマとされ、それぞれについて名所が推薦された(図表4)。推薦された名所の詳細を確認するには、添付されたリンク先をクリックすれば良い。

以上のように、検索copilotを活用すれば、問い合わせたい概要を入力するだけで、AIが問いの内容に関連する質問事項を自動生成する。同時に、質問事項に対応する回答欄では数値入力、チェックボックス選択、自由記入が可能であり、利用者がインタラクティブに回答を行える環境が提供されている。

図表4
図表4

3.検索copilotの可能性

検索copilotは卓越した自然言語処理能力を活用し、ユーザーの質問や要求を理解するとともに、情報を探索し提供する能力を有している。これにより、革新的な可能性が引き出されている。検索copilotは従来のキーワードベースの検索を進化させ、深い意味の理解とパーソナライズされた結果の提供を可能にする機会を創出している。その結果、特定の情報を素早く見つけるだけでなく、ユーザーの問いに対する新たな視点や洞察を提供することも可能になっている。

同時に、この進歩は従来の検索エンジンの役割と未来に影響を及ぼしている。従来の検索エンジンは巨大な情報データベースと効率的なインデキシングシステムにより、特定のキーワードやフレーズに基づく情報を提供する役割を果たしてきた。しかし、検索copilotの出現により、これらの検索エンジンは基盤としての役割をより強く担うことになるだろう。すなわち、広大な情報を探索し整理し、索引付ける役割が重視される一方で、それらの情報を解釈しユーザーのニーズに応じて最適な情報を提供する役割は検索copilotが果たすことになる。

この観点から見ると、従来の検索エンジンと検索copilotはそれぞれが異なる役割を担いつつも共存することが可能である。一方が情報の海を探索し整理する役割を果たし、一方がその情報を解釈しユーザーのニーズに応じた結果を提供する役割を果たす。これらは異なる役割を担っているものの、その目的は同じで、ユーザーがより効率的でパーソナライズされた検索経験を享受することにある。このような共生関係が形成されれば、情報の検索と利用はこれまで以上に効率的で直感的になることが期待される。検索copilotは、ユーザーの思考や課題解決の過程を助ける知識ツールとなる可能性があり、新たな知識の探求や創造性の促進に寄与することになるであろう。

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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