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暗号資産交換所ポータルの衝撃

~あなたが知らない安心して最も高い交換率で取引できる場所~

柏村 祐

目次

1.暗号資産交換所ポータルの登場

2022年6月中旬現在、暗号資産の時価総額は100兆円を超え、その種類は約1万種類に及んでいる。多数の暗号資産が登場する中、法定通貨と暗号資産との交換に利用される暗号資産交換所の数も増加している。

利用者が暗号資産取引を行う際に、より有利な取引を行おうとすれば、自ら交換所における取引手数料体系を1つ1つ調査する必要があり、その作業は煩雑である。また、どの交換所が安全に利用できるのかも自分自身で判断する必要がある。

このような暗号資産取引における利用者の課題を解決する仕組みとして、海外では暗号資産交換所ポータルが登場している。

2.暗号資産交換所ポータルの実態

代表的な暗号資産交換所ポータルとして、BestChange.ruが挙げられる。これは日本よりも暗号資産が普及しているロシアで展開されており、2007年から現在まで続く老舗のサービスである。現状ではロシア人しか利用することができないが、利用者は、このプラットフォームを使うことで、保有する暗号資産を含む電子マネーを、最も高い交換率で希望の通貨に両替することができる。BestChange.ruに登録されている暗号資産交換所は、2022年6月中旬時点で411となっている。

その両替方法はわかりやすい。最初に交換したい通貨と交換先となる通貨を選択すると、交換レートが高い順に暗号資産交換所がリスト化される。そして、そこで選択した暗号資産交換所のサイトに移動し、指示に従うことで交換できる(図表1)。たとえば、図表1赤枠の交換所では、2,028,646ルーブルで1ビットコインと交換できる一方、図表1青枠の交換所では、2,029,524ルーブルで1ビットコインと交換でき、交換率が赤枠の交換所の方が高いことがわかる。

図表 1 最も有利な交換率を提示してくれる BESTCHANGE
図表 1 最も有利な交換率を提示してくれる BESTCHANGE

図表2赤枠に掲載している交換元の大手銀行については、ロシア国民で同行の口座所有者であれば、誰でもオンライン上で取引を行えるネットバンキングサービスを展開しており、各暗号資産交換所と連携することで、様々な暗号資産と交換できるサービスを提供している。そのため、ロシアで運営される暗号資産交換所ポータルは、利用者が銀行口座にあるルーブルをビットコインに簡単に交換できる場となっている。

図表 2 ルーブルからビットコインに交換する入力画面
図表 2 ルーブルからビットコインに交換する入力画面

3.暗号資産交換所ポータルが存在する意義

暗号資産交換所ポータルの特徴を改めて挙げるとすれば、「安心して有利に暗号資産取引ができる」ということになる。暗号資産を取引する利用者にとって、どの交換所が安心して取引できるのかを把握することは難しい課題だ。その解決のために、暗号資産交換所ポータルは、暗号資産交換所を登録する場合、一定の条件を満たした交換所のみを掲載するよう審査を行っている。また、世界中に点在する暗号資産交換所はそれぞれ異なる手数料体系をもっており、利用者は1つ1つの内容を確認して、自分が望む条件で取引できる暗号資産交換所を探す必要があるが、暗号資産交換所ポータルは、現時点で最も高い交換率で取引できる交換所を提示してくれる。つまり、利用者が抱える課題を解決したものが暗号資産交換所ポータルだといえる。

暗号資産は、ウォレットを介して従来の国際送金よりも迅速かつ低コストで、いつでもどこでも自由に送金・入金できるボーダーレスな特長をもつ。暗号資産の市場が拡大する中、その流通を支える機能の1つになりうる暗号資産交換所ポータルは、独自の進化を遂げ、暗号資産取引において利用者の利便性を高める環境を創り出している。今のところロシア国内に限られたサービスではあるが、今後さらに暗号資産の普及が進めば、日本でも同様の仕組みが展開される可能性もある。

2022年6月7日に発表された経済財政運営の基本方針2022(骨太方針2022)の中で、日本政府は、ブロックチェーン技術を基盤とするNFTやDAOの利用等のWeb3.0の推進に向けた環境整備の検討を進めるとし、その中で、セキュリティトークンおよび暗号資産にも言及している(注1)。このような状況を踏まえれば、暗号資産にかかわる制度整備に加え、利用者保護と利便性の確保の両面から、暗号資産交換所ポータルに関する環境整備の必要性も視野に入ってくることになるだろう。


柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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