世界軍事費ランキングとパワー・バランス

~SIPRI軍事費2022年版公表、日本の防衛費の行方は~

石附 賢実

要旨
  • スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は毎年、世界各国の軍事費を集計しており、今般2022年版(調査年2021年)が公表された。軍事費シェアの趨勢に大きな変化はなく、引き続きG7で世界の過半(52.7%)を占める。
  • 米Freedom Houseの自由度3区分(Free、Partly Free、Not Free)にこの軍事費を掛け合わせると、中国・ロシアを含むNot Free国の世界の軍事費シェアは24.9%(2021年)にとどまり、GDPシェアの26.4%とあまり変わらない。G7を含むFree国の軍事費シェアは微減傾向が続いているものの、今なお60%台後半を維持している。中国は軍事力を急速に強化しているイメージがあるものの、軍事費はGDP比1.7-1.8%前後で安定的に推移しており、公表値ベースでは「経済成長並みの増加」を継続していると言える。
  • 2021年現在、ロシアの軍事費シェアはわずか3.2%と日本の2.6%に近い水準にとどまり、米国の38.5%とは比較にならない。ウクライナ情勢は、西側諸国からの支援が継続し、通常戦力同士の膠着状態の中で装備の損耗が継続するとなれば、G7だけで52.7%を占める軍事費シェアを見る限りロシアの苦戦が想像される。
  • 日本の防衛費のGDP比は1%余りと、経済力との比較感で西側先進国の最低水準にある。国家間の紛争は今後も「法に基づく支配」の下での解決を大原則とすべきであるが、国際法や国際的規範に挑戦する国家が存在する限り、抑止力たる軍事力は必要となる。日本では年末に向けて今後の防衛費の水準感や支出内訳の前提となるであろう「国家安全保障戦略」・「防衛計画大綱」・「中期防衛力整備計画」の見直しが進められているが、昨今の国際情勢の変化を踏まえた、我々一般国民に対しても分かりやすく説得力を持つものとなることを期待したい。
目次

1.ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の軍事費データベース

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は毎年、世界各国の軍事費(注1、公表値ベース)を集計しており、4月25日、2022年版(調査年2021年)が公表された。プレスリリース「https://sipri.org/media/press-release/2022/world-military-expenditure-passes-2-trillion-first-time」では、「パンデミック2年目にも関わらず世界の軍事費は2021年も増え続け、過去最高、7年連続の支出増となった」ことが強調された。趨勢に大きな変化はないと言え、引き続き日米を含むG7で世界の過半(52.7%)を占める(資料1、注2)。なお、文末参考資料1に2021年軍事費上位12か国のデータをソ連崩壊前の1990年から時系列でまとめている。

資料 1 世界軍事費シェア(2021 年)
資料 1 世界軍事費シェア(2021 年)

2.米 Freedom Houseの自由度3区分と軍事費を掛け合わせると

拙稿「世界自由度ランキングが語る民主主義の凋落と権威主義の台頭(2022年版update)」(2022年4月、「https://www.dlri.co.jp/report/ld/185975.html」)では、米Freedom Houseが毎年公表している自由度3区分(Free、Partly Free、Not Free)に各国のGDPを掛け合わせて、民主主義勢力と権威主義勢力の経済力の推移を概観している(文末参考資料2)。

今般のSIPRIのアップデートに合わせて、軍事費を自由度3区分と掛け合わせた(資料2)。まず、ソ連崩壊前の1990年から自由度別の軍事費の推移を概観する。1990年のソ連は、ゴルバチョフ政権が進めた改革「ペレストロイカ」や情報公開「グラスノスチ」が評価されPartly Freeに分類されていた。ソ連崩壊後のロシアは軍事費が大幅削減となり、以降しばらくは米国1強の時代となる。1990年代後半から2000年代はFree国で80%以上の軍事費シェアを占めることとなり、その後、中国の経済成長・軍事費増加に伴い、現在のバランスに至る。

現状、中国・ロシアを含むNot Free国の世界の軍事費シェアは24.9%(2021年)にとどまり、GDPシェアの26.4%とあまり変わらない(参考資料2)。G7を含むFree国の軍事費シェアは微減傾向が続いているものの、今なお60%台後半を維持している。中国は軍事力を急速に強化しているイメージがあるものの、軍事費はGDP比1.7-1.8%前後で安定的に推移しており、公表値ベースでは「経済成長並みの増加」を継続していると言える(参考資料1)。

資料 2 世界各国の軍事費の自由度別構成比の推移(名目、US$)
資料 2 世界各国の軍事費の自由度別構成比の推移(名目、US$)

3.ロシアの軍事費

ソ連崩壊前の1990年時点では、ソ連の軍事費シェア23.5%に対して米国は34.9%と、米ソ間である程度のバランスが取れていた(参考資料1)。ソ連崩壊とともにロシアの軍事費は大幅削減となり、その後GDP比3-4%程度の支出を続けるも、2021年の世界シェアはわずか3.2%と日本の2.6%に近い水準にとどまる。軍事費に限ってみれば米国の38.5%とは比較にならない。ウクライナ情勢は2か月が経過した現在もウクライナの抵抗が続いている。西側諸国からの支援が継続し、通常戦力同士の膠着状態の中で装備の損耗が継続するとなれば、G7だけで52.7%を占める軍事費シェアを見る限り今後のロシアの苦戦が想像される。そのような中で、核兵器や化学兵器など、ロシアによる「通常兵器と非対称な兵器」の使用が懸念されているところである。

4.おわりに~日本の防衛費

現状、日本の防衛費(注1)のGDP比は1%余りと、経済力との比較感で西側先進国の最低水準にある(参考資料1)。国家間の紛争は今後も「法に基づく支配」の下での解決を大原則とすべきであるし、そのための外交努力は欠かせないであろう。他方で、国際法や国際的規範に挑戦する、あるいは暴力を信奉する国家が存在する限り、抑止力を発揮するのに十分な水準の軍事力が必要となる。「法に基づく支配」を守っていくためには軍事力の「力」が不可欠、という冷徹な現実をいままさに我々は目撃している。

筆者は軍事の専門家ではなく、世界のパワー・バランスを概観する上で軍事費データを机上で集計しているに過ぎない。軍事力は軍事費以外に、装備の質や核兵器などの大量破壊兵器の有無、同盟関係といった決定的な要素が存在する。それでも軍事費は装備の裏付けになるとともに、国家防衛の意思の現れとして抑止力を想起させることから、金額水準は決して軽視できない、軍事力の重要な指標の一つと考えられる。NATOが加盟国にGDP比2%以上の軍事費支出を求めているのもその証左と言えよう(注3)。

その一方で、軍事費がロシアと比して大きく見劣りするウクライナ(世界36位、5,943百万米ドル、2021年)は、欧米から提供された歩兵携行の武器やドローン、自国開発の地対艦ミサイル等で効果的に抵抗しているとされる。こうした情勢も背景に、日本は先進国で最悪とされる政府債務残高の下で、防衛費の単なる増額を超えて、真に日本の防衛に寄与する支出の内訳、すなわちワイズ・スペンディングの発想を求める声も出てくると思われる。

現在、岸田政権の下、2022年末に向けて「国家安全保障戦略」・「防衛計画大綱」・「中期防衛力整備計画」といった防衛に関わる基本方針の見直しが進められている。今後の防衛費の水準感や支出内訳の前提となるこれら基本方針の改定が、昨今の国際情勢の変化を踏まえた、我々一般国民に対しても分かりやすく説得力を持つものとなることを期待したい。

以 上

【注釈】

1)全体を通じてmilitary expenditureを「軍事費」と訳して使用しているが、日本について言及の際は日本政府の予算内訳等の表現に準じて「防衛費」としている。

2)全体を通じて軍事費シェアを算出する際の分母となる世界の軍事費は、SIPRIデータベースにて取得可能な各国の単純合計値(名目US$ベース)。

3)NATO(北大西洋条約機構)加盟国は2024年までに軍事費をGDP比2%水準に引き上げることを目標としている。 (NATO詳細:外務省HPより「https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nato/index.html」)  

【参考文献】

  • Stockholm International Peace Research Institute (2022) “Military Expenditure Database”
  • Freedom House(2022) “Freedom in the World 2022”
  • A.アインシュタイン・S.フロイト、浅見昇吾訳(2016)「人はなぜ戦争をするのか」

【参考資料】

1)軍事費推移(2021年上位12か国、名目・百万US$)

軍事費推移(2021 年上位 12 か国、名目・百万 US$)
軍事費推移(2021 年上位 12 か国、名目・百万 US$)

2)世界GDPの自由度別構成比の推移(名目・US$)

世界 GDP の自由度別構成比の推移(名目・US$)
世界 GDP の自由度別構成比の推移(名目・US$)

石附 賢実

石附 賢実

いしづき ますみ

総合調査部 マクロ環境調査G グループ長
専⾨分野: 経済外交

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