世界自由度ランキングが語る民主主義の凋落と 権威主義の台頭(2022年版update)

~ウクライナ情勢で国際秩序が揺らぐ今こそ普遍的価値観が求められる~

石附 賢実

要旨
  • 米Freedom Houseは1972年から毎年、各国の自由度を3つの区分(①Free(自由)、②Partly Free(一部自由)、③Not Free(自由ではない))に分類・評価している。今般、2022年版(調査年2021年)が公表された。2021年版と比してFree国は1か国増加、Partly Free国は3か国減少、Not Free国は2か国の増加となり、Not Free国が徐々に増加する傾向が継続している。
  • 自由度3区分にGDPを掛け合わせてみると、Not Free国の世界のGDPに占める割合は26.4%(2021年)と影響力を増大させてきている。他方でFree国のGDPの割合は減少しているとはいえ63.6%と過半を大幅に上回り、引き続き大きな影響力を有していると言えよう。今般のウクライナ情勢を受けてロシアは強力な経済制裁を課されており、中ロ関係が強化されてきているとはいえ、民主主義陣営優位の経済力のパワーバランスを見る限りはロシア経済の今後の趨勢は厳しいものになると想像される。
  • 本レポートでは新たに自由度3区分に人口を掛け合わせてその推移を概観した。Not Free国は安定的に30%台後半で推移しており、恒常的に地球上の4割近い人たちが自由を手に入れられていない現状が浮かび上がる。
  • ウクライナ情勢を受け、日本はリアリズムとして国防の在り方を含めた国家安全保障戦略を現状に即したものにアップデートしていく必要がある。同時に、平和を希求する日本の立場を明確にし、自由・民主主義・法に基づく支配といった普遍的価値観を共有する同志国との連携を進めつつ、様々な属性の国家が含まれる国連やG20などの枠組みにおける協調促進に引き続き積極的に関与していくべきである。法の支配が崩れ、核兵器や軍事力で国家間紛争が決する国際秩序は何としても避けねばならない。
目次

1.Freedom in the World 2022年版

Freedom Houseは、1941年に米国で設立された無党派・独立組織で、政府が国民に対して説明責任を果たしている民主主義国家でこそ自由は繁栄するとの信念の下、民主主義を守るために活動するとしている(同HPより一部抜粋・和訳)。Freedom Houseは1972年から毎年、各国の自由度を3つの区分(①Free(自由)、②Partly Free(一部自由)、③Not Free(自由ではない))に分類・評価している(注1)。

今般、2022年版(調査年2021年)としてアップデートがなされた。2021年版と比してFree国は1か国増加(エクアドル・ペルーが加わり、チュニジアが転落)、Not Free国は2か国の増加(ギニア・ハイチ)、これらの結果としてPartly Free国は3か国減少、となった。Not Free国が徐々に増加する傾向が継続している。(資料1、国別スコア一覧は「https://freedomhouse.org/countries/freedom-world/scores」を参照)。

資料 1 自由度別国数推移
資料 1 自由度別国数推移

2.経済力はNot Free国の台頭が継続も、引き続きFree国が優勢

拙稿「世界自由度ランキングが語る民主主義の凋落と権威主義の台頭」(2021年8月、「https://www.dlri.co.jp/report/ld/159299.html」では自由度3区分にGDPを掛け合わせてその推移を概観した。

今般のアップデートを反映させたものが資料2である。趨勢に大きな変化はなく、2021年時点でNot Free国が世界のGDPに占める割合は26.4%と、1990年(ソ連崩壊前)の6.2%から経済的な影響力を増大させている。他方で、Free国の同割合は減少が続いているとはいえ2021年時点で63.6%と過半を大幅に上回り、引き続き経済的には大きな影響力を有していると言えよう。今般のウクライナ情勢を受けてロシアは強力な経済制裁を課されている。中国の台頭とともに中ロ関係が強化されてきているとはいえ、民主主義陣営優位の経済力のパワーバランスを見る限りはロシア経済の今後の趨勢は厳しいものになると想像される。

資料 2 世界 GDP の自由度別構成比の推移(名目・US$)
資料 2 世界 GDP の自由度別構成比の推移(名目・US$)

3.“Freedom in the World”に人口を掛け合わせると

本レポートでは新たに自由度3区分に人口を掛け合わせてその推移を概観した(資料3)。Free国の人口の割合は2021年でわずか20.2%である。但し、1990年以降の推移を見ると、Free国の人口が2割程度の時点と4割程度の時点が混在している。これは、人口自体は大きなブレはなく予見可能性も高い指標と言えるものの、人口大国インドがFreeとPartly Freeの境界線上に位置していることが影響している(注2)。インドが各時点においてどちらに分類されるかに依るものであり、世界の趨勢が大きく変化しているわけではない。つまり、ここ数十年、自由度の人口比に大きな変化はないということである。Not Free国も安定的に30%台後半で推移しており、恒常的に地球上の4割近い人たちが自由を手に入れられていない現状が浮かび上がる。

資料 3 世界人口の自由度別構成比の推移
資料 3 世界人口の自由度別構成比の推移

4.ウクライナ情勢で揺らぐ国際秩序~今こそ普遍的価値観が求められる

2022年2月24日に始まったウクライナ侵略は、国連の常任理事国で拒否権を持つロシアが主権国家ウクライナの領土を蹂躙し無辜の市民を殺戮するという、これまでの国際秩序の在り方を揺るがす事態となっている。これらの蛮行に対してNATO(北大西洋条約機構)はこれまでにない結束を見せ、西側民主主義陣営と権威主義国家ロシアとの間の代理戦争の様相を見せている。なお、ウクライナは民主主義国家であるものの汚職など解決すべき課題もあり、自由度スコアは61、Partly Freeとなっている(ロシアは19、Not Free)。

今般の事態を受けて、日本はリアリズムとして国防の在り方を含めた国家安全保障戦略を現状に即したものにアップデートしていく必要がある。同時に、平和を希求する日本の立場を明確にし、OECD(経済協力開発機構)やG7など自由・民主主義・法に基づく支配といった普遍的価値観を共有する同志国との連携を進めつつ、様々な属性の国家が含まれる国連やG20などのマルチ(多国間)の枠組みにおける協調促進に引き続き積極的に関与していくべきである。日本の第二次世界大戦での敗戦から現在に至るまでの経験や歴史は、こうした普遍的価値観が欧米の専有物ではないことの証左であり、その不可欠性を説く役回りとして日本ほど相応しい国はない。法の支配が崩れ、核兵器や軍事力で国家間の紛争が決する国際秩序は何としても避けねばならない。

以 上

【注釈】

1)"Freedom in the World 2022"(調査対象:2021年)補足

  • マトリクス

マトリクス
マトリクス

  • 計算方法 128名のアナリストと50名近いアドバイザー等によりPolitical Rights score(政治的権利)については10指標、Civil Liberties score(自由権)については15指標、それぞれ4点満点で評価。

  • 日本のスコア(96点) Political Rights scoreは10指標すべて満点の40点、Civil Liberties scoreも15指標60点満点中56点と高得点。

2)同様の事象はGDPの場合には顕在化していない。これは、インドの人口が世界に占める割合と比して、インドのGDPの同割合が小さいことによる。

【参考文献】

  • Freedom House(2022) “Freedom in the World 2022”
  • IMF(2021) “World Economic Outlook”
  • United Nations(2019) “World Population Prospects”
  • 北岡伸一・細谷雄一(2020)「新しい地政学」
  • A.アインシュタイン・S.フロイト、浅見昇吾訳(2016)「人はなぜ戦争をするのか」

石附 賢実

石附 賢実

いしづき ますみ

総合調査部 マクロ環境調査G グループ長
専⾨分野: 経済外交

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