1分でわかるトレンド解説 1分でわかるトレンド解説

世界軍事費ランキング2022、ウクライナ情勢と日韓逆転

~経済成長なくして防衛できず、SIPRI軍事費データベース2023年版公表~

石附 賢実

2024年5月公表の最新レポート「2023年軍事費ランキング、脅威への備えが顕著に」はこちらからご覧下さい。

要旨
  • 2023年4月24日、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は軍事費データベースの2023年版を公表した。ウクライナ情勢の影響を受けた2022年のデータが初めて含まれたこととなる。
  • 2022年の世界の軍事費は過去最高の2兆2398億ドル、実質US$ベース(2021年基準、以下同じ)で3.7%増加した。米国は8769億ドルで世界シェア39.2%と引き続き圧倒的な世界1位となった。
  • ロシアの軍事費は2021年の5位から2022年は3位の863億ドルとなった。ウクライナは米国等からの支援が含まれない数字にも関わらず、実質US$ベースで640.1%増、36位から11位にジャンプアップした。GDP比は実に33.6%である。
  • 日本は安全保障環境の悪化、防衛費増の流れのなかで、2022年は実質US$ベースで5.9%増となったものの、円安の影響を受け名目$ベースでは大幅減少、日韓が逆転し、韓国が9位、日本が10位となった。
  • 日本の防衛費はGDP比1%程度で安定的に推移しているものの、1990年の6位から2022年はついに10位にまで後退した。これは分母のGDP、すなわち経済力が相対的に劣後し続けていることによる。GDP比2%水準への引上げ方針が示されているが、例えGDP比率を引き上げたとしても、その後の経済成長が伴わなければ、成長を続ける他国と比べて防衛力はさらに劣後していくことになる。
  • ウクライナ情勢を受け、安全保障及びその裏付けとなる軍事力は市井の人々の生死に関わるSocialマター(社会的に重要な課題)であることが特に欧州で認識された。Socialマターとして必要な投資と認識されれば、乗数効果を通じた国内経済への寄与の視点を持つことにも違和感がなくなるであろう。
  • 防衛力の源泉は経済力であり、また逆方向のベクトルとして防衛産業への投資が乗数効果を通じて経済に寄与する可能性がある。もちろん、防衛費を考える上では防衛や抑止力の在り方そのものが議論の中心となるが、経済との関係について理解を深めることも重要であろう。
目次

1.世界の軍事費ランキング2022-米国不動の1位、ウクライナ640%増で11位に

2023年4月24日、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は軍事費データベースの2023年版を公表した。ウクライナ情勢の影響を受けた2022年のデータが初めて含まれたこととなる。

2022年の世界の軍事費は過去最高の2兆2398億ドル、実質US$ベース(2021年基準、以下同じ)で3.7%増加した。増加は8年連続である。なお、実質ベースということはインフレ調整がなされており、SIPRIによれば、もしインフレ調整がなければ6.5%増とかなり大きな伸びとなっていた。上位15か国を合計すると世界の82%を占める。米国は8769億ドルで世界シェア39.2%と引き続き圧倒的な世界1位となり、これにはウクライナ向け支援の199億ドルが含まれる。2022年の上位15か国の軍事費については資料1を、世界合計を含む過去からの推移、シェア、GDP比、2021-2022年順位変動・増加率は資料2を参照されたい。

資料 1 軍事費ランキング上位 15 か国(2022 年)
資料 1 軍事費ランキング上位 15 か国(2022 年)

資料 2 軍事費推移(2022 年上位 15 か国)
資料 2 軍事費推移(2022 年上位 15 か国)

上位15か国の順位にはいくつかの目立った変化が認められる。まずウクライナ情勢当事者のロシアは9.2%増の836億ドル、2021年の5位から2022年は3位となった。なお、SIPRIではロシアの数値をhighly uncertain、「非常に不確か」としている。ウクライナは米国等からの支援が含まれない数字にも関わらず、実質US$ベースで640.1%増、36位から11位にジャンプアップした。GDP比は実に33.6%とダントツの1位である。なお、推定で少なくとも300億ドルとされる軍事援助を加えると、総額は6位に該当する。このほかに特に目立ったのはサウジアラビアで、8位からトップ5入りを果たした。イエメン内戦への軍事介入などが影響しているとされ、GDP比はウクライナに次ぐ世界2位で7.4%にも及ぶ。5大軍事大国は米国、中国、ロシア、インド、サウジアラビアという顔ぶれになった。

2.日韓逆転- 経済成長なくして防衛できず

日本は安全保障環境の悪化、防衛費増の流れのなかで、2022年は実質US$ベースで5.9%増となったものの、円安の影響を受け名目$ベースでは大幅減少、日韓が逆転し、韓国が9位、日本が10位となった。

日本の防衛費はGDP比1%以内で長らく推移し、直近も1%をわずかに超える程度と安定的に推移しているものの、1990年の6位から2022年はついに10位にまで後退した。これはGDP比の分母であるGDP、すなわち経済力が相対的に劣後し続けていることによる。2022年は特に円安、すなわち米国をはじめとした他の先進国との金融政策の違いが大きく影響しているが、長期的にみれば経済力が防衛費を支える源泉であることに疑いの余地はない。公表値の正確性に疑義があるとはいえ(注1)、中国が一定水準のGDP比の下で世界第2位の軍事大国に躍り出たことからも明らかである。日本では、NATO加盟国の目標水準であるGDP比2%への引上げを念頭に、2023年度からの5年間で防衛費を43兆円程度とする方針が閣議決定されている。しかし、例えGDP比率を引き上げたとしても、その後の経済成長が伴わなければ、成長を続ける他国と比べて防衛力はさらに劣後していくことになる(注2)。

3.防衛費の議論は防衛や抑止力の在り方が中心- 一方で経済の視点を忘れずに

ウクライナ情勢を受け、安全保障及びその裏付けとなる軍事力は市井の人々の生死に関わるSocialマター(社会的に重要な課題)であることが特に欧州で認識された(注3)。防衛費がSocialマターとして必要な投資と認識されれば、乗数効果を通じた国内経済への寄与の視点を持つことにも違和感がなくなるだろう。2023年4月19日の国会答弁で、浜田防衛相は今後5年間の防衛費の「8割程度が国内向け」と説明した。一般的な公共投資は投資そのものの必要性とともに乗数効果も期待して実施される。つまり、公共投資そのものの投資金額に加えて、雇用などを通じて個人消費にも波及し、投資金額以上にGDPを増加させる。防衛産業に当てはめた場合、地政学的リスクの喫緊性に鑑みて急ぎ必要な武器は海外から輸入せざるを得ないものの、適切な利益水準に基づく国内の防衛産業の発展やすそ野の広がり、雇用の増加、友好国への輸出、武器の国際競争力などが将来的に見通せれば、国富を流出させずに循環させることで、より効果的に国内経済に寄与できる可能性がある。近年は防衛関連事業からの撤退も多く、収益性を確保することは容易いことではない。適切な利益水準をどう確保するのか、あるいは防衛装備移転三原則等の規制見直し含めて官民一体で取り組んでいく必要がある(注4)。

先ほどみてきた通り、防衛力の源泉は経済力であり、また逆方向のベクトルとして防衛産業への投資が乗数効果を通じて経済に寄与する可能性がある。もちろん、防衛費を考える上では防衛や抑止力の在り方そのものが議論の中心となるが、経済との関係について理解を深めることも重要であろう。

以 上

【注釈】

  1. 米国防省“Military and Security Developments involving the people’s republic of China 2021”(Nov 2021)(P142)によれば、中国の実際の防衛支出は公表値ベースの1.1-2倍とされる。
    (https://media.defense.gov/2021/Nov/03/2002885874/-1/-1/0/2021-CMPR-FINAL.PDF)
  2. 詳細は石附賢実(2022)「なぜ「防衛費・GDP比2%」が争点となるのか~経済成長なくして防衛できず、安全保障・経済の視点で分かりやすく~」参照
  3. 詳細は石附賢実(2023)「安全保障とESG~安全保障はSocialマターなのか~」参照
  4. 例えば経団連は2022年4月12日の「防衛計画の大綱に向けた提言」のなかで、防衛産業政策の具体的施策として、適正な利益水準の確保や防衛装備・技術の海外移転の推進を重要視している。
    https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/035_honbun.html

【参考文献】

  • SIPRI(2023)“Military Expenditure Database 2023”
  • SIPRI(2023) “Trends in World Military Expenditure, 2022”

石附 賢実


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。