ユニバーサル社会への扉(13):知られざる「デフリンピック」の世界

~聞こえない人のオリンピック まもなくブラジルで開催~

水野 映子

目次

1. デフリンピックとは?

「デフリンピック」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

「デフリンピック(Deaflympics)」とは、英語で「耳が聞こえない」という意味の「デフ(deaf)」と、「オリンピック(Olympics)」を合わせた言葉である。すなわち、聞こえない人(ろう者)のためのオリンピックという意味を持つ、国際的なスポーツ大会である(注1)。聞こえない人はパラリンピックに参加していると一般には思われがちだが、実際には参加しておらず、デフリンピックに参加する(注2)。

デフリンピックのルールはオリンピックとほぼ同じだが、スタートの合図を音の代わりにフラッシュランプの光で知らせるなど、目で見てわかる工夫がされている。また、コミュニケーションは国際手話で行われる。

パラリンピックやスペシャルオリンピックス(知的障害のある人のためのスポーツ大会)と同様、デフリンピックも国際オリンピック委員会(IOC)から「オリンピック」の名称の使用を許可されており、夏季・冬季大会がそれぞれ4年ごとに開かれている。デフリンピックの歴史は、第二次世界大戦後に始まったパラリンピックより古く、1924年にフランス・パリで行われた夏季大会を起源としている。

第24回夏季デフリンピックは、ブラジルのカシアス・ド・スルという都市で2021年12月に開催される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2022年5月に延期された。この大会に日本からは、100名近くの選手が参加することになっている。

2. パラリンピックに比べて低い認知度

では、一世紀ほどの歴史を持つこのデフリンピックは、パラリンピックなどに比べて一般の人々にどの程度知られているのだろうか。

図表1には、パラリンピック、スペシャルオリンピックス、デフリンピックそれぞれの日本での認知度の推移を示す。これをみると、2021年におけるデフリンピックの認知度は16.3%であり、前回(2017年)の10.1%よりは増えた。だが、100%近いパラリンピックの認知度とは大きな隔たりがあり、スペシャルオリンピックスの認知度(18.6%)にもまだ及ばない。

また、2021年に調査を実施した7か国の中でも、日本におけるデフリンピックの認知度は最も低い(図表2)。逆に、認知度が最も高いのはアメリカ(39.8%)であり、夏季デフリンピック開催を間近に控えたブラジル(38.0%)が僅差で続いている。ブラジルにおける前回(2017年)の認知度は29.0%(図表省略)であったことから、この4年余りで大幅に増えたことがわかる。

図表1
図表1

図表2
図表2

日本ではこれまで、パラリンピックが夏季に東京で2回、冬季に長野で1回行われたが、デフリンピックは行われたことがない。パラリンピックやデフリンピックの認知度は、それらが自国で最近開催された経験(注3)や今後開催される予定があるか、マスコミや教育の場などでどの程度扱われているか、などにも関係しているのだろう。

パラリンピックは日本で開催されたり、さまざまな場で取り上げられたりしたことにより、パラリンピックそのものやパラスポーツの認知だけでなく、パラリンピックの選手と同じ障害がある人への関心や理解も高める効果をもたらした。デフリンピックも日本でもっと知られるようになれば、それを通じて聴覚に障害のある人々への関心や理解を高め、ひいてはそれらの人々が暮らしやすい社会づくりを促せる可能性がある。

日本では、2025年のデフリンピックを招致する動きもある。まもなく始まる夏季デフリンピックでの選手の活躍を含め、デフリンピックをめぐる今後の動きに注目したい。


【注釈】

  1. 本稿におけるデフリンピックについての記述は、以下のウェブページを参照した。
  1. パラリンピックを知っている人のうち、パラリンピックに聴覚障害のある人が参加すると思っている人は、2021年の日本の調査では64.6%に及ぶ(出典は図表1の資料と同じ)。だが、実際に現在のパラリンピックに参加しているのは、肢体不自由(手足・体幹などの障害)、視覚障害、知的障害のある人である。なお、聴覚障害のある人の一部には、オリンピックに参加した選手もいる。

  2. 調査が行われた国のうち、アメリカ、イギリス、ドイツ(旧西ドイツ)、フランスでは1980年代以前にデフリンピックが開催されたことがあるが、1990年代以降に開催されたのはアメリカ(2007年)のみである(出典は注1)。

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水野 映子


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