ユニバーサル社会への扉(9):「15%の障害者」を取り残さない

~東京2020パラリンピックの遺産とすべきものは?~

水野 映子

目次

1.「WeThe15」キャンペーンの幕開け

去る9月5日、東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020パラリンピック)が閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大下での開催には多くの議論があったが、障害のある選手の活躍には目を見張った人も少なくないだろう。

ところで、この大会が始まる少し前の8月19日、国際パラリンピック委員会(IPC)などが、障害者に対する差別をなくすことなどを目的に、「WeThe15」というキャンペーンを今後10年にわたって行うと発表した(注1)。それにともない、東京2020パラリンピックの開会式や閉会式では、さまざまな障害のある人が登場するキャンペーン映像も流された。

映像の中で表示される「We are 15% of the world's population (私たちは世界の人口の15%である)」というフレーズの通り、「WeThe15」キャンペーンは、人口の約15%を障害者が占めているという前提にもとづいている。この15%というデータは、以前から国連の世界保健機関(WHO)によって示されていた。同機関の昨年末の報告においては、人口の約15%、10億人超が障害者であることに加えて、障害者数が劇的に増えていることなども記されている(注2)。

2.「特別」な存在でない障害者に目を向けるきっかけに

人口の15%、すなわち7人に1人以上が障害者という数字を見て、自分の周りにはそんなに多くの障害者はいないと感じる人もいるかもしれない。だが、障害のある人の中には、社会に出ることが難しい人もいるし、差別などを恐れて障害を隠している人もいる。障害のある人の数が実際より少なく見えるのだとすれば、そのこと自体が障害のある人の生きにくさを表しているともいえる。

また、たとえ今は身近に障害のある人がいなくても、自分の家族や友人・知人など、あるいは自分自身が将来、病気・事故や加齢などによって障害を持つ可能性もある。前述の世界保健機関の報告においても、「ほとんどの人が人生のいずれかの時点で、一時的または永続的に何らかの障害を経験し得る」との記述がある。つまり、障害のある人は実は身近にいたり、身近な存在になったりするかもしれないのである。

東京2020パラリンピックでは、障害のある選手の超人的なプレイに、しばしば注目が集まった。そのこと自体はもちろん否定しない。だが言うまでもなく、パラリンピック選手は、障害のある人々の中の一部の存在である。前述のWeThe15のキャンペーン映像の中で、障害のある人自らが語っているように、障害のある人は「スーパーヒーロー」でもなければ「特別」な存在でもない。東京2020パラリンピックを通じて障害のある選手に目を向けた人は、それをきっかけに、自分の身近にいる「特別」ではない障害者に対してもこれまで以上に目を向け、「他人事」ではなく「自分事」として彼らを取り巻くさまざまな問題について考えてほしい。

SDGs(持続可能な開発目標)では、地球上の「誰一人取り残さない」ことを理念としている。「15%の障害者」も取り残さないという視点を持つ人が今後増えれば、東京2020パラリンピックの良い意味での遺産(レガシー)が残ったといえるだろう。

【注釈】
1)「WeThe15」のウェブページ https://www.wethe15.org/

2)世界保健機関(WHO)「Disability and health」のウェブページ(2020年12月1日)
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/disability-and-health

水野 映子

水野 映子

みずの えいこ

ライフデザイン研究部 上席主任研究員
専⾨分野: ユニバーサルデザイン

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