日本の治安は本当に良いのか?

~非リアル空間での犯罪への不安~

水野 映子

目次

1. 日本は治安が良い国だと思う人は85%

筆者がかつて2年間の海外生活を終えて帰国した直後、日本にいると実感したことのひとつは、夜道でも一人で安心して歩けることだった。筆者が住んでいたウルグアイは、南米の中では治安が比較的良いとされていたものの、深夜に一人で出歩くことはほとんどなかったし、昼間でも人けのない通りでは特に周囲に注意を払いながら歩いていた。筆者ならずとも、外国から日本に帰った際に同じように感じた経験がある人は少なくないだろう。

内閣府が昨年の終わりから今年の初めにかけて実施した調査においても、「現在の日本が治安がよく、安全で安心して暮らせる国」だと思う(「そう思う」「どちらかといえばそう思う」の合計)と答えた人は85.1%にのぼった(図表1)。夜道を安心して歩けることに象徴されるように、大半の人は日本が治安の良い国だと思っていることがわかる。

2. サイバー犯罪・特殊詐欺などへの不安は大

では、日本人は治安の面での不安を感じていないのだろうか。

前述の調査では、自分や身近な人が犯罪に遭うかもしれないと不安になる場所はどこかを尋ねた質問もある。その結果をみると、「インターネット空間」(53.9%)の割合が最も高く、「道路上」(50.7%)、「繁華街」(47.9%)などをやや上回っている(図表2)。年代別にみると、「インターネット空間」と答えた割合は、40・50代で特に高い。

また、自分や身近な人が被害に遭うかもしれないと不安になる犯罪などを質問した結果では、「特殊詐欺や悪質商法などの犯罪」(52.6%)、「不正アクセスやフィッシング詐欺などのサイバー犯罪」(52.3%)が1・2位にあがった(図表3)。いずれも電話やインターネットを用い、いわば非リアルな空間を中心としておこなわれる犯罪である。日本人の不安は今や、リアルな空間以上に非リアル空間の犯罪にあるといえる。

  警察庁の統計で実際の犯罪の状況をみると、特殊詐欺の認知件数は近年やや減る傾向にあったが、2021年は再び増加に転じ、10年前の1.7倍に近い14,461件となった(図表4①)。これらの犯行で被害者をあざむくために最初に用いられたツールは、電話(88.9%)が大半を占め、電子メール(7.0%)が続いている(図表省略)。

また、サイバー犯罪の検挙件数もこの5年で増え続けている。キャッシュレス決済の普及などを背景に、2021年には過去最高の12,275件を記録した(図表4②)。これらの比較的新しくて目に見えにくい犯罪が、人々の不安感に影響を与えていると思われる。

3. 今後の懸念 ~成人年齢引き下げ、海外からの脅威など~

前述のように、多くの人は日本の治安が良いと思っている。だが、インターネットなどの目に見えないツールや空間でおこなわれる犯罪には、自分や身近な人が被害に遭う不安を少なからず感じている。

特に今年4月からは、成人(成年)年齢が引き下げられて、18歳から親の同意なしで契約を結べるようになったことにより、若者が今まで以上にサイバー犯罪や消費者トラブルに巻き込まれることが懸念されている。サイバー空間での犯罪への不安が40・50代の人で高いのは、自分だけでなく自分の子どもが被害に遭う心配があるからだとも考えられる。また、サイバー空間に関しては、「海外からのサイバー攻撃等に係る脅威が引き続き高まっている」(出典は図表4の資料②と同じ)との指摘にもあるように、国境を越えて影響を受ける不安もある。

生活者が安心・安全に暮らすためには、日本という国の“目に見える空間”の治安だけでなく、インターネットなどの“目に見えない空間”にある新しいかたちの脅威にもより注意を向けて情報を収集し、備える意識を高めることが今後ますます重要になるだろう。

水野 映子


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