休眠預金活用の現状と海外事例

~休眠預金等活用法施行から3年、振り返りと課題点~

髙宮 咲妃

要旨
  • 休眠預金は2012年に東日本大震災の復興財源として活用できないか検討を始められ、2018年1月に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(休眠預金等活用法)」が施行された。
  • 休眠預金等活用法をもって、10年間取引のなかった預金は一律、預金保険機構に管理が引き継がれる仕組みとなった。内閣総理大臣に指定された指定管理団体(一般財団法人日本民間公益活動連携機構 JANPIA)は、事業計画を策定し、預金保険機構から交付を受けた休眠預金等交付金をもとに、資産分配団体を選定・助成、資産分配団体より助成を受けた実行団体は「国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動」を行っている。
  • 初年度である 2019 年度、2年目の2020年度においては、指定活用団体において運用の基礎的な仕組みをしっかり構築することが重要であるとして助成総額はそれぞれ40億円を目安(2020年度は追加でコロナ枠50億円)に留められており、現段階ではまだ総額100億円程度しか活用されていないが、制度設計としては将来的に毎年数百億円規模の資金分配を行う予定となっている。
  • 日本以外にも休眠預金を活用している国は多い。休眠預金の管理方法は、アメリカ、フランス、オーストラリア等のように州政府や国家予算に合算する方法と、日本、アイルランド、イギリス、韓国等のように別途資金の管理機関を置き、福祉分野など社会的な事業に重点的に活用する方法の大きく2つある。
  • イギリスと韓国では、預金者が休眠口座を検索できるシステムを休眠預金活用の法律が施行される前に稼働させていたが、日本は後発であり、施行から3年経とうとしている今もそういった仕組みがなく、議論もされていない。民間公益活動をさらに拡大していくとともに、休眠預金の預金者への返還努力についても、さらなる策を講じていくべきではないだろうか。
目次

1. 休眠預金とは

2018年1月1日に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律(休眠預金等活用法)」が施行され、この12月で丸3年が経つ。

「休眠預金」とは、金融機関に預けられたまま長期間取引のない預金を指す。日本では、2020年4月の民法改正まで銀行預金は商法上5年間(注1)、信用金庫や信用組合等の預金は民法上10年間(注2)、権利行使がなければ財産権は時効消滅すると定められていた。金融機関は、全国銀行協会通達「睡眠預金に係る預金者に対する通知および利益金処理等の取扱い」に倣い、こうした預金を休眠預金(睡眠預金)として利益金に計上してきた。ただし、この処理はあくまでも会計上・税務上の要請にもとづく決算処理のためであり、預金者や遺族の要請があれば、消滅時効が完成していても時効を援用せず、預貯金の払い戻しに応じていた(注3)。しかしながら、この払い戻しを差し引いても、休眠預金は、2016年度時点で年間700億円程度も銀行等の利益金として計上されている状況にあった。

2012年に政府は、休眠預金を東日本大震災の復興財源として活用できないか検討を始め、年間700億円程度の休眠預金が発生している前述のような現状を踏まえ、2018年に休眠預金等活用法が施行され、2019年度より民間公益活動の促進に活用されている。この法律の施行前は、金融機関によって休眠預金扱いになるまでの年数が5年、10年など異なっていたが、この法律をもって「10年」に統一され(休眠預金等活用法 第2条6項)、休眠預金となった資金は金融機関ごとの内部規定等に関わらず、一律に預金保険機構に管理が引き継がれる仕組みとなった。この移管により、預金等の金銭債権が消滅することはなく、所定の手続きを踏むことにより、原則無期限で払い戻される。休眠預金等活用法に定められた休眠預金の定義・概要については図表2にて示す。

2.休眠預金はどう活用されているのか

預金保険機構に移管された後、休眠預金はどう活用されるのだろうか。資金の活用の基本理念については、「人口の減少、高齢化の進展等の経済社会情勢の急速な変化が見込まれる中で国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ることを目的として民間の団体が行う公益に資する活動であって、これが成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することとなるものに活用されるもの(休眠預金等活用法 第16条)」としている。休眠預金となった資金は、内閣総理大臣が指定する指定活用団体(一般財団法人日本民間公益活動連携機構 JANPIA)に渡り、基本理念に基づき事業計画を策定し、預金保険機構から交付を受けた休眠預金等交付金をもって、公募によって選定した資金分配団体に助成を行う。資金分配団体は、民間公益活動を行う実行団体を公募により選定、助成等を行い、助成団体は、「公益に資する活動」をもって国民に還元している。指定活用団体は、これらの事業の結果を内閣府に報告し、監督を受けている(図表3)。

また、「公益に資する活動」としては、以下の4つが挙げられている(休眠預金等活用法 第17条1項)。

① 子ども及び若者の支援に係る活動

② 日常生活または社会生活を営む上での困難を有する者の支援に係る活動

③ 地域社会における活力の低下その他の社会的に困難な状況に直面している地域の支援に係る活動等

④ ①から③までに準ずるものとして内閣府令で定める活動

初年度である2019年度は29.8億円投入し、24事業、142もの実行団体が選定され、現在も事業展開している(図表4)。2020年度は通常枠から20事業、95の実行団体を選定し28億円を助成したことに加え、コロナ枠として「新型コロナウイルス対応緊急支援助成事業」を開始しており、36.6億円を助成している。そこでは失職者のための就労支援等、全国で300を超える活動が進められた。2021年度も通常枠の約30億円に加え、40億円を「コロナ枠」として別枠で予算を設けている。

初年度である 2019 年度、2年目の2020年度においては、指定活用団体において運用の基礎的な仕組みをしっかり構築することが重要であるとして助成総額はそれぞれ40億円を目安(2020年度は追加でコロナ枠50億円)に留めていた。これは「休眠預金等交付金に係る資金の活用に関する基本方針」において「指定活用団体や資金分配団体自身も試行錯誤しながら本制度を開始せざるを得ないことを踏まえれば、制度開始時においては、社会の諸課題の解決に結びつく具体的事例の創出を優先させ、民間公益活動の進捗状況に応じて、段階的に規模を拡大させることが適当である」としていることに沿ったものである。こうした方針もあり現段階ではまだ総額100億円程度しか活用されていないが、制度設計としては将来的に毎年数百億円規模の資金分配を行う予定となっている。

3. 諸外国の休眠預金活用

休眠預金の管理方法については、アメリカ、フランス、オーストラリア等のように州政府や国家予算に合算する方法と、アイルランド、イギリス、韓国等のように別途資金の管理機関を置き、福祉分野などの社会的な事業に重点的に活用する方法がある。日本は後者を選択し、国家予算に合算せず、預金保険機構を管理機関とし、民間公益活動の実行団体への助成を行っている。日本と同様の休眠預金活用を行っている3か国についてみていく。

アイルランドでは各国に先立ち、2001年に「休眠預金法」が制定された。15年以上預金者による出し入れが行われなかった預金は、休眠預金として同法に基づき、2003年に設置された休眠預金基金(Dormant Account fund)に移管され、国立財務管理庁(National Treasury Management Agency 以下「NTMA」)が管理することとなった。NTMAでは、休眠預金基金に移管された資金を、福祉分野等の社会的な事業に利用してきた。2005年には、休眠預金法の改正が行われ、地域問題を担当する大臣が休眠預金基金の支出権限を全面的に担うこととされた。現在は、休眠預金委員会、関連省庁による支出計画立案、Pobal(NPO法人)による事業者の公募・選出を通して「社会・経済」「教育」「障がい者支援」の3分野に活用されている。

イギリスは、2008年に休眠預金に関する法律「Dormant Bank and Building Society Account Act 2008」が制定された。15年以上取引がない預金は休眠預金となり、休眠預金を管理する公的基金であるReclaim Fund Ltd.により、一元管理される。Reclaim Fund Ltd.は移管された資金を運用し、その資金をBig Lottery Fund(以下BIG)(注4)とBig Society Capital(以下BSC)に提供する。BIGは地域コミュニティの再生に取り組む団体等へ助成しているのに対し、BSCは投資銀行として、チャリティ団体や社会的企業等に投融資を行う中間事業者(Social Investment Finance Intermediaries)に対して投資の形式で資金調達支援を行っている。また、預金者は口座検索システム「mylostaccount.org」によって、休眠口座の情報をウェブから検索することができ、所定のオンラインフォームに氏名、住所等を入力することで3か月以内に口座の照合が行われる。このシステムは英国銀行協会(BBA)、英国住宅貯蓄貸付協会(BSA)、国民貯蓄投資機構(NS&I)によって費用が負担され、その後の運用も担われている。自己名義の預金だけでなく、親族から遺された預金が存在するかどうかが全く不明な場合でも、このサービスを利用することで自分が権利を持つ預金の存在を確認できる(図表5)。

韓国では、2007年に「休眠預金管理財団設立などに関する法律」が制定され、2008年には休眠預金管理財団(微笑金融中央財団)が設立された。金融機関は、休眠預金(銀行の場合は5年取引のない預金)を同財団に寄付することができ、寄付するかどうかは金融機関側の判断に委ねられている。休眠預金管理財団は金融監督院・財政経済省による監督のもと、福祉事業者等に対する支援を行っている。韓国もイギリスと同様に、預金者が休眠預金を検索することができるシステムを導入しており、住民登録番号と姓名の情報だけで、微笑金融中央財団に寄付される予定の休眠預金の有無を確認できる。(図表6)。

図表6 韓国の休眠預金活用の流れ
図表6 韓国の休眠預金活用の流れ

4. おわりに

これまで、休眠預金の現状や海外事例についてみてきた。アイルランドに倣うかたちで休眠預金活用法を導入したイギリスと韓国では、預金者が休眠口座を検索できるシステムを休眠預金活用の法律が施行される前に稼働させていたが、日本は後発であり、施行から3年経とうとしている今もそういった仕組みがなく、議論もされていない(図表7)。

現時点では、個別の休眠預金等の有無に関して取引のあった金融機関に直接問い合わせる必要があり、手間がかかる。また、特に日本は口座数が諸外国と比較してかなり多く全体で12億口座(1人あたり約10口座)もあることから、休眠預金の預金者にはその存在を完全に失念しているケース(預金の存在を遺族に伝えることなく預金者が亡くなった場合も含む)も少なくない。各金融機関は、休眠預金になって移管される際、1万円以上の預金者には郵送や電子メールで通知をしたり、電子公告を行っているものの、効果は限定的と考えられる。なお、イギリスの口座検索システム「mylostaccount.org」には、2008年1月の稼働以降、2015年までに200万人以上がアクセスし、その結果31万5000人、計6億4500万ポンド(約1161億円)の休眠預金が所有者に戻っているという実績がある。

休眠預金等活用法は施行後5年を目途として検討が加えられ、必要な措置が講ぜられるとしている。民間公益活動をさらに拡大していくとともに、休眠預金の預金者への返還努力についても、さらなる策を講じていくべきではないだろうか。


【注釈】

1)預金の受け入れ行為は銀行(債務者)にとって商行為となり、銀行に対する預金債権の時効期間については、預金債権が旧商法522条の「商行為によって生じた債権」に該当するので、5年であるとされていた。現在は、民法166条1項が適用され、①権利者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しない場合、又は②権利を行使することができる時から10年間行使しない場合に時効で消滅する。

2)信用金庫や信用組合などの預金は、営利を目的とするものではないため、預金債権には旧商法522条は適用されず、旧民法167条によって消滅時効期間は10年とされていた。現在は民法166条1項が適用となる。

3)2007年(平成19)9月末以前に預けられた郵便貯金に関しては、預け入れ後20年2か月が経過した場合、財産権が時効消滅し、国庫に納めると規定されている(旧郵便貯金法第29条)。

4)もともとはNational Lottery(イギリスの宝くじ)の資金を原資に設立されたファンドで、休眠預金の活用を目的に新たに設立されたものではない。法的な正式名称はBig Lottery Fundだが、現在の通称はNational Lottery Community Fundである。

【参考文献】

・平成20年度金融法務研究会 報告書預金債権の消滅等に係る問題「第1章預金債権の消滅時効について」(2012)

https://www.zenginkyo.or.jp/abstract/affiliate/kinpo/2008/

・預金保険機構 預金保険研究 第七号「諸外国における休眠預金の一元的管理について」(2006)

https://www.dic.go.jp/katsudo/page_001652.html

・衆議院 第180回国会 「休眠口座」に関する質問主意書(2012)

・第29回休眠預金等活用審議会議事録(2021)

・一般財団法人日本民間公益活動連携機構「これまでの休眠預金等活用事業の取組状況について」(2021)

・内閣府 休眠預金等活用審議会資料「英国における休眠口座資金活用スキームについて」(2018)

・内閣府 休眠預金等活用審議会資料「休眠資産のスキームに係る国際比較」(2018)

・休眠口座国民会議「休眠口座白書」(2012)

髙宮 咲妃

髙宮 咲妃

たかみや さき

総合調査部 マクロ環境調査G 研究員
専⾨分野: QOL・ハピネス戦略

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