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アバターフェイスの衝撃

~オンライン会議で使える分身の術~

柏村 祐

目次

1.進化するディープフェイク

筆者は、以前のレポートで、ディープフェイク(AIの技術を使って、本人とそっくりのニセ映像を作ること)をテーマとして取り上げた(注1)。当時のディープフェイクは一部のプログラムスキルをもった特別な人が扱える特殊な技術であったが、AIの進化により誰もが利用できるレベルになっている。既にディープフェイクは、フェイクニュース(嘘のニュース)を拡散するツールとして世間に認識されているが、進化したディープフェイクの技術を使えば自分の精巧な分身を創ることも可能となり、ニューノーマルとなりつつあるオンライン会議における活用が見込める。

コロナ禍によりリモートワークが浸透する中、オンライン会議をする際、あなたはどのような服装をしているだろうか。筆者は在宅勤務をする場合、「上半身」は会社の同僚に見られても違和感のない身なりをしている一方、「下半身」はカメラに映らないためジャージを着て仕事をしている。また、会社の同僚の女性の中には化粧をするのが面倒なため、マスクをすることにより化粧していないことを隠してオンライン会議に出席する人もいる。仮にオンライン会議上でビジネスシーンに適応した「上半身」の分身を創ることができれば、本物の自分自身の服装や寝ぐせなどの見かけに構う必要は無くなるだろう。

2.アバターフェイスの登場

オンライン会議の利用が増える中、常にビジネスシーンに適応する「上半身」を創り出すテクノロジーをアバターフェイスという。事前に自分自身の分身(アバターフェイス)を作成しておくと、オンライン会議上で、事前に登録した分身が本物の表情と同期することにより、本物と見分けがつかないほど精巧に振舞える。

アバターフェイスを創ることが可能なオープンソフトウェア「Avatarify」は、インターネットサイトに公開されており、世界中の誰もが無料で利用できる。実際に筆者自身も「Avatarify」を使い自分自身のアバターフェイスを作成し動作させてみた。最初に「上半身」の写真を登録し、登録した顔写真と自分の顔の表情を同期させることができる。自分自身の精巧な分身となるアバターフェイスは、オンライン会議で顔を出す必要がある場合、十分に本物として通用する品質を確保出来ている(図表1)。

もし、アバターとして自分の顔以外のキャラクターを分身としたい場合は、お気に入りの人物の顔写真を登録すれば良い。実際に「Avatarify」の詳細を解説するgithubの公開ページでは、作者であるプログラマーAli Aliev氏により科学者のアインシュタイン、歌手のエミネム、アップルCEOのスティーブジョブス、肖像画のモナリザ、オバマ元大統領、映画のハリーポッターが動作している動画が公開されており、写真があればどのような人物やキャラクターでもアバターフェイスが創れる(図表2)。

3. 誰もが利用可能なアバターフェイス

また、このように「上半身」を登録し、自分自身と同期することが可能なソフトウェアは日進月歩で進化を遂げており、簡単に利用できるものが登場している。例えば、xpressionと呼ばれるソフトは、たった3ステップで自分の分身となるアバターフェイスを創ることができる。最初にxpressionのソフトウェアをパソコンにダウンロードする。次に自分自身がよく利用するteamsやzoomなどのオンライン会議を起動し、カメラの設定においてwebカメラをxpressioncameraに変更する。最後に自分の顔写真を登録することにより、顔の表情や頭の動きにあわせて、アバターフェイスをリアルタイムで動かせる。例えばスーツ姿を事前に登録しておけば、本当はパジャマ姿で髪がボサボサでも、画面上に登場する画像はスーツ姿で髪も整った状態で登場できる。

コロナウイルス感染拡大前と比べて、オンライン会議に費やす時間は飛躍的に伸びている。コロナ禍が長くなるにつれ新たに発生している問題として、オンライン会議の相手からずっと画面越しに見られているため気を抜けないといった「オンライン会議疲れ」が指摘されている。アバターフェイスを取り入れることは、緊張せずにオンライン会議に臨めるため、「オンライン会議疲れ」から解放される効果を期待できるだろう。以前は、アバターフェイスのテクノロジーを使うことは一部のスキルがある人、資金がある人に限られていたが、誰もが利用できる進化を遂げた今、自分のアバターフェイスを創ることは容易になった。オンライン会議がニューノーマルとなる中、パソコンやスマートフォンの画面上に表示されるアバターフェイスは、心理的に自分自身の顔を出したくない時に気軽に利用できる。

アバターフェイスのように自分自身の分身を創り出すことが可能なテクノロジーは日進月歩で進化している。あなたが見ている画面越しの相手は精巧に創りこまれた分身なのかもしれない。


[1] 柏村祐「「ディープフェイク」の衝撃 ― 最新 AI が作り出す衝撃の映像 ―」

http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/pdf/ldi/2018/wt1810b.pdf

柏村 祐


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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