インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

内外経済ウォッチ『アジア・新興国~マレーシア景気はトランプ関税前に頭打ち、先行きも視界不良が続く~』(2025年6月号)

西濵 徹

目次

米中の「板挟み」に直面しているマレーシア経済

世界経済と国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。米国はすべての国に一律10%の関税を課し、一部の国に関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を発表した。米国は一律部分に加え、上乗せ部分も一旦発動させたが、直後に中国以外への上乗せ分を90日間延期した。その後も、米国は対中関税を90日間引き下げるなど、政策は二転三転している。米国はマレーシアへの相互関税率を24%としたが、同国の対米輸出額は名目GDP比で1割に達する。仮に相互関税がすべて発動されれば、実体経済への深刻な悪影響は避けられない。

こうした中、中国の習近平国家主席は同国などASEAN3ヶ国を歴訪して団結を呼びかけた。両国の首脳会談では経済協力の加速を図ることで合意した模様である。また、マレーシアは昨年のBRICS首脳会議で加盟を見据えた「パートナー国」となった模様であり、今後は加盟手続きが促進されると見込まれる。他方、ここ数年の同国の対中輸出は頭打ちとなる一方、対照的に対米輸出は拡大してきた。先行きはトランプ関税により対米輸出に下押し圧力が掛かる一方、米中摩擦が中国経済の足かせとなることに鑑みれば、仮に中国との経済協力が加速したとしても対中輸出の伸びしろは限られよう。同国経済はASEAN内でも輸出依存度が極めて高い国のひとつであるが、外需を取り巻く環境が一段と悪化することは避けられない。

図表
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トランプ関税を前にすでに景気は頭打ちの様相

マレーシア経済を取り巻く環境は厳しさ増すなか、昨年末にかけての景気はトランプ関税を前にすでにブレーキが掛かる動きが確認された。さらに、今年1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+4.4%と前期(同+5.0%)から一段と鈍化している。なお、前期比年率ベースの成長率は+3.01%と前期(同▲4.45%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じたと試算されるなどリセッション(景気後退局面)は回避されたものの、勢いを欠く動きをみせる。

先行きは景気下支えへ財政政策への依存度が高まると予想される。しかし、公的債務残高はコロナ禍を経て急上昇し、足元では法定上限(GDP比65%)に限りなく近づいている模様である。政府は、今年度予算の歳出規模を過去最大とする一方、増税や燃料補助金の削減などで財政赤字の圧縮を図るとしている。足元のインフレ率は比較的落ち着いた推移をみせているが、燃料補助金や最低賃金の大幅引き上げは物価を押し上げると予想される。このため、中銀は『様子見姿勢』を維持せざるを得ない状況が続く。他方、過剰生産能力を抱える中国からの輸入が拡大し、安い中国製品の輸入拡大による『デフレの輸出』を通じて製造業などは厳しい価格競争に晒される懸念もある。政府は今年の経済成長率見通しを+4.5~5.5%とするが、外部環境の厳しさに鑑みれば大幅な下方修正は避けられず、困難に直面する可能性は高まっている。

図表
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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