- HOME
- レポート一覧
- 第一ライフ研レポート
- 内外経済ウォッチ『アジア・新興国~マレーシア景気はトランプ関税前に頭打ち、先行きも視界不良が続く~』(2025年6月号)
- 第一生命経済研レポート
-
2025.05.20
アジア経済
マレーシア経済
トランプ関税
内外経済ウォッチ『アジア・新興国~マレーシア景気はトランプ関税前に頭打ち、先行きも視界不良が続く~』(2025年6月号)
西濵 徹
米中の「板挟み」に直面しているマレーシア経済
世界経済と国際金融市場は、米トランプ政権の関税政策に翻弄されている。米国はすべての国に一律10%の関税を課し、一部の国に関税障壁に応じて税率を上乗せする相互関税を発表した。米国は一律部分に加え、上乗せ部分も一旦発動させたが、直後に中国以外への上乗せ分を90日間延期した。その後も、米国は対中関税を90日間引き下げるなど、政策は二転三転している。米国はマレーシアへの相互関税率を24%としたが、同国の対米輸出額は名目GDP比で1割に達する。仮に相互関税がすべて発動されれば、実体経済への深刻な悪影響は避けられない。
こうした中、中国の習近平国家主席は同国などASEAN3ヶ国を歴訪して団結を呼びかけた。両国の首脳会談では経済協力の加速を図ることで合意した模様である。また、マレーシアは昨年のBRICS首脳会議で加盟を見据えた「パートナー国」となった模様であり、今後は加盟手続きが促進されると見込まれる。他方、ここ数年の同国の対中輸出は頭打ちとなる一方、対照的に対米輸出は拡大してきた。先行きはトランプ関税により対米輸出に下押し圧力が掛かる一方、米中摩擦が中国経済の足かせとなることに鑑みれば、仮に中国との経済協力が加速したとしても対中輸出の伸びしろは限られよう。同国経済はASEAN内でも輸出依存度が極めて高い国のひとつであるが、外需を取り巻く環境が一段と悪化することは避けられない。

トランプ関税を前にすでに景気は頭打ちの様相
マレーシア経済を取り巻く環境は厳しさ増すなか、昨年末にかけての景気はトランプ関税を前にすでにブレーキが掛かる動きが確認された。さらに、今年1-3月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+4.4%と前期(同+5.0%)から一段と鈍化している。なお、前期比年率ベースの成長率は+3.01%と前期(同▲4.45%)から2四半期ぶりのプラス成長に転じたと試算されるなどリセッション(景気後退局面)は回避されたものの、勢いを欠く動きをみせる。
先行きは景気下支えへ財政政策への依存度が高まると予想される。しかし、公的債務残高はコロナ禍を経て急上昇し、足元では法定上限(GDP比65%)に限りなく近づいている模様である。政府は、今年度予算の歳出規模を過去最大とする一方、増税や燃料補助金の削減などで財政赤字の圧縮を図るとしている。足元のインフレ率は比較的落ち着いた推移をみせているが、燃料補助金や最低賃金の大幅引き上げは物価を押し上げると予想される。このため、中銀は『様子見姿勢』を維持せざるを得ない状況が続く。他方、過剰生産能力を抱える中国からの輸入が拡大し、安い中国製品の輸入拡大による『デフレの輸出』を通じて製造業などは厳しい価格競争に晒される懸念もある。政府は今年の経済成長率見通しを+4.5~5.5%とするが、外部環境の厳しさに鑑みれば大幅な下方修正は避けられず、困難に直面する可能性は高まっている。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
タイ中銀、景気の急ブレーキ、バーツ安一服を受け、様子見姿勢を継続 ~インフレ鈍化やバーツ相場持ち直しの一方、先行きも難しい政策運営は続く~
アジア経済
西濵 徹
-
強含みする豪ドル、追加利上げ観測が引き続き堅調さを促すか ~RBAの「タカ派」姿勢の後押し材料は多く、ワーホリ規制の動きが影響する可能性も~
アジア経済
西濵 徹
-
米国がイランへの制裁強化発表も、事態打開の見通しは立たず ~米国は二次制裁の拡大を発表、イランも徹底抗戦の構え、事態のさらなる長期化も~
新興国経済
西濵 徹
-
円と対照的な値動きをみせるウォンの行方を左右する韓国中銀人事 ~「タカ派」の上級副総裁の交代後も追加利上げの可能性は残り、ウォンは強含みが続くか~
アジア経済
西濵 徹
-
中国政府・中銀が連名で内需喚起策発表も、大規模対策には距離 ~中小・零細民間企業や家計への支援拡充も、大規模な景気刺激策には慎重姿勢~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
アジア・パシフィック経済マンスリー:2026年8月 ~AI需要が外需をけん引、インフレは多くの国で鈍化~
アジア経済
阿原 健一郎
-
台湾・7月輸出受注、半導体などをけん引役に過去最高額に(Asia Weekly) ~世界的なAI・半導体関連投資の旺盛さが輸出受注を押し上げる展開が続く~
アジア経済
西濵 徹
-
インド・7月インフレ率は+4.45%と目標(中央値)を上回る(Asia Weekly) ~マレーシア、シンガポールの4-6月GDPはともに上方改定~
アジア経済
西濵 徹
-
マレーシア・アンワル陣営が地方選で2連敗、早期の解散・総選挙か ~金融市場では早期の解散・総選挙観測が強まる一方、政局が流動化する可能性に懸念~
アジア経済
西濵 徹
-
台湾・6月輸出受注は半導体をけん引役に過去最高更新(Asia Weekly) ~外需の堅調さを反映して生産も拡大の動きが続いている~
アジア経済
西濵 徹

