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内外経済ウォッチ『欧州~ドイツ連立崩壊で政治安定に綻び~』(2024年12月号)

田中 理

目次

経済不振に加えて、政治不安がドイツを襲う

米大統領選挙の結果判明から数時間後、ドイツの連立政権が崩壊し、来年秋の議会任期満了を待たずに連邦議会選挙が行われる可能性が高まった。中道左派、環境政党、リベラル政党の3党によるドイツの連立政権は、2021年の発足以来、財政運営や気候変動対策などを巡る意見相違から政策が停滞し、支持率の低迷が続いてきた。最近でも来年度の予算審議で、ドイツ独自の財政均衡規定(債務ブレーキ)の遵守に必要な財政の穴埋めを巡って対立が表面化していた。

近年のドイツ経済は、ロシアによるウクライナ侵攻後のエネルギーコストの上昇と産業空洞化、中国の経済不振と電気自動車(EV)対応の遅れによる自動車産業の経営難、財政健全化を優先した長年の投資不足とインフラ老朽化、高齢化の進展と人手不足、産業の新陳代謝やイノベーションの弱さなどの構造問題が足を引っ張り、低迷が続いている。保護主義的な政策を掲げるトランプ氏の米大統領選の勝利を受け、ドイツ経済や主力の輸出産業への更なる打撃が懸念される。連立政権を率いるショルツ首相は、債務ブレーキの緊急条項発動で一段の財政引き締めを回避し、経済再生や生活支援に回すべきと主張したが、財政規律を重視する連立パートナー党首のリントナー財務相がこれを拒否した。ショルツ首相は同氏の財務相解任を決断し、連立政権の崩壊が決定的となった。

来年春に総選挙前倒しで政権交代へ

ショルツ首相は、今会期の重要な立法作業を進めたうえで、来年1月に内閣信任投票に臨む意向を示唆している。野党勢はより早期の信任投票実施を求めており、来年春までに前倒しの議会解散・総選挙が行われる公算が大きい。各種の世論調査では、連立与党の支持率が低迷しており、かつてメルケル元首相が率いた最大野党の保守政党が政権を奪還する可能性が高い。だが、安定した政権運営に必要な議会の過半数を獲得するのは困難とみられている。保守政党と政策距離の近いリベラル政党は、議席獲得に必要な得票率5%に届かない可能性が高い。一方、排外主義的な主張が目立つ極右政党との連立を否定している。連立相手となりそうなのは、現政権を率いる中道左派政党、連立に参加する環境政党、旧東ドイツの支配政党の流れを汲む新興左派政党。支持率が低迷する現与党勢が党勢回復を優先し、政権参加を見送る場合、親ロシアでウクライナ支援に否定的な新興左派政党が政権に参加することになる。

資料1 主要先進国の実質GDPの推移
資料1 主要先進国の実質GDPの推移

今回の連立崩壊は、欧州の盟主ドイツの地盤沈下を印象づける。それと同時に総選挙が前倒しされることで、連立政権のレームダック化による政策停滞が早期に解消する可能性もある。政治不安の先にドイツ再建の道筋が描けるか、次期政権下の財政運営、産業競争力の回復、米国との貿易摩擦への対応などに注目したい。

資料2 ドイツ政党別の得票率と支持率
資料2 ドイツ政党別の得票率と支持率

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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