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内外経済ウォッチ『欧州~ドイツ新首相の手腕はいかに?~』(2025年6月号)

田中 理

目次

メルケル元首相のライバルが新首相に就任

連立崩壊で2月に前倒しの連邦議会(下院)選挙が行われたドイツで5月初旬、二大政党による連立政権が発足した。新たな首相に就任したのは、最大与党で中道右派政党のメルツ党首だ。ショルツ前首相の影が薄かったせいか、ドイツの首相と言えば、2005~21年にかけてドイツを率いたメルケル氏を思い浮かべる読者も多いだろう。メルツ氏とメルケル氏は同年代で、同じ党内の元ライバルだが、あらゆる面で対照的な人物だ。

「ムッター(お母さん)」の愛称で知られ、女性初の首相となったメルケル氏は、プロテスタント系牧師の娘に生まれ、幼少期から旧東ドイツの監視社会で育ち、政界転身以前は物理学者として働いていた。世論の動向に敏感で、スキャンダルや派手さと無縁、慎重で失敗が少なく、熟慮の末に決断するリーダーだった。

メルツ氏は旧西ドイツで育ち、身長196センチの大男。元々は弁護士で、メルケル氏との党内抗争に敗れて一時期政界を離れていたが、その間に民間企業で大成功を収め、党内屈指の経済通として知られる。決断力がある反面、利害関係者間の調整をじっくり行うタイプではない。リベラルで中道寄りの政策を志向したメルケル氏と異なり、より保守的で右派寄りの考えを持つ。ドイツの歴代首相は、州首相や閣僚の経験者が多いが、メルツ氏は何れの経験もなく、指導力を不安視する声も一部にある。構造不況に陥ったドイツ経済の立て直しに手腕を発揮することが期待されている。

図表
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経済、国防、政治など課題が山積

新政権には課題が山積している。欧州最大の経済大国ドイツは、エネルギー価格の高騰で産業競争力を失い、頼みの中国市場でも販売不振が続き、トランプ関税の影響が直撃するなど、不振に喘いでいる。また、米国のトランプ政権は、欧州諸国に対して、ウクライナ支援や地域防衛で、より積極的な貢献を求めている。政権発足に先駆けて、新政権を支える二党が中心となり、柔軟な財政運営の障害となっている独自の財政ルールの見直しに着手した。国防費を財政ルールの対象から除外するとともに、インフラや気候変動関連に充てる特別基金の創設で合意した。

国内の政治環境も不安定だ。過半数を上回っているとは言え、二党の合計議席は歴代政権の中で最も少ない。政権発足に向けたメルツ氏の首相指名投票では、連立与党内から造反者が出て、過半数に届かない異例の事態となった。2回目の投票で政権発足に漕ぎ着けたが、新政権は一枚岩ではなく、政策遂行能力に疑問符が付く。また、ドイツでは近年、反移民や自国第一主義を掲げる極右政党の台頭が著しい。2月の議会選挙で第二党に躍進した極右政党は、選挙後に一段と支持を伸ばし、一部の世論調査で首位に浮上している。経済立て直しや移民問題で信頼回復に失敗すれば、極右の更なる伸張をもたらす恐れがある。メルツ氏は今年2月、極右の協力で移民規制の強化法案を議会で通そうとした。極右の台頭にどう対処すべきかや与党内の調整にも不安を覚える。

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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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