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ESGインサイト『実効的な「パートナーシップ構築宣言」とするために』

加藤 大典

目次

パートナーシップ構築宣言とは

パートナーシップ構築宣言(以下、「宣言」)とは、事業者が、サプライチェーン全体の付加価値向上、大企業と中小企業の共存共栄を目指し、「発注者」側の立場から、「代表権のある者の名前」で宣言するものである。2020年5月に開催された経済界・労働界の代表及び関係閣僚をメンバーとする第1回「未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」(以下、推進会議)において、「宣言」の枠組みが導入された。

「宣言」では大きく2つ、(1)サプライチェーン全体の共存共栄と新たな連携(以下、「新たな連携」)、(2)下請企業との望ましい取引慣行(以下、振興基準)の遵守について宣言する。

宣言文作成のための「ひな形」と記載要領が提供されており、宣言文は、原則そのまま引用する「定型記載部分」と、各社で修正が可能な「個別記載部分」がある。個別記載部分は、(1)「新たな連携」については、企業間の連携、IT実装支援、専門人材マッチング、グリーン化の取組、健康経営に関する取組の中から取組項目を特定し、取組内容を具体的に記載する。また(2)振興基準の遵守については、取引適正化の重点5課題(①価格決定方法、②型管理などのコスト負担、③手形などの支払条件、④知的財産・ノウハウ、⑤働き方改革等に伴うしわ寄せ)に関して宣言する。なお、企業グループとしての宣言は受け付けられず、同一グループ内であってもそれぞれの企業ごとに宣言する。

2024年9月末現在、宣言企業数は54,800社を超えてきているが、いくつか基本的な課題もある。本稿では3点指摘し、私見を述べたい。

課題1:大企業の「宣言」を増やしたい

サプライチェーンの頂点にいる大企業による宣言の拡大を求める声は、中小企業や地方の現場には根強い。2023年12月の第5回推進会議における内閣府の資料によると、2023年12月15日時点で37,867社が宣言しているが、大企業(資本金3億円超)の宣言は1,844社であり、約1万社(2021年6月。中小企業庁取りまとめ)ある大企業の約18%の宣言率である。

日本経済団体連合会(以下、経団連)について見ると、2024年4月12日時点で宣言済の会員企業は883社、宣言率は56.7%である。この点に関連して経団連は、企業の責任ある行動原則として1991年より「企業行動憲章」を制定し、全ての会員企業・団体にその遵守を求めている。順次見直しを行ってきており、最近では2024年5月に改定した。「サステイナブルな資本主義を実現するためには、大企業が率先して、自社における分配構造の見直しや取引の適正化などを行い、サプライチェーン全体での共存共栄関係を構築することが必要」との認識を示すとともに、「『宣言』の趣旨をさらに徹底し、取引の適正化をソーシャル・ノルム(社会的規範)として一層推進していくため」というのが、今般の改定の趣旨である。

経団連の憲法とも言うべき「企業行動憲章」が改定されたことで、経団連会員企業の宣言率が向上すること、さらにはその好影響が社会に伝播し、広く大企業の宣言が増えていくことを期待したい。

課題2:「宣言」の周知が消極的

経済産業省は、宣言企業の取組状況を把握し、宣言の実効性の向上につなげるため、「下請企業調査」と「宣言企業調査」を実施している。

「下請企業調査」は、資本金3億円超の宣言企業のうち、3社以上と取引実績をもつ受注側企業を調査対象にした「下請企業による宣言企業の評価」である。「宣言企業調査」は、宣言企業を調査対象にした「宣言企業の自己評価」である。

直近の「下請企業調査」によると、「発注側企業が『宣言』をしているかどうか」について64%の企業が認知していると回答している。しかし、「発注側企業について調べて初めて知った」との回答が多い(資料1)。

図表
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また「宣言企業調査」によると、「取引先に対する『宣言』の周知」について、大企業は宣言文をHPに掲載、プレスリリースの実施といったプル型の周知が多い。一方で中小企業は、打合せ等において口頭で周知している企業が多い。なお、「周知していない」企業も中小企業で27.1%、大企業で16.6%ある(資料2)。

図表
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広く周知してこそ真の「宣言」であろう。まずは周知していくこと、特に大企業には「HP等で発信済」に留まらずプッシュ型発信の実施も望みたい。

課題3:「新たな連携」に関する要望と実施状況のギャップ解消が必要

「新たな連携」に関して、下請企業は「働き方改革」や「人材育成・人材マッチング」等について発注側企業(宣言企業)への期待が大きい。一方で、宣言した大企業が取引先と連携・支援している取組は「グリーン化」などが多く、要望項目と実施項目にギャップが生じている(資料3)。

図表
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「宣言」の趣旨を踏まえれば、発注者側の配慮が望まれよう。宣言した大企業には、「取引先企業(下請企業)の支援・連携要望に応える」という視点の再確認と、支援・連携取組のさらなる拡充を期待したい。

実効的な「宣言」とするためには

「宣言」の実効性向上に向け、経済3団体(経団連、日本商工会議所、経済同友会)は連名で、繰り返し会員企業への呼びかけを行っている。2024年1月には、特にサプライチェーン上位に位置する大企業、中堅企業に対して、「宣言」の趣旨の徹底と実行を強力に進めるとともに、未宣言企業に対して「宣言」への参画を呼びかけることを含む要請「構造的な賃上げによる経済好循環の実現」を取りまとめている。具体的には、「1.経営者自らが先頭に立った、取引適正化への取組み強化」「2.労務費を含む適切な価格転嫁の推進」「3.サプライチェーン全体の成長に向けた取組み」である。

「1」の記述に、「大企業等の発注者は、受注者である中小企業等の要請に真摯に向き合うとともに、中小企業等の受注者は、臆することなく価格交渉を申し入れ、価格転嫁を新たな商習慣としていく。」とある。この一文には企業規模間の関係性が端的に表れている。大企業と中小企業の双方が、高潔さや謙虚さ、誠実さ等に基づく対話を重ね相互理解を深めることができるかどうかが、実効的な「宣言」とするための鍵だろう。

加藤 大典


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

加藤 大典

かとう だいすけ

総合調査部 主席研究員
専⾨分野: 環境

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