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- 内外経済ウォッチ『日本~手放しでは喜べない日本の株高~』(2024年3月号)
春先にかけ調整も
年明け以降、日経平均株価が約34年ぶりに3万6000円を突破した。しかし、この株価上昇には手放しでは喜べない側面もある。というのも、1月の株価上昇は物価高を反映した実質賃金の悪化を示すデータが公表されたことも一因になっているからである。背景には、23年春闘の賃上げ率が30年ぶりの高水準となって、定期給与は上昇したが、その負担が増えた企業はボーナスなどの特別給与を減らして、人件費総額を抑制していることがある。
このため、年明けに能登半島地震が起き、日銀がマイナス金利を早期に解除するとの見方は既に後退気味だったところに賃金データでその観測が一段と後退し、利上げや円高で企業収益が低下することへの警戒感も薄れて株価上昇に結び付いた可能性がある。
また、日本の最大の貿易相手国である中国では、不動産バブル崩壊や米国を中心としたサプライチェーンからの中国排除の動きなどによって、投資資金が海外に流出している。その資金の受け皿の一つとなっているのが日本であることも、日本株の下支え要因となっているようだ。
加えて、23年12月時点で米連邦準備制度理事会(FRB)が24年中に3回の利下げを見込む一方、米国のインフレが当初の想定以上に減速しているとして、市場は6回もの利下げを織り込み、これに伴う米国株上昇も日本の株高をけん引してきた。
ただ、日銀は過去の賃金よりも今後の賃金動向を重視している。仮に24年春闘が前年よりも良い結果になれば、3月以降の日銀金融政策決定会合でマイナス金利を解除する可能性があるだろう。
また市場では、FRBが早ければ5月から利下げに踏み切ると予想しているが、仮に5月に近づくにつれて市場の見立てよりも利下げのタイミングが遅れる蓋然(がいぜん)性が高まれば、米国株にはネガティブな材料となるだろう。そうなれば、日本株を押し上げてきた複数の要素が剥落するため、春先にかけて値下がりの調整局面を迎える可能性もあることには注意が必要だろう。
日銀はマイナス金利解除に前向き
こうした中、日銀は1月22、23日に開いた金融政策決定会合で、事前の市場予想通り政策変更を見送った。しかし、同時に公表された展望リポートや、会合後に開かれた植田総裁の記者会見は、短期金利をマイナス0.1%とするマイナス金利政策の解除が近づいていることを市場に織り込ませるような内容となった。
まず、展望リポートでは、2025年度までの見通し期間の終盤にかけて、基調的なインフレ率が2%に向けて徐々に高まっていくとの記述に「こうした見通しが実現する確度は引き続き、少しずつ高まっている」との一文が新たに加わった。これは、物価安定目標の実現に向けて徐々に前進していると日銀が評価していることを意味する。
また、植田総裁は政策判断に当たって重視する今春闘の賃上げについて、次回3月の決定会合までに「ある程度の情報が得られる」と語った。23年12月の会見では、総裁自身の「チャレンジング」発言を機に市場で高まったマイナス金利解除の観測を鎮静化させる姿勢を示していたが、今回の発言はスタンスが明らかに異なる。
このため、年明けの能登半島地震や23年11月分の実質賃金悪化などによって遠のいていた3月会合でのマイナス金利解除観測が、市場で再び高まりつつある。そして、こうした一連の流れが素直に受け入れられ、市場は金利上昇・円高・株安で反応している。
実際には、次々回の4月会合でマイナス金利が解除される見通しが一段と強まったと考えられる。というのも、3月18、19日の次回会合は決算期末の直前で、市場変動が企業の財務に影響するのを避けたい事情もあり、政策修正の可能性は4月会合より低いとみられるからである。しかし、今回の日銀の前向きな姿勢を加味すれば、春闘集中回答日直後の3月会合で解除を決める可能性も警戒すべきだろう。
永濱 利廣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 永濱 利廣
ながはま としひろ
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経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析
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