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Well-being QOLの視点『年金か一時金か それが問題だ』

岡田 浩介

各企業が従業員の老後のために設ける確定給付企業年金(以下DB)の加入者は930万人、企業型確定拠出年金(以下DC)の加入者は782万人となっており(2022年3月時点、厚労省資料による)会社員にとって老後資金の大切な柱になりつつある。その一方で加入者を悩ませている問題がある。よく言われているのがDCにおける「いかに運用するか」という問題であるが、これについては投資教育の充実や運用商品絞り込みなどの対策も講じられている。

もう一つは「年金か一時金か」である。実はDB、DCともに年金制度でありながら多くの企業で一時金での受け取りも可能とされており、どちらを選択するかは加入者にとって非常に大切な判断である。本稿ではその点について考えてみよう。

まず金利や運用環境である。特にDBにおいては年金で受け取る場合は年金制度ごとに定められた金利である「給付利率」を付加した形で支払っており、一時金よりも総受取額は多くなるのが一般的である。給付利率は企業により異なっているので確認が必要だが、現在でも高めの設定を行っている場合はそれなりの魅力がある。例えば給付利率2.5%、一時金で受け取ると2,000万円というケースでは、20年確定年金で受け取れば年額約126万円、総額では約2,530万円と大きな差がある。

もっとも単純な金額比較には意味がない。例えば「自ら株式等でそれ以上の運用ができる」自信のある場合や「近いうちに銀行預金金利が給付利率を上回る」と予想する場合は一時金で受け取り自ら運用したほうが有利となる。今後の利上げの可能性を考えると後者を忘れてはならない。なお住宅ローン等の債務残高がある場合、その金利が給付利率を上回っていれば一時金で受け取り、繰り上げ返済に回せば同じく有利である。一方DCについてはDC制度内で自ら運用しつつ年金を受け取ることも可能であり、DBとは事情が異なる。

厄介なのは税制である。DB、DCともに一時金で受け取れば退職所得、年金で受け取れば雑所得(公的年金等控除の対象)が原則である。それぞれの税額の計算方法を書く紙幅は無いし、金額水準や勤続年数でも状況が異なるのだが、一般には退職所得として(つまり一時金で)受け取ったほうが有利になるケースが多い。先ほどの「一時金なら2,000万円、年金なら年額約126万円」というDBの例において勤続40年、公的年金受給額が年額200万円という前提で税額を計算してみよう。一時金で2,000万円を受け取る場合は税額ゼロとなるのに対し、年金で年額約126万円を受け取ると(家族構成や年齢にもよるが)所得税・住民税合わせて概ね20万円前後が課税されることになる

さらに税金以外にも社会保険料の算定から公営住宅の入居、各種福祉サービスの利用まで所得を基準とすることが多く、一時金より年金のほうがその算定対象になりやすい。また我が国の財政状況を考えると税金・社会保険料は将来的には負担増となるリスクがあり、受給期間が長期となる年金のほうがそのリスクに直面しやすい。

まとめると、一時金のほうが有利な傾向があるものの、特にDBにおいて給付利率と将来の市場金利等予想によっては年金も考慮したほうがよさそうである。勤め先の年金制度はどうなっていたか、そして今後の金利動向や財政・税制はどうなるのか、じっくり考える必要がありそうだ。既に退職所得に関する税制については改正が議論されはじめており、注意を要する。

DB,DCの受給方法という個人的問題も日本経済全体の動きと無縁ではない。

(本稿の内容・試算数字等は一定の前提を置いて計算した概算目安です。またお勤めの企業等により異なる制度の場合もありますのでご注意ください。)

岡田 浩介


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。