注目のキーワード『メタバース留学』/編集後記(2022年12月号)

神村 玲緒奈

新型コロナウイルス感染症の拡大によって、日本人の海外留学生が激減しています。日本学生支援機構によれば、2018年度には約11.5万人だった日本人海外留学生は、20年度には1,500人程度に減りました。22年現在はコロナ禍の影響が徐々に収まりつつあるものの、足元の円安や世界的な物価高などの影響によって海外留学費用は高騰しており、海外留学のハードルは依然として高い状況です。

こうした中で一部の高校や大学では、VRの仮想空間を利用して疑似的に海外留学を経験する「メタバース留学」を活用する動きが始まっています。これまでもオンライン英会話などのサービスは存在していましたが、「メタバース留学」ではさらに効果的な学習をすることができます。

例えば、特定のシチュエーション(空港、スーパーマーケット、ホームステイ先等)の仮想空間でコミュニケーションを取ることで、外国語を使う場面がリアルに感じられ、実践的な力を身に付けることができます。さらに、バーチャルな教室の中で海外の学生たちを相手にディスカッションやプレゼンテーションをすることで、聞き手を意識した発信力を磨くことも可能です。また、仮想空間には多様な国籍の学生同士も集まりやすく、グローバル意識や異文化理解の醸成にも繋がりやすいといった利点もあります。これらの実践的な経験は、学生たちに自然と「外国語を使って伝えたい」という気持ちを呼び起こし、主体的な学び(アクティブラーニング)を促す効果が期待されます。

もちろん、実際の留学と比べると、「メタバース留学」を通じて得られる経験や学びは限定的になってしまいます。加えて、現在主流のVRヘッドセットは装着するにはやや重く、また非常に高額なものが多い等の難点があり、まだまだ普及には時間がかかりそうです。しかし、メタバース関連の技術は世界中で開発が進められているため、将来的にはこうした諸課題が解決され、リアルな留学体験が実現されていく可能性は高いと考えられます。ウクライナ侵攻などによって世界の国々の内向き傾向が強まる今こそ、こうした新しいテクノロジーを駆使しながら、世界とつながり続けることは大きな意義があるのではないでしょうか。

(総合調査部・課長補佐 神村 玲緒奈)

編集後記

2022年も残り1か月、師走、年末に突入であるが、世の中の雰囲気が今年は例年以上にそうした季節感に乏しいような気がしている。通常は夏から秋、冬と徐々に季節が進んでいくものだが今年は「秋、あったっけ?」というぐらい急に寒くなったりしたことも影響しているのかもしれない。

今年はコロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、インフレ、利上げが金融市場のメインテーマだった。主要国ではコロナ禍での制限解除が進む一方、中国でのゼロコロナへの拘りは世界のサプライチェーンを混乱させた。ウクライナ侵攻はポスト冷戦時代の終わり、安全保障の枠組みを変える歴史的大事件と言えるもの。“インフレ懸念の高まり”でなく“インフレ”はコロナ禍による一時的なものという楽観論を打ち砕いて未だ天井は見えない。春先には米FFレートが長期的均衡点と考えられる2.5%を大きく超えることはないのでは?という見方が大勢であったが4%を超えてもなお利上げがありそうだ。

英国の混乱、中国の新しい政権。ますます混迷の度が高まっている感じもする。1990年代以降積み上げてきた“常識”が悉く打ち破られていることから、今回の一連の動きは循環的な話、一時的な話ではなくグローバル経済、柔軟な供給体制、ディスインフレといった1990年代以降の構造が変わろうとしているのだ、終わった、元には戻らない、という見方が出てくるのは理解できる。一方で、構造変化説は大きな混乱が起きると必ず出てくる意見である。今回はコロナ禍というこれまでにない形で経済に負荷がかかったことによる一時的なものであり、少し時間はかかるがコロナ禍前の経済に戻れるとする見方も根強い。2023年には答えが見えてくるのだろうか。

(H.S)

神村 玲緒奈


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神村 玲緒奈

かみむら れおな

総合調査部 政策調査G 課長補佐(~23年3月)
専⾨分野: 教育政策、地方創生

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