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注目のキーワード『『一般歳出』と『一体改革』』/編集後記(2022年10月号)

松村 圭一

目次

国の令和5(2023)年度予算の編成作業は、既に今夏前から始まっています。大まかに言うと、6月に閣議決定された「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」で翌年度予算の方向性が示され、これを受けて財務省が各省の予算規模である概算要求基準を提示、各省は8月末までに財務省へ概算要求を提出します。目下は財務省がこの要求を査定している段階で、12月に政府予算案を決定した後、年明け1月からの通常国会で審議し、3月末までの成立を目指します。概算要求段階での歳出総額は過去最大となった22年度に続き2年連続で110兆円を超え、過去2番目の大きさになっています。

これだけ巨額の予算ですが、力強い日本経済の構築や周辺国のリスク等に対応するために使える予算は極めて限られたものになっています。今年度当初予算107.6兆円を例にとると、ここから義務的経費である、国債の利払い・償還に充てられる国債費(24.3兆円)と地方自治体に交付される地方交付税交付金等(15.9兆円)を除いた、国の政策実施に当てられる支出を「一般歳出」(67.4兆円)といいます。既に一般歳出の段階で予算総額の6割強になってしまっていますが、このうち過半(54%)の36.3兆円が年金や医療・介護といった社会保障関係費です。1990年には32%だった一般歳出に占める同経費は、高齢化等に伴いおよそ30年で20ポイント以上増え、さらに今後も増加が見込まれます。一方で、経済成長の基盤を形作る文教・科学振興費は90年の14%から22年には8%に、防衛費も12%から8%に低下しています。

2012年、当時の与党民主党と野党の自民党・公明党は日本の将来を考え、党派を超えて3党合意を結び、消費税率の5%から10%への引上げをはじめとした、社会保障・税一体改革関連法案が成立しました。あれから10年が経過し、日本を取り巻く諸環境も大きく変わっています。与野党が当時のように国益を考え、早急に「令和の一体改革」に向けた議論を始めることを望みます。一般歳出が社会保障関係費に占拠される前に。

 (取締役総合調査部長 松村圭一)

編集後記

最近はこの欄で「インフレ」、「金融政策」を取り上げることが多くなってきたが今月もそんな話を書いてみたい。8/25~27の3日間、年に一度のFRB主催のジャクソンホール会議があった。注目されたパウエル議長の講演は全体で9分。冒頭の挨拶で「今日は簡潔に、的を絞って、より直接的にお話します」とした通り、インフレとの闘いこそFRBの責務であり相当のコストを払ってもやり遂げると宣言する内容だった。

言っていること自体はこれまでも議長はじめ他の地区連銀総裁達が発言してきた内容を超えるものではなかったものの、微かに市場に優しいパウエル議長を期待する向きもあったことから株式市場は意外に大きな反応をしていた。市場はまだディスインフレ時代の考え方から抜け出せていないのかもしれない。

振り返ってみれば、昨年8月の同会議ではCovid19対応の1200億ドル/月の債券買入れを実施中で、2021年内にはテーパリング開始、2022年前半には利上げ環境整う…ぐらいの判断であり、インフレは一時的という認識がまだまだ優勢だった。それもそのはずでインフレの理由はCovid19でありパンデミックが下火になればほっておいても落ち着いてくるはず、というのがコンセンサスだったが。

私たちは何かを見落としたのだろうか。成長の糧が「もの」から情報になり供給力の壁は意識する必要もなくインフレは死語になるんじゃなかったのか。ディスインフレの時代はたまたまだったのか?世界は構造的屈折点を超えてしまったのか?FRBが1年も経たずに180°違う考え方になった理由をもう少し詳しく説明してほしい気もするが、それを理解し整理するのも私たちの仕事ということだろう。

(H.S)

松村 圭一


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